1. 剣の道、異世界へ
戦乱の世、血と屍で築かれた修羅の道を駆け抜けた一人の剣豪がいた。その太刀筋は神速にして無双、千の兵を屠りし姿はまさに生きる伝説と謳われた。織田、豊臣、徳川――いかなる権力にも与せず、ただひたすらに剣の道を極めんとするその生き様から、人々は彼を畏敬の念を込めて「剣聖」と呼んだ。人間離れした逸話は数あれど、彼の最期だけが歴史の闇に消えている。
――誰もが知らぬその真実。彼が最期に見た景色は、血に染まる戦場でも、静かな庵でもない。それは、他の人々が知り得るはずのない、まったく異なる世界の光景だったのだ。
気がつけば、俺は森の中に立っていた。見慣れない木々、肌を撫でる奇妙な風。そして何よりも、空に浮かぶ二つの月。どうやら、俺は異なる世界に放り込まれたらしい。
俺の名はヤマト、しがない剣士だ。
「ちっ、面倒なことになったな」
腰に提げた愛刀「無銘」の柄に手をやる。
(よかった、無事か。それに、この世界にも「アレ」はあるようだ。ならば、)
突如、森の奥からけたたましい咆哮が響き渡った。
現れたのは、巨大な猪のような化け物だった。その体躯は地球の猪の数倍はあろうかという巨大さで、全身を漆黒の硬質な毛が覆っている。鋭い牙を剥き出しにしてこちらを睨む姿は、純粋な暴力の塊とでも言うべき威圧感を放っていた。
「ほう、なかなかの獲物だな」
図らずも口角が上がる。久しく味わっていなかった、本能が震えるような感覚。俺は迷わず無銘を抜き放つ。
化け物は、その巨体に似合わぬ速度で突進してきた。常人ならば為す術もなく蹂躙されるだろう。だが、俺には通用しない。
──一ノ太刀、霞斬り
横薙ぎに一閃。刀が風を切り裂く音が響き、次の瞬間には化け物の体が大きく傾いた。しかし、完全には倒れない。皮膚が硬いだけでなく、その下にある筋肉も異常なまでに発達しているようだ。
「ふむ、しぶとい…」
ならばッ!さらに間合いを詰め、返す刀で化け物の胴を狙う。だが、その時、化け物の体が淡い光を放ち始めた。
「なっ!?」
光は急速に膨張し、次の瞬間には小さな火球となって俺めがけて飛んでくる。咄嗟に刀で受け止めるが、見た目以上の衝撃に体が弾き飛ばされた。
「…何が起きた」
着地した俺は、目の前での出来事に驚きを隠せない。剣士としての常識が、この世界では通用しないことを突きつけられた気分だ。地球ではありえない現象が、今目の前で起こったのだ。
化け物は、追撃を意図し、再び体を光らせる。その光は、先ほどよりも強力なものだった。
「なるほどな」
刀を構え直す。この世界には俺の知らない力が存在するようだ。非常に厄介。俺の剣が通用するかもわからない。だが、
「最高だッ」
化け物が放った火球が迫る。それを直前で見切り、紙一重でかわすと同時に、一気に間合いを詰めた。
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