第三十四話 信仰のアルダーク その3
現在……イルマとセラの二人は敵の攻撃を回避し、空高くを風とともに漂っていた……
「少し……離れた場所に降りるわね」
「うん……」
セラは地上を見下ろしている……そこには黒き災害と呼ばれている超大型の魔物の姿があって……
「(あの辺でいいか……)」
セラは地上のとある場所を見据え――
「イルマ、しっかり掴まっててね!」
虚空に手を向けて風の魔術を唱える――すると、その場に突風が吹き――二人はその風を利用して地上のある場所へ向けて急速に降下していく――
「うぅぅ……」
イルマは必死に落ちまいとセラにしがみついている――地上がみるみるうちに近くなっていき――そしてっ!
「よし――今だッ!!」
セラが地上に向けて魔術を放つッ!二人が落下するであろう地点にその魔術は直撃し――その直後ッ!!その場一体に強風が発生した――
「おぉっと!?」
「うわっ!?」
二人は発生した風の力でふわっと浮き上がり、地面との衝突を避けて無事、地上に着地する――
「よっと!ふふ、上手くいったわっ!」
「はわわ……」
セラは気持ちよさそうに自身の髪をなびかせて、イルマは尻もちをついてぐったりしている。
「さて……これからどうするか……」
「あ、あの……アルダークって人をどうにかしないと……ダメージを与えても、また……回復されちゃう」
「んー、そうなるとやっぱり……やることは一つしかないわね」
「セラ……」
「大丈夫、私に任せて!」
セラが手を差し伸べ――イルマはその手をとって立ち上がる……
「……イルマ、少しの間……アレの相手を任せても……」
「うん、大丈夫だよ!なんとかするよっ!」
「そう……よしっ!なら――こっちは任せたわ!私は……」
「うんっ!セラ……絶対に勝とうねっ?」
「ええ。でも、イルマ……危なくなったら、すぐ逃げるのよっ?」
「うん!」
「それじゃあ、私は行くわ――」
そう言ってセラは、この地一体に無数に生えている木々の中へと消えていく……
「……よし!あたしも――」
イルマも動き出そうとする――だが、その時ッ!!
「――くっ!?」
黒き災害が背に持つ武器の一つ、巨大な斧を手に持ってイルマの方に全速力で向かって来ていた――
「(――あたしなら大丈夫、よしっ!来いッ!!)」
イルマは剣を構えて臨戦体制に入る――そして、その瞬間――黒き災害が地を大きく蹴って跳んだ――巨大な斧を持つ方の手を大きく振りかぶり――
「ヤバい――」
その直後ッ!イルマは地を蹴ってその場一体に生えている木々の中へと飛び込んでいき――そして、次の瞬間ッ!!
大轟音ッ!!!その地一体に物凄い衝撃音が鳴り響く――黒き災害が手に持つ巨大な斧で地面を打ち込んだのだ……大地が大きく割れ、亀裂が入り……激しい地響きがその地全体を襲うッ!!
「…………なんて威力なのっ!?」
イルマは無数に生えている木々の一つ、その陰から頭を少しだけ出して周囲の状況を確認している……
「まともにアイツとやり合うのは無理だな……んー、どうしようか――ッ!?」
突如ッ!何を思ったのか、イルマが地を強く蹴って高く跳んだ――そして、その数瞬後ッ!!先程までイルマの隠れていた木を含めたその周辺の木々が根こそぎ吹き飛んだ――
「(あいつ――何で分かったの!?)」
黒き災害だ、手に持つ巨大な斧で薙ぎ払い――周辺に生えていた木々をまとめて吹き飛ばしたのだ。
「とにかく――今は、やるっきゃないッ!!」
イルマは着地と同時に無数の斬撃を黒き災害に向けて放つ――数多の斬撃は黒き災害のその身を切り裂かんと正確に命中し続け――
「(今は、とにかく時間を――)」
イルマは斬撃を放ち続ける――だが、黒き災害は無防備でそれを受け続けていて――そしてッ!
直後ッ!!黒き災害が斧を振り上げ、強力な一撃をイルマ目掛けて打ち込んだッ!!!
「くぅっ――!?」
イルマは何とかギリギリで直撃は回避するが、放たれた強力な一撃の衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされてしまう――
「――近接戦闘は危険だから、遠くからやってたのに……」
イルマは衝撃で吹き飛ばされて地を転がりながらも、すぐに立ち上がり――剣を構えて黒き災害を見据える……
「…………っよし!」
イルマはその場で深呼吸をし、そして――駆けたッ!黒き災害に向かって一直線に突き進んでいき――
「……ッ!!!」
剣撃ッ!!イルマは黒き災害の周囲を素早く駆け回り――その巨大な両足の至る所を流れるように剣で切りつけ続ける――
「(――通らないッ!!)」
イルマは黒き災害の足首や関節、太ももの裏などを正確に切りつけているが――その刃は、全くといっていいほど通らない……
「…………でも、動きは遅い――」
黒き災害は自身の足元で素早く動き回っているイルマを踏み潰そうと足で地面を強く踏みつけている――しかし、目にも止まらぬほどの高速で動き続けているイルマを捉えることなど到底できず、ただ何もない地面を踏みつけるに終わる……
「……やっぱり、目を切って視界を奪うしか――!?」
直後ッ!!業を煮やした黒き災害が両手で斧を持ち、足元――イルマのいる場所目掛けて勢いよく斧を打ち込んだッ!!!
地面に亀裂が入り、強い地響きが辺りを襲うッ!!
「――おっととっ!?危ない危ない――」
イルマは回避し、黒き災害との距離を取る――
――黒き災害は激しい咆哮とともに口を大きく開け、手に持つ斧を振り上げてイルマを追う――
「――ふふっ!いいこと閃いちゃった、あそこなら――」
何を思いついたのか、イルマはくすりと笑い――そして!
「……ッ!!」
自身に迫って来る黒き災害の顔に目掛けて強力な斬撃を飛ばす――斬撃は一直線に飛んでいき黒き災害の口内に見事命中ッ!
「よっしッ!」
イルマは軽いガッツポーズをして喜んでいる……黒き災害は手に持つ斧を落とし、口元を両手で押さえて呻き声をあげている……口からは血が沢山垂れており、とても痛々しい感じだ。
「ふふふ、どれだけ外側が丈夫でも……やっぱり内側は脆いよね!」
イルマは気分良さげに口元を押さえて痛がる黒き災害を見ている……
「セラ、頼んだよ……こいつはあたしが――」
そして、イルマは剣を構え――黒き災害へと駆け出すのだった……
……………
………
「……頑張るなぁー、あの赤髪の娘」
アルダークは遠く離れた場所からイルマと自身の使役する黒き災害と呼ばれる魔獣の戦闘を見ている……
「肉体の内側を攻撃するとはね……」
アルダークの片の目に何らかの紋様が浮かび上がっている……遠見の魔術だ、距離が離れていても正確にその場の状況を視認することができる。
「……しかし、さっきからもう一人の……銀髪のあの娘の姿が見当たらないなぁー、一体どこに隠れて――」
アルダークが遠見の魔術で離れた場所を見ていた、まさにその時――大轟音ッ!!!その場で突如、大爆発が発生した――周辺にあるもの全てが巨大な爆炎と激しい爆風によって吹き飛ばされ消えていく……
「………………全く、やってくれるね――」
辺り一体に生えていた木々は根こそぎ吹き飛び、爆発が起こった中心地には巨大なクレーターができていた……
「……大した威力だ。まさか、この魔術障壁の耐久性を上回るとは……」
爆発の起きた中心地、巨大なクレーターの真ん中にアルダークはいた……少しだけ驚いた表情をしており、自身の展開する対魔術の障壁を見ている……その障壁には複数の亀裂が入っていた。
「……ふふふ、相変わらず頑丈ね、それ……でも――」
セラだ。爆発で空いた巨大なクレーターの端に立ち、アルダークを見下ろしている……
「(ふっふっふ、アイツはもう倒せない敵じゃないわ……あの感じだとあと二、三発ぶち込めばぶっ壊れるわ!)」
セラはアルダークの周囲に展開している対魔術の障壁を見ている……
「(私の予想通りだったわ。どれだけあの障壁が頑丈だろうが……三属性以上の強力な複合魔術には耐えられない……)」
セラが少し離れた場所から超強力な魔力弾を放ったのだ。
「(ふふふ、この戦い……勝ったわっ!魔力量には結構自信があるの、私……)」
セラは余裕の表情で笑みを浮かべ、自身の勝利を確信しているようだ。
「……もう一人の赤髪の娘が黒き災害と……そして君が僕と殺りあうってことでいいのかな?」
アルダークは不気味な笑みを浮かべてセラに問う。
「そうなるわね!」
「……くくく、なるほど……だけど、それは愚策だよ!」
「はぁっ?」
「全く、愚かな手にでたね……これで君たち二人の滅びが早まった……そして、予言しようっ!君より先にあの赤髪の少女は死ぬよ。君を置いてねッ!」
アルダークはセラを指差してそう言った。
「……そう。なら……私も予言するわ。貴方は今日、絶望に満ちた顔で苦しみ、もがきながら地べたを這いずって死んでいく……ってのはどうかしらっ?」
「その予言は外れるよ――」
「――いや当たるわッ!!だって、私がそうしてやるのだから……」
……………
………
こうして……セラとアルダークの一騎打ちが始まるのだった。




