第七話 初依頼
「セラもう来てるかなぁ……」
現在時刻は朝方、昨日の合格祝いから一夜空けてイルマはセラとの約束通りに冒険者ギルド前の広場を訪れていた。
「まだ来てないかな〜?」
イルマはキョロキョロと辺りを見回しながら、セラの姿を探している。
「ごめんっ!待ったぁっ?」
後方から声を掛けられたので振り返ると、そこには小走りでこちらへ駆け寄ってくるセラの姿があった。
「全然待ってないよ、あたしも今来たとこだから」
二人は合流して軽く挨拶を交わすと、いよいよ冒険者ギルドへと入っていく……
ギルド内に入ると二人は早速依頼を受けるべく、ギルドに届いている冒険者宛の依頼の数々を確認していく。
「色々あんねぇ〜……まあまずは、初心者用の簡単なやつがいいよね。これとかどうかなぁ……」
イルマが手に取ったのは、この都市周辺にある村の近辺で悪戯をして村人を悩ませるゴボルドの討伐依頼。
「ねぇセラ。これなんかどう?」
「ん?どれどれ……」
イルマはコボルドの討伐依頼と記されている依頼書をセラに見せた。
「ダメよこんなんじゃ、もっと難易度の高いやつ……例えば、一回の依頼で確実にランクアップするような凄いやつとか」
そう言うとセラは、手元にある依頼書の数々を次々に確認していき……その中の一つに目が留まる。
「あったわ!これよこれ」
セラは自身の見つけた依頼書をイルマに見せる……
依頼書の内容は、この都市より南東にある広大な密林地帯の内部に存在する大洞窟の奥深くに生息しているドラゴンゾンビ一体の討伐。クエストを引き受ける条件は、Cランク以上複数人限定と書かれている。
「ドラゴンゾンビッ!?それに、Cランク以上……」
イルマは依頼の内容を見て驚き、セラの顔を見る。セラは満面の笑みをしていて、これしかない!という感じだ。
「でも……あたし達まだFランクだからCランクの依頼は受けれないんじゃ……」
イルマがそう指摘するとセラは、依頼書のある部分を指差した……
「ここ見て!任意依頼って書いてある」
ギルドが扱っているクエストには、強制依頼と任意依頼の二つがある。
強制依頼は、依頼書の条件に達していないと受けることができない……しかし任意依頼は、条件に達していなくとも受けることができるのだ。
「強制じゃなくて任意の依頼だから、私達はまだCランクに到達してなくても依頼自体は受けれるってこと」
セラが説明するとイルマは、納得したように頷くが……
「でも……あたし達二人だけでドラゴンゾンビなんて、倒せるのかなぁ……」
「余裕でしょ!ドラゴンゾンビは死んだ龍がなんらかの異常で蘇ったアンデッド……死んでるんだから生きてる龍よりは弱いし、大丈夫でしょ」
セラがそう言うとイルマは渋々納得し、二人はドラゴンゾンビ討伐の依頼書をギルドの受付嬢に手渡した。
「はい、了解し……?お二人、確か昨日冒険者登録をした方々ですよね?」
受付嬢が困惑した様子で尋ねて、二人は頷く。
「本当にこちらの依頼でよろしいのですか?」
受付嬢が再度確認すると二人は頷いた。
「一応ギルドマスターからは、お二方が強制じゃなく任意の依頼ならなんでも通せと言われましたが……私は心配です」
「大丈夫ですよ、私達なら」
受付のお姉さんはどうやら二人を心配している様子だが、セラは安心させるように返事をしてイルマも笑顔で頷いている。
「分かりました……依頼を承諾します。どうか無理をなさらぬように」
どうやら納得してくれたようで二人は受付嬢に軽く一礼をしてギルドを後にした……
……………
………
少し時間をおいて二人は都市を出てすぐの街道付近にいた……
「わぁ〜っ!おっきぃぃぃ〜ッ!!」
イルマの目前には二頭の白銀色の毛を生やした大型のオオカミ似の牙獣がいた。目的の密林地帯までここからでは少々距離があるため、セラが移動手段のために二頭の騎乗用牙獣を屋敷から連れてきたのだ。
「この子達に乗っていけば早ければ明日の昼頃には目的の密林地帯に着くわ」
セラはそう言うとイルマに牙獣の扱い方について教えて、二人はいよいよ出発しようとしていた。
「落っこったりしないかなぁ……」
「大丈夫よ、この子達人懐っこいから」
イルマは牙獣に乗るのが初めてなので、少し不安がっている。
「じゃ、行こっか!」
「うん!」
こうして二人は、目的の密林地帯の内部にある大洞窟へ向けて出発するのだった。