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2. 剣と「気」

――二ノ太刀、旋風

体を高速で回転させながら、無銘を縦横無尽に振るう。それは、ただの剣技ではない。俺の周囲に、微かな風の渦が巻き起こる。

火球が風の渦に触れた瞬間、その勢いを失い、不規則な軌道を描いてあらぬ方向へ飛んでいく。


「ナンダト!?」

化け物が戸惑いの声を上げた、ように見えた。いや、確かにそう感じた。

俺が行ったのは、剣技と気の融合だ。「気」とは、空気、生物、土などこの世のすべてのモノが持つ微量な力のことである。地球での長年の修練で培った気を剣に乗せる剣技は、物理的な斬撃だけでなく、風や衝撃といった「力」を生み出し、操ることができる。それは、この世界の魔法とは異なる、俺だけの領域であろう。

火球を突破されたことに動揺した化け物に、俺は容赦なく追撃を加える。


――三ノ太刀、閃光


無銘が、まるで光の筋のように化け物の急所を貫く。硬質な毛も、分厚い筋肉も、俺の刀の前には無力だ。その巨体が大きく傾ぎ、そしてゆっくりと地面に倒れ伏す。やがて光の粒子となって消えていく。残されたのは、化け物がいた場所に僅かに残る、焦げ付いた土の匂いだけだった。


静寂が戻った森の中で、俺は刀を鞘に収めた。体には一切の疲労がない。むしろ、心地よい充足感に満たされていた。


「やはり、おもしろい…」

俺の剣は、まだまだ進化できる。この世界には、未知の強敵や、俺の想像を超える魔法が存在するだろう。新たな冒険が、今始まるのである。

さて、まずはこの世界の情報を集めるか。


森を抜けると、薄暗い獣道が続いていた。道なりに進むと、やがて視界が開け、遠方に小さな村が見えてきた。藁葺き屋根の家々が寄り集まっており、煙突からは白い煙が立ち上っている。人の営みの気配に、安堵と同時に警戒心が芽生える。地球と似ているようで、まったく異なる場所だ。


村に近づくと、土壁でできた簡素な門があった。昼間だからだろうか、門番らしき人物は見当たらない。警戒しつつ足を踏み入れると、数人の村人たちがこちらに視線を向けた。彼らは皆、粗末な麻の服を身につけ、顔には煤や土がついていた。その視線には、好奇心と、かすかな警戒の色が混じっている。


「すまない、ここは何という村だ?」

俺はできるだけ穏やかに問いかけた。言葉が通じるか不安だったが、どうやら問題ないようだ。


すると、若い女が恐る恐る前に出てきた。彼女は両手に大きな薪を抱えていたが、俺の姿を見て薪を落としそうになった。

「え、えっと…ここは、フロン村ですが……旅の方ですか?」

彼女の顔は煤で汚れていたが、大きな瞳には純粋な怯えが浮かんでいた。俺の服装が、この世界の一般的なものと異なるからだろう。動きやすいように仕立てられた黒い道着は、この世界では珍しいのかもしれない。腰に提げた無銘も、彼らにとっては異様に見えるのだろうか。


「ああ、そうだ。道に迷ってしまってな。しばらくこの村に滞在させていただきたいのだが…」

俺は、とりあえず今の状況を説明する。まさか「異世界から来た」などとは言えないだろう。

女は戸惑った様子で、周りの村人たちと顔を見合わせた。すると、少し年配の男が前に出てきた。彼は顔に深い皺が刻まれており、落ち着いた雰囲気を纏っていた。


「旅の方か。こんな場所で一人とは珍しい。宿はないが、よければ空いている納屋がある。そこで休むといい」

男の言葉に、村人たちの間に安堵の空気が流れる。どうやら、俺は怪しい人間ではないと判断されたらしい。


「助かる。恩に着る」

俺は深々と頭を下げた。見知らぬ場所で、いきなり親切にされるとは思わなかった。この村人たちは、純朴で優しい人間が多いのかもしれない。


案内されたのは、村の端にある小さな納屋だった。藁が敷き詰められただけの簡素な場所だが、雨風をしのぐには十分だ。

「ここを使ってくれ。食事は後で運んでくる」

そう言って、老人は去っていった。


一人になった納屋で、俺は改めてこの世界の状況を整理した。

まず、言葉は通じる。これは大きい。次に、化け物の存在。そして、あの現象。俺の知る世界とはまったく異なる法則が働いている。だが、俺の「気」の力は、この世界に対抗できる可能性を秘めている。


問題は、なぜ俺がこの世界に転移してきたのか、ということだ。全く心当たりがない。何か特別な力が働いたのか、それとも偶然か。


夜になり、老人が言っていた通り、誰かが食事を運んできてくれたようだ。暗くてよく見えないが、若い女のようである。食事は、温かいシチューと、固いパン。素朴だが、飢えた体には染み渡る。


「ありがとう」

俺が礼を言うと、女は小さく頷き、すぐに踵を返そうとする。その背中に、俺は思わず声をかけた。

「君は、この村の者か?」

女は振り返り、はにかむように微笑んだ。

「はい。リリアと申します。ヤマトさんは…どこから来られたのですか?」

純粋な好奇心と、少しの怯え。俺は、嘘を重ねることしかできない。

「遠い国からだ。故郷の言葉とは少し違うが、そちらの言葉は理解できる。道中で盗賊に襲われ、全てを失ってしまってな」

苦しい言い訳だが、これが一番無難だろう。リリアは同情するような眼差しを俺に向ける。

「大変でしたね…。この村は小さいけれど、皆で助け合って生きています。ヤマトさんも、困ったことがあったら言ってください」


リリアの言葉に、心が温かくなるのを感じる。彼女の優しさが、この世界に来て初めて触れる人の温かさだった。


その夜、俺は納屋の藁の上で眠りについた。外からは虫の音が聞こえ、二つの月が窓から差し込む光で、納屋の中は幻想的な雰囲気に包まれている。地球では体験できない光景だ。


「何を為すか」


俺がこの世界に飛ばされた意義は何だろう。しばらくはそれを探すために生きてみようか。そんなことを考えながら眠りについた。


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