3. 異世界の探索と噂
翌朝、俺は村を散策することにした。
フロン村は、確かに小さな村だった。住民は三十人にも満たないだろう。畑では作物が育てられ、家畜も飼われている。自給自足の生活のようだ。
村人たちは、俺が挨拶すると、最初は戸惑った様子を見せたが、やがて笑顔で返してくれる人も増えた。特に子供たちは、珍しそうに俺の周りをチョロチョロとついてくる。その無邪気な笑顔を見ていると、自然と心が和んだ。
村の老人、ハルじいと話す機会を得た。彼はこの村で一番の年長者で、様々な知識を持っているようだった。
「ヤマトさん、あんたのその剣、見事なもんじゃな。こんな見事な剣を見たのは初めてじゃよ」
ハルじいは、俺の腰にある無銘を見て目を細めた。
「これは、俺の故郷の刀という武器だ。この世界には、こういう剣はあまりないのか?」
俺が尋ねると、ハルじいは首を傾げる。
「うむ。この世界では、剣士というものは確かに存在するが、大半は騎士団に所属しておる。そして、彼らが使う剣は、もっと厚みがあり、重いものが多い。あんたさんのような、細身で美しいカタナとやらは、ほとんど見かけんのう」
やはり、俺の刀は珍しいらしい。そして、この世界では魔法という力が存在し、主流であることも、ハルじいの話から分かった。
「この世界では、魔法使いが権力を持つ。特に、宮廷魔導師ともなれば、一国の王に匹敵する力を持つ者もいると聞く。魔物も魔法を使うものが多くてな…この村も、時折、魔物に襲われることがあるんじゃ」
ハルじいの言葉に、俺は納得した。昨日の猪のような化け物も魔物と呼ばれる存在なのだろう。魔法を使うことに特化していた。
「その魔物とやらの退治は、誰がやるんだ?」
「このあたりには、冒険者ギルドの支部が一番近いが、そこから来る冒険者はあまり多くない。だから、村の若者が協力して魔物を退治することもある。もちろん、危険な仕事じゃがのう」
どうやら、この世界には冒険者ギルドという組織が存在するらしい。そこに所属する冒険者という人々が主に魔物の討伐を職としているようだ。
「もし、俺に手伝えることがあれば、言ってくれ」
俺がそう言うと、ハルじいは驚いたように目を見開いた。
「あんたさんが?いや、しかし…あんたさんは旅の人じゃ。危険な目に合わせるわけにはいかん」
「俺は、剣を扱うことには慣れている。それに、世話になった恩もあるしな」
俺がそう言うと、ハルじいは少し考えた後、深く頷いた。
「もしもの時には、頼らせてもらうかもしれんのう。ありがたい言葉じゃ」
その日以降、俺は村の手伝いをしながら、この世界の情報を集めた。畑仕事や薪割り、家畜の世話など、体を使う仕事は苦にならない。俺の動きの速さや力強さに、村人たちは驚きの声を上げることも少なくはなかった。
リリアとも少しずつ打ち解けていった。
あの日は暗くてよく見えなかったものの、彼女は非常に美しい見た目をしている。素朴で汚れた服とは裏腹に、その表情はどこまでも穏やかで、穢れを知らない一輪の花のようである。黄金の髪と、透き通るような碧の瞳はこの世のものとは思えない。
彼女は、日中は畑仕事を手伝い、夜は村の子供たちに読み書きを教えているらしい。
ある日の夕食時、リリアが不安そうな顔で話しかけてきた。
「ヤマトさん、最近、森の奥から変な音が聞こえるんです。獣の鳴き声とは違う、不気味な音で…」
他の村人たちも、頷いている。
「ああ、それは俺も感じていた。気のせいではないだろう」
俺も数日前から、森の奥から不規則な唸り声のようなものが聞こえることに気づいていた。魔物の活動が活発になっているのかもしれない。
翌朝、ハルじいが俺の元にやってきた。その顔は、昨日よりも険しい。
「ヤマト殿、やはり魔物じゃ。村の若い衆が森に入って偵察をしてきたんだが、見たことのない魔物が、森の奥に巣食っておるらしい」
ハルじいの言葉に、村人たちの間に緊張が走る。
「どんな魔物だ?」
「それが…岩でできた、巨大な魔物だと。普通の武器では歯が立たず、魔法もほとんど効かないらしい」
岩の魔物。厄介な相手だ。物理攻撃に強く、魔法にも耐性があるとなると、対処が難しい。
「俺が行こう」
俺は即座に言った。ハルじいは驚き、村人たちもざわめいた。
「しかし、ヤマト殿…」
「この村には世話になった。それに、俺は刀の扱いには自信がある。それに、あの魔物、俺の剣なら斬れるかもしれない」
俺の言葉に、ハルじいの顔に迷いが浮かんだ。だが、村の現状を考えれば、他に頼れる者もいない。
「…わかった。だが、無理はしないでくれ。危険だと思ったら、すぐに戻ってきてほしい」
ハルじいは、苦渋の決断を下したようだった。