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10. 師との出会い

 夜が明け、リリアの熱は完全に下がった。顔色もすっかり良くなり、深い眠りから覚めたばかりの彼女は、まだ少しぼんやりとした表情で俺を見つめた。


「ヤマトさん…私、どうして…」

 リリアは体を起こそうとするが、まだ力が入らないようだ。俺は彼女を優しく支え、昨晩の出来事を簡潔に説明した。老魔法使いがリリアの魔力の暴走を鎮めてくれたこと、そして彼がリリアの魔法の師となりたいと申し出たことを。


「…魔法の師、ですか?」


 リリアは驚いたように目を丸くした。その時、部屋の扉が再びノックされ、老魔法使いが入ってきた。


「おはよう、嬢ちゃん。体調はどうじゃ?」

 老魔法使いは優しい眼差しでリリアに語りかけた。リリアは、その温かい声に少しだけ緊張を解いたようだ。


「はい…おかげさまで、もう大丈夫です」

「それはよかった。儂はエルドと申す。お主の魔法の才能に惚れ込んだ。よければ、儂から魔法を学んでみないかい?」

 エルドはそう言って、リリアに手を差し伸べる。

「私に、魔法の才能が...」

 リリアは俺とエルドを交互に見て、少し迷うような表情を見せた。しかし、やがてその碧い瞳に強い光が宿る。


「…はい!お願いします!私、ヤマトさんの力になりたいんです!この世界で、ヤマトさんの隣で戦えるようになりたい!」


 リリアは力強く答えた。その言葉には、ただの好奇心だけでなく、俺を守りたいという強い決意が込められていた。エルドは満足そうに頷き、リリアの頭を優しく撫でた。


「よい返事じゃ。では、今日から儂が師じゃ。無理はさせんが、覚悟しておくことじゃな」

 こうして、リリアはエルドを師として、魔法の修行を始めることになった。


(リリアの安全を考えすぎていたかもしれない。成長の邪魔をしてしまっていたようだ)


 リリアの心の強さを目の当たりにして、俺は少しだけ後悔する。彼女の瞳には、新たな目標を見つけた輝きが宿っていた。



 リリアがエルドと共に魔法の修行を始めた後も、俺は子供たちの失踪事件の真相を探り続けていた。ギルドの依頼をこなしつつ、俺は夜な夜な裏通りの酒場「黒猫亭」に顔を出した。ここは腕自慢の冒険者や、いかがわしい情報屋が入り浸る場所だ。店内の喧騒に紛れて、俺はカウンターの隅に座り、耳を傾ける。


「ちぇっ、迷宮の奥が完全に封鎖されちまったぜ。ギルドに理由を聞いても、『調査中』だの一点張りだ。裏があるに決まってる」


 隣の席にいた、顔に傷のある冒険者が忌々しそうにグラスを叩いた。俺はすかさず、新しい酒を注文し、彼に差し出す。


「よければ、これを。迷宮の件、何か知っているのか?」


 男はギョッとしたように俺を見たが、酒を受け取ると警戒を少し緩めた。


「あんた、新顔か? まあいい。最近、この街じゃ黒いマントを羽織った連中がやたらと目撃されてるんだ。奴らが関わってるんじゃないかって噂だぜ。それに、子供の行方不明も増えてるって話も聞く。ギルドがダンマリってのが、どうにも気味が悪いんだよ」


 男はさらに声を潜め、テーブルに肘をついた。


「裏社会の連中も、この件には手を出したがらねぇ。何か、とんでもないものが絡んでるってことさ…」


 俺は黙って頷き、男の言葉の裏を探った。この酒場にいる誰もが、この不穏な空気に気づきながらも、見て見ぬふりをしているようだった。




 ある夜、俺は宿の自室で、集めた情報を整理していた。壁に広げた地図には、迷宮周辺の廃墟や、不審な目撃情報があった場所が印されている。


 リリアの魔力暴走は、この事件と無関係ではない。彼女の持つ強大な魔力が、この街に漂う邪悪な魔力に引き寄せられ、暴走しかけていたのだとしたら…。


「…やはり...」


 俺は地図上の迷宮の場所に指を置いた。全ての謎は、迷宮の奥に隠されている。子供たちを救い出すため、そしてこの街の闇を断ち切るため、俺は迷宮へと向かう決意を固めた。


 翌朝、リリアはエルドと共に、宿の庭で魔法の修行に励んでいた。

「魔法とは、自らの体内に存在するマナを具現化するもの。お主の体内にはまだまだ強大なマナが隠れておる。...もう一度じゃ」


「はい!」


 まだぎこちない動きだが、彼女の手から放たれる魔法は、確実に力を増している。




「今日も魔法の練習か?」

 リリアが答える。

「はい!自分が強くなっているのを感じるのはとても楽しいです。それに、師匠から何か懐かしい感じがして、とても居心地がいいんです!」

 リリアはエルドに対して、何か特別な感覚を持っているようだ。


「気をつけてな」

 俺はリリアに微笑み、ギルドへと向かった。迷宮の情報を得るため、そして、迷宮への潜入方法を探るために。


 セントラルの街の喧騒の中、俺の心は静かに燃え上がる。


(決着の時は近い。必ず、俺の手で!)


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