11. 迷宮
セントラルの街の喧騒が、俺の背後で遠ざかっていく。俺は冒険者ギルドで得た迷宮の地図を手に、その入り口へと向かっていた。地図には、過去の冒険者たちが書き記したであろう、魔物の生息域や危険な罠の場所が記されている。しかし、子供たちが消えたとされる「奥」の部分は、不自然なほど空白だった。
迷宮の入り口は、街の北東に位置する、古びた神殿の地下にあった。苔むした石造りの扉は、まるでこの世ならざる場所への入り口を示すかのように、重々しく佇んでいる。扉の隙間からは、冷たい空気が吹き出し、不気味な気配が漂っていた。
「…ここか」
俺は無銘の柄に手をかけ、ゆっくりと扉を押し開けた。軋む音を立てて開いた扉の向こうには、漆黒の闇が広がっていた。足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。土とカビ、そして微かに血の匂いが混じり合った、独特の臭気が鼻腔を刺激した。
光を灯す。薄暗い光が照らし出したのは、不規則に並んだ石造りの通路だった。壁には、古代の文字らしきものが刻まれているが、俺には読めない。
(子供たちは、こんな場所で…)
静かな怒りが込み上げてくる。弱き者を喰らうもの。それは、俺が最も嫌悪する存在だ。
通路を進むと、やがていくつかの分かれ道が現れた。地図と照らし合わせながら、慎重に進む。迷宮の奥に進むにつれて、魔力の波動が強くなっていくのを感じた。
その時、通路の奥から、微かな物音が聞こえてきた。足音…いや、何かが引きずられるような音だ。俺は身を隠し、音のする方向を警戒する。
やがて、闇の中から現れたのは、黒いローブを纏った人影だった。その手には、ぐったりとした子供の体が引きずられている。
「…やはり、貴様らか」
俺は静かに無銘を抜いた。ローブの男は、俺の存在に気づくと、驚いたように立ち止まった。フードの奥から覗く顔は、まるで感情のない人形のようだ。
男は抱えていた子供を乱暴に地面に放り投げる。その行為は俺の感情をさらに燃え上がらせる。
「貴様らのやっていることは、許されることではない」
俺が刀を構えると、男はローブの袖から、黒い短剣を取り出し、飛びかかってきた。その刃には、不気味な紫色の光が宿っている。
男は叫び、短剣を構えて俺に襲いかかってきた。何度か剣を合わせる。その動きは、冒険者とは異なる、どこか不自然なものだった。
――一ノ太刀、霞斬り
俺の姿が霞む。次の瞬間、男は目の前で崩れ落ちた。その体は、一閃のもとに両断されていた。
「なっ!?」
驚く声が響く。いや、男はすでに事切れている。驚愕したのは、俺自身だった。あまりに簡単に斬れてしまったのだ。人間相手だとは思えない。
(こいつらは…まるで、生きていないかのようだ)
倒れた男のローブが、音もなく切り裂かれる。その下には、不気味な紋様が刻まれた体が露わになった。それは、人間の体とは異なる、異質なものだった。
(やはり、ただの人ではない。これが魔族…いや、聞いていた話とあまりにも違う…)
俺は倒れた子供に駆け寄り、脈を測る。まだ息はあるが、衰弱しているようだ。
「大丈夫だ。すぐに助けてやる」
俺は子供を抱き上げ、迷宮の奥へと視線を向けた。この先に、全ての元凶が潜んでいる。
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