第六話 語られること
「お邪魔しまーす!」
イルマは現在、セラと試験合格のお祝いをするためにセラの屋敷に訪れていた。
「今帰ったわ」
セラがそう言うと、数人のメイド達が二人のいる玄関口まできて、返事をする。
「「お嬢様、お帰りなさいませっ!」」
「おぉっ!(流石は貴族のご令嬢っ!やっぱりメイドさんいるんだ……)」
イルマは初めて見るメイドに少し興奮気味だ。
「(外の外観もだけど中も凄いなぁ〜。ここに来る前に話してた時に本国はもちろん……世界中に滞在する場所があるって言ってたなぁ〜)」
イルマはそんな事を考えながら、屋敷内を一瞥している。
「宴会用の部屋を使うから」
「はいっ!かしこまりましたお嬢様」
セラがそう言うとメイド達がその場を後にした。
「え、今ので伝わるの?」
イルマが尋ねるとセラは頷き、部屋へと案内する……
……………
………
イルマは案内された部屋でセラと二人で飲食をしながら談笑している。
「え、年上だったのっ!」
「ええ、私は十六歳」
「(同い年かと勝手に思ってたよ……年下なのに呼び捨てなんて……生意気なことしちゃってた……)」
「あの、セラ……さん」
「いいわよ、今さら」
セラが苦笑しながらそう言う。
「あっそういえば、なんでセラは冒険者になろうと思ったの?」
イルマは気になっていた事をセラに尋ねる。
「私は貴族……名門メレス伯爵家の一人娘。生まれた時から何もかも勝手に決められて何かしたい事があったとしても私には、それを自由にしたりする権利が無かった……」
セラは話し続ける……
「このまま……外のことを何も知らないで、親の勝手な都合で見ず知らずの人と結婚させられて生涯を終えるだなんて、私は絶対に嫌だった……だから、お父さんをなんとか説得してこの都市に来て冒険者になろうって思ったわけ……だって、冒険者って自由でしょ?私にピッタリだわ」
「まあ、この都市にお父さんも一緒に来るのと、一緒に暮らすのが条件だったけどね」
セラは笑みを浮かべながら話す。
「そうだったんだ……優しんだね、セラのお父さんって」
イルマは微笑みながらそう口にした。
「次は私が聞いてもいいかな?イルマがなぜこの都市に来て、冒険者になろうって思ったのか……」
セラがそう尋ねるとイルマは自身の事を話し始めた……
「あたしは辺境の閉鎖的な村で生まれ育った……村の大半の人は外の世界に出るなんてことはほとんどなくて……唯一、外の世界との繋がりが村に訪れる行商人の人達だけで、あたしはそんな生活がずっと嫌だった……」
イルマは話し続ける……
「村に行商人の人が来るたびに外の世界の情報が記された本や地図を買って、一晩中読み耽ってた……」
「十五歳になって成人を迎えたらすぐに村を出ようってずっと思ってた……行くなら、外の世界の中でも賑わっている有名な所……だからここ、メルトアに来たの」
「冒険者になろうと思った理由は……まあ、これと言って特に他にやりたいようなこともなくて、あたし……あの村を早く出たいっ!その一心で……もし、何かするなら冒険者とかいいかなって思ってて……まあ、そんな理由かな」
イルマは自身の思いをセラに話した。
「そっか……なんだか私達って、似てるね」
「そうだね」
二人は笑みを浮かべながらそう言い合う。
「あ、そういえばお父さんもここに住んでるんだよね?」
イルマがそう尋ねるとセラは頷き、セラが何か言おうとしたその時!誰かが二人のいる宴会用の部屋に入ってきた……
「君がイルマ君か」
そう口にするのは、セラと同じ銀髪の髪に黄金色の瞳をした中年の男性だ。
「お父さんっ!」
「今しがた帰宅したのだが、屋敷に娘の命を救ってくれた恩人が来ていると聞いてね……君がイルマ君だね?」
「は、はいっ!あたしがイルマです」
イルマは慌てて答える。
「私はセラの父で、現メレス伯爵家当主のエデン・メレスと申します」
「君のことはセラから聞いています。娘が不意を突かれて危なかったところを間一髪助けてくれたとか」
「いえ、それほどのことは……」
「娘を助けてくれてありがとう、イルマ君」
「はいっ!」
イルマは緊張しながら頷く。
「それで何だが……君は先日、Aランク冒険者剣才のミラと手合わせをしたそうだね?」
「は、はい……ん?Aランク……剣才?」
イルマはなにかを考えていたが、伯爵は話を続ける。
「なんでも、互角に渡り合ったとか……彼女は冒険者の中でも選りすぐりの剣の使い手の一人として有名で、その彼女とまだ十代の若き少女が死闘を繰り広げたと今この都市では有名になっているよ」
セラの父ことエデン伯爵は、少し笑みを浮かべながら話す。
「都市で……有名?……あたしが!?」
イルマは少々困惑していた……
「そこで……なんだが、会ったばかりで急にこんな事を言うのは礼儀がないかもしれないが、もし良ければ君には娘……セラの護衛騎士になってもらいたい」
「!?」
「お父さんッ!」
イルマは驚いた表情で目を見張り、セラは動揺した様子で声を発する。
「何言ってるのお父さんっ!護衛の……騎士だなんて……」
「セラ……確かにお前は強い……だが、いつなんどきまたこのようなことが起きるか分からない……今回はイルマ君のお陰で無事だったが、彼女がいなければ危なかったかもしれない。私はただ、父としてお前のことが心配なのだ」
セラの父エデンは危惧しながらそう言う。
「お父さん……」
セラは不安そうな顔をしながら父の方を見る……
「あの、すみませんっ!」
そんな時!イルマが口を開ける……
「ずっと気になってたんですが……セラはあの時、何で襲われていたんですか?あの人達は何なんですか?」
イルマがエデン伯爵に質問する。
「君には話してもいいかもしれない」
「お父さんっ!ダメよッ!イルマを巻き込むことになる」
「彼女なら大丈夫だ……話そう、我々の敵について」
伯爵がそう言うとセラは少々懸念しながらも、これから父が話すであろう事に対して静かに耳を傾けようとしている。
「では話そうか……イルマ君、滅びの神という存在について聞いたことはあるかい?」
「滅びの神?確か、大昔に実在したっていう……」
「そう。滅びの神はかつて千年以上前にこの世界の全てをその圧倒的なる力で滅ぼしかけた存在だ。しかし、当然の事ながら今は存在しない……その時代に生きた勇士達が力を合わせてなんとか倒すことはできたからだ……」
「セラを襲ったのは、その滅びの神の復活を目指している者達……滅び神の祝会と呼ばれている組織だ」
「セラがその組織に狙われた原因は、近年我らが祖国アルセデス王国は滅び神の祝会と敵対関係にあるからだ。故に、アルセデス王国に属する王侯貴族やその関係者は、度々襲撃に遭い死者もでているのだ」
「そんな……事が……」
イルマは自身の想像を遥かに超えていた話に、ただ呆然としていた。
「イルマ君、今一度聞く……娘の護衛騎士となってその身を守ってはくれまいか?」
「もちろん、冒険者を続けながらで構わない……娘も一緒だからね……どうだろうか?」
エデン伯爵が尋ねる……するとイルマは……
「護衛騎士になってほしいとかは急な事で、まだ何とも言えないけど……でもっ!セラは私の友達ッ!」
「友達を守るのは当たり前の事だよ、あたしはセラを守るッ!」
イルマがそう言い切ると伯爵は驚いた顔をして硬直している。
「友達っ!?」
セラも驚いて驚愕の表情を浮かべている。
「そうか……急にこんな事を言って困らせてしまってすまない……」
伯爵が申し訳なさそうに軽く会釈する。
「え……いえいえ大丈夫ですよっ!あたし困ってなんかないですから」
イルマが慌てて答える。
「これから色々な事があるかもしれないが……娘のことを頼んだよ、イルマ君っ!」
「はいっ!セラのお父さん……じゃなかった伯爵様っ!」
そんなこんなで、セラのお父さんことエデン伯爵は部屋を出て行った。
「イルマ……ごめんね、父が急にあんなこと言っちゃって」
「大丈夫だよ、あたし全然気にしてないから」
イルマは笑みを浮かべながら答える。
「それと、さっきの友達って……」
セラが少し緊張した面持ちで尋ねると……
「あっ……ごめんなさいっ!急にそんなこと言っちゃって……」
イルマは慌てて発言を撤回しようとする……
「いやっ!違うのよ……ちょっと驚いちゃって、私……友達なんて近しい間がらの人がいないから」
セラが少し寂しそうに言った。
「私……こんなだから、同年代の令嬢達からも距離を置かれてたし、一度だけ貴族の令嬢達が集まるお茶会に参加したけど、ずっと避けられてたし……だから、友達なんて言われたもんだから驚いちゃって」
セラは気恥ずかしそうにイルマに言う。
「そう、なんだ……あたしは故郷の村に同い年くらいの女の子がいなくて、友達はいたけど……みんな男の子だったよ……だからかな……すっごい嬉しかったんだよね!年が近い女の人とこんなに話したの初めてで」
イルマは嬉しそうに話す。
「イルマ……私、貴方とならうまくやっていけそうな気がするわ、あの令嬢達とは違うもの」
「あたしもセラとは仲良くできそうな気がするよ」
二人はお互いのことを分かり合って、合格祝いの続きをするのだった。
……………
………
現在時刻は夕暮れ……日も落ちてゆき、もうじき夜に差し掛かろうとしていた……二人は宴を終え、イルマがセラの屋敷を後にしようと屋敷内の玄関口まで来ていて……セラが見送る前にある事をイルマに提案していた。
「ねぇイルマ、これでお互い冒険者になったわけだけど、貴方と私二人でパーティーを組まない?」
「パーティー?」
「貴方は剣士、私は魔術師……前衛と後衛で丁度いいと思わない?」
「そっか、パーティーか」
そうなのだ、冒険者は基本パーティーを組んで依頼を受けるのだ……ソロで活動するよりもパーティーを組み、複数人でクエストに挑む方が生存率も上がるし、何よりもお互いがお互いの自身に足りない物を補えるので、パーティーを組むのがこの世界では常識なのである。
「私達……友達なんでしょ?」
セラは少し不安気に緊張した様子で尋ねる。
「うん、わかったよっ!あたしと一緒にパーティーを組もう!」
イルマがそう答えるとセラはとても満足そうに……
「よし!決まりね……じゃあ、明日の朝に冒険者ギルドの前で待ち合わせをしましょっ!」
「了解!」
そうして二人は、待ち合わせの約束をしてイルマはセラの屋敷を後にするのだった。