【第一話 中編】不穏な真実
襲撃後、桜木町駅付近では一人の警察官がロボットと交戦をしていた。
「こいつら・・、銃が効かない。装甲がかなり固いようですね。」
男は手持ちのピストルでドローンロボットを射撃するが、ロボットはびくともしない。
ロボットに見つからないように男は射撃後にすぐに瓦礫に身を隠す。
(銃が効かないならおとなしく自衛隊が到着するのを待つべきか・・。
いや、そうしている間に市民が死んでしまう。背後からどうにかできないか?)
男がロボットの背後を取ろうとそっと歩き出した時、
そのロボットが急に前方へ動き出した。
(気づかれたか・・?いや、違う。別の標的を見つけたのか!!)
ロボットが向かう先には金髪の女子高生が小さな女の子を抱えて走っているのが見えた。
(まずい・・!!)
咄嗟に男はピストルを取り出し、ロボットに向けて数発撃ち込んだ。
今度は瓦礫に隠れず、ロボットの前に堂々と姿を現したおかげでロボットはすぐに男を見つけた。
ロボットは標的を変更したのかくるりと機体を男の方に向けた。
「やるしかないようですね・・!!」
ロボットは機体から大きな銃を取り出し、男に向かって一発射撃した。
その瞬間、男は瞬時に前方に飛び込む。
「君たちがヘッドショットしか狙ってないのは分かっていました!」
男はそのまま飛び込んだ勢いで前転をしてロボットの目の前まで詰め寄った。
「くらいなさい。」
男はロボットに力の限り拳を叩き込む。
その拳はロボットの内部まで食い込み、すさまじい轟音とともにロボットは吹き飛んだ。
吹き飛んだロボットからは黒煙が立ち上り、そのまま動かなくなっていた。
「ふう、何とかなるものですね。」
「あ、あんた・・ばけもんだな・・。助けてくれてありがと。」
男の隣にはさきほどロボットから狙われていた女子高生が立っていた。
「いえ、それほど大したことではありませんよ。それより、あなた達、怪我はありませんか?」
「ああ、怪我は大丈夫。ただ、この子が・・。さっき会ったばかりなんですけど・・。」
小さな女の子は女子高生の胸に顔をうずめて泣いていた。
「ママが・・。ママあああああ!!!うわあああああ!!!!」
その様子を見てこの子たちの身に何が起こったか男は察し、女の子の頭を撫でる。
なぜこんな小さな女の子がこんなに辛い目に合わなければいけないのか。
男は行き場のない怒りを覚えたが、冷静であるよう努めた。
「そうだ、私の名前は尾崎 豪。警視庁公安部に務める警察官です。
安心してください。あなた達の名前を教えてくれますか?」
「公安!?初めて会いました。すげえ、実在するんだ・・。
っと、すみません、私の名前は成瀬 綴です。
・・・この子のお母さんはこの子のことを沙奈と呼んでいました。」
「綴ちゃんに沙奈ちゃんですね。よし、駅の地下にシェルターがあるから一緒にそこに向かいましょう。」
尾崎はそう言って綴と沙奈を誘導しようとしたが、綴がなんだか不安そうな顔をしている。
この状況ならいたって普通の感情なのだが、恐怖とは違うように見えた。
「綴ちゃん、どうしましたか?何か不安なことがあったら教えてください。
あまりここに長居はできませんが私が聞ける範囲なら何でも相談にのりますよ。」
「・・・私は地下には行けません。親友が待っているんです。私はそこに向かいます。
沙奈ちゃんだけ保護してあげてください。」
そう言って綴は腕に抱えている沙奈を尾崎に渡そうとする。
尾崎は地下に行くにしてもこのまま綴に沙奈を抱えたままにさせておくのも危ないと考え、
沙奈を綴から受け取った。
そしてこれが失敗だったとすぐに悟る。
綴はそのまま地下の入り口とは真反対の方向に走ってしまったのだ。
沙奈を抱えたままだと、思うように身動きが取れない上にもしまたロボットに見つかった場合、
沙奈を守りながらロボットを倒せる自信はない。
走り出した綴を追いかけることが出来なかった尾崎はただ彼女の無事を祈った。
ーーーーーーーー
せっかく彼は助けてくれたのに裏切るような真似をしてしまったと思い、
綴は申し訳ない気持ちになっていた。
ただ、ロボットを一発で殴り飛ばせるくらいの実力の持ち主だからこそ、
安心して沙奈ちゃんを預けることが出来た。
綴が走る目的はただ一つ。
親友に会いに行くためだった。
走っている最中に何度かロボットを見つけたが、
身を隠しながら進んだことで何とか見つからずにすんでいる。
いや、本当に見つかっていないのだろうか。
見つかっているけど、見逃されているのか・・?
新城が言った言葉を綴は思い出す。
「ロボットが成瀬さんを故意に見逃がしたのかもしれないということだよ。」
その先の新城の妄想はくだらなさ過ぎて既に忘れてしまったが、
故意に見逃したという箇所だけ妙に綴の心に引っかかった。
そう考えながら走っている内に、綴は目的地に到着した。
横浜駅の近くにある小さな川辺である。
普段通り過ぎるときには誰も気にも留めないような小川の排水箇所に鉄板がある。
ここをいつも通り綴は横にどけると、暗闇で先が見えない入り口が現れた。
鉄板が閉じた状態になっているということは恐らくまだここは襲われていないのだろうと安堵し、
綴は鉄板をもとの場所に戻してしゃがみながら入り口を進んでいく。
綴がしばらく暗闇を進んでいると、いくつかの照明が見え、目の前に機械式の頑丈な扉が現れた。
「おい!綴だ!開けてくれ!」
綴がそう言うと、扉は重厚な音を立てながらゆっくりと開いた。
その扉の中に綴りは入っていき、その先の階段を下りた。
階段の先には小部屋があり、綴はその小部屋に急ぎ足で向かう。
「やあ、遅かったじゃないか。綴が無事でなによりだ。」
そこには古びた椅子に赤い髪の女が座っており、綴に向かって話しかけた。
「何が遅かったじゃないかだ!!外で何が起きているのかわかってんのか!私がどれだけ心配したと思ってるんだ!」
綴は息を切らしながら膝に手をつき、目には涙が浮かんでいた。
さ。
「勿論、外の様子は知っているさ。
しかし、すぐに返事できなくてすまない。こちらも少々手が離せなくてね。」
「この状況で手が離せないことって何だよ、まあ何であれ真宵が無事でよかったよ・・!」
どうやら赤い髪の女は真宵というらしい。
真宵は椅子から立ち上がり、インスタントコーヒーをカップにいれ、お湯を注いだ。
「ここまで、ご苦労様。まずはコーヒーでも飲みたまえ。」
「ん、あんがと。」
綴は真宵からコーヒーを受け取り、比較的新しめの綺麗な椅子に座ってコーヒーをすすった。
「やばい、あの襲撃の瞬間からやっと落ち着いた気がする。色々なことが起きすぎてわけわかんないよ。何から話せばいいかな。」
綴は今日起こったことを真宵に一から話していく。
「ほう、その妄想癖の変態にはぜひ会ってみたいな。
私の妄想とどっちがぶっ飛んでいるか勝負したいものだ。」
「今の私の話を聞いて最初の感想がそれかよ。絶対にお前らを合わせねーからな。」
綴は笑いながら真宵と喋る。
やはり親友との会話は着飾らず素で話せるから楽である。
「そうそう、だからさ、私は運が良かったんだよ。銃弾も当たらなかったし、あいつらに見つからなかったし。例の先輩は私は運が良かったんじゃなくてわざと見逃されたんじゃないかって言いだしたんだけど、そんなはずないよな。妄想も大概にして欲しいよ、まったく。」
「いや、綴は敵と認識されていないんだから実際、わざと見逃されたんだろう。」
真宵はさぞ当たり前だろうと言わんばかりの真顔で綴に返答する。
「はいはい、真宵も立派な妄想癖の持ち主だったな。
じゃあなんで私が敵と認識されないんだよ。理由は?」
綴は冗談めかして真宵に質問を投げかける。
ただ、真宵の発言が冗談であると思っているのを裏腹に、
何か確信に迫るようなものを感じ取っていた。
「・・・?決まっているだろう。そりゃあ・・綴がアンドロイドだからだ。」
綴はその返答を聞いて、絶句した。
「おい、親友とはいえいくら何でも冗談じゃ済まされねえぞ?そのアンドロイドかロボットか知らねえがそいつらにみんな殺されてんだ!?私がそいつらと同類っていうのか!?」
真宵は至って冷静に返答を続ける。
「ああ、その通りだ。綴にも心当たりがあるんじゃないか。さっき言っていたじゃないか。学校を抜け出した後、親子二人が居たと。なぜその後、母親は居なくなったんだ?」
「なんで・・・?それは・・あの時、私は殺さなきゃって・・それで剣を使って刺して・・。
・・・え!?」
綴は自分の口から出た言葉が信じられなかった。
・・・そうだ、あの時、いつの間にか私の手には見たことのない剣が握られていて。
目の前の敵を殺さなきゃいけないって思ったんだ。
「・・・私が母親を殺した。」
綴が持っていたコーヒーカップが手から滑り落ちた。
今後の執筆の励みになりますのでもし面白ければ感想やブックマークしていただけるとありがたいです!