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第三十三話 信仰のアルダーク その2


「来るよ、セラ……何か、とんでもなくヤバい奴が……」


「みたいね……私でも、分かるわ……」


巨大な黒い歪みが蠢きはじめる……そして――


「さぁっ!出ておいで……愛しき我が子――破壊の申し子たる黒き災害よッ!!」


巨大な歪みの中から、それは現れる――


「なによ、アレッ!?」


「で、デカい――きょ、巨人っ!?」


二人の前に、数十メートルはあるであろう超巨大な黒い人型の何かが現れたッ!!


「犬……?いや、コボルド?」


その何かは二足歩行の犬型の怪物で、全身に漆黒の毛を生やし鎧や兜などの防具を身に纏い、背には巨大な剣や槍、斧などの武器を背負っていた。


「あぁ…………」


「いくらなんでも……デカすぎでしょ……」


イルマとセラの二人はその場で呆然として立ち尽くし……目の前に現れた超規格外の存在を見上げている……


「くっくっく、どうかな?僕の愛しき我が子……最高傑作はっ!」


アルダークは不適な笑みを浮かべて二人を見ている……


「ふーん……な、なるほどね……この馬鹿でかい犬ころがアンタの奥の手ってわけ?」


「そうなるね」


「へぇー……(どうするッ?あの魔物、かなりヤバそうだわ……まずは――)」


「あ、あの……あれって、ほんとに……魔物なんですか?」


イルマが少し緊張気味にアルダークに尋ねる……


「ん……?」


「ちょ、イルマ……何を聞いて――」


「いやぁ……なんて、いうか…………」


「くくく、君……おかしなことを言うね!……まあ、この子を前にしたら……そうだね……少し、この子のことを話してあげようかなっ!」


「ふん、別にいいわよ……そんなつまらない話」


「くくくくく、まあ……聞きなよ、ほんの少しだけだけど……滅びが遠のく……どうせ君達はこれから死ぬんだから……」


イルマは関心を持ち、セラは不機嫌そうにアルダークの話に耳を傾ける……


「この子はね……他の子達と違って少し特殊でね……君達、古代種……という単語に聞き覚えはあるかい?」


「古代種……?」


「…………」


「その反応を見るになさそうだね。くくく、古代種っていうのはね……今よりも遥か昔……滅び神様がこの世に健在であった頃よりもさらに昔……ずーっと昔に存在してた魔物達のことさ!」


「「…………」」


「大昔はね……どれもこれも、みんな大きかったのさ!この子はコボルド……今はそう呼ばれている魔物、その古代種さっ!!……まあ、この子はその中でもかなり異例なんだけどね……だから、要するに君達では――」


バチィッ!!!


「長いッ!!話が長い、お前……いつまで喋る気だッ?くだらん話をベラベラと……」


セラがアルダークに人差し指を向けている……高速の雷線を放ったのだ。


「はぁー、銀髪の君ッ!君ってやつは本当に常識がないなぁー……普通、するかい?人が話してる最中に攻撃っ!」


アルダークは少し不機嫌そうにセラを睨みつける……


「ちッ!(あの障壁が無けりゃあ、頭を吹き飛ばしてやってるってのに……)」


変わらず、セラの放った魔術はアルダークの魔道具による対魔術の障壁によって弾かれる。


「セラ……」


「ええ、分かってる……古代種だかなんだか知らないけど、あんなデカブツ!私たちの敵じゃないわっ!!」


イルマは剣を構え、セラは手を構えて二人は臨戦体制に入った。


「……僕はね、慈悲深いんだ……心の広い人間なんだ……でもね、銀髪の君ッ!先程からの僕に対する礼儀知らずな君の行いは少し許せないなぁッ!!」


「はぁ?許せないのはこっちのセリフよッ!だからさっさと死になさいッ!!」


「やれ、黒き災害――あの二人を殺せッ!!」


アルダークの呼びかけに反応し……黒き災害と呼ばれている超大型のコボルドの古代種が今、動き出す――


「グオオォォォォォォォォォォーッ!!!!!」


辺り一体を震え上がらせるほどの激しい咆哮とともに背に持つ巨大な剣を引き抜き――二人目掛けて下から上に切り上げるッ!!!


「セラッ!!」


「分かってるッ!!」


巨大な剣は地面を抉りながら二人に迫る――


「「……ッ!!」」


イルマを地を蹴り、セラは風を纏って――二人は左右に回避した――


その直後ッ!!激しい破壊音が辺り一体に響き渡り――大量の土と木々、セラの魔術によって凍死したコボルド達の体がバラバラになって宙に舞い上がる。


「なんて、威力なのッ!?」


「あんなのくらったら――絶対死んじゃうよッ!?」


二人は回避したのち――それぞれ左右から黒き災害へと近づいていき――


「てりァァァァーッ!!!」


「ぶった切れろォォォォーッ!!!」


イルマは強力な剣撃をセラは巨大な風の刃をそれぞれ黒き災害の足に目掛けて放つッ!!


「――硬ッ!?」


「ちッ!!」


二人の攻撃は命中した――だが、イルマの剣は通らず……セラの魔術も効いていなかった。


「うぐぐぐぐぅ……」


イルマは力一杯に剣の柄を握って刃を通そうと押し込んでいるが全く通らない……


「結構硬いやつね……」


「セラ、この魔物……すっごく硬いよ……」


「そうね――!?」


その時、黒き災害の足が動き出して――


「イルマっ!」


「うんッ!」


二人は急いでその場を離れる――その直後、黒き災害が足を振り上げ――その場一体が吹き飛んだッ!!


「ったくッ!動作一つ一つが環境破壊ねっ!」


「次はどうする――セラ?」


二人は木々の間を素早く移動し――次なる一手を考える……


「確かにアイツは硬い……でも、体中全てが硬いってわけじゃないはず……現に防具も着てるしね。だから…………」


セラはとある作戦をイルマに伝える……


「…………なるほどっ!あそこなら絶対切れるね!」


「たぶんね、まずは……ヤツの行動を封じましょう!」


イルマとセラの二人は次なる攻撃に出ようとして――


「――上だッ!?」


「えっ!?」


セラはイルマの声掛けで反射的に上を見る――するとッ!二人の頭上――空から巨大な剣が落ちてきて――


「「……ッ!?」」


――なんとか二人はそれを回避し、体勢を整える。


「……目も良いのね、あのデカブツ」


「みたいだね……」


二人は上を見上げている……そこには巨大な剣を地に突き刺した黒き災害がいて……


「……イルマ、やるよッ!!」


「うんッ!!」


二人は駆け出した――イルマは黒き災害に向かって、セラはその場一体……無数に生えている木々の中へと――


「よしっ!!いっくぞぉぉぉぉぉぉーッ!!!」


イルマは掛け声とともに黒き災害へと突っ込み――そしてッ!勢いそのままにその巨躯を一気に駆け上がっていく――


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!!!!」


イルマは物凄い勢いで黒き災害の体を駆け上がっている――足から腰……腰から胴……胴から肩……そして――


「てりァァァァァァーッ!!!!」


イルマは黒き災害の肩付近から頭目掛けて跳び――横薙ぎに一閃ッ!!黒き災害の両の目を切った――


「グガァァァァァァァァァァァァーッ!!!!!」


その直後ッ!黒き災害は大音量の絶叫とともに両の目を手で覆い、巨大な剣を地に落とした。


「――セラァァァァァーッ!!!」


イルマは掛け声とともにその場から離れ――


「ふふふ、次は私の番よッ!!」


辺り一体に無数に生えている木々の一つ……その天辺にセラはいた――左手に魔力を集中させており、その手を黒き災害に向けていた――そしてッ!


「くたばれぇぇぇぇぇぇぇーッ!!!!」


次の瞬間ッ!!セラが超威力の巨大な魔力弾を黒き災害の頭に目掛けて放つ――三色の巨大な魔力弾は物凄い速度で飛んでいき――黒き災害の顔面に直撃ッ!!


轟音ッ!!!大爆発が発生し爆炎が大きく膨れ上がり、その場一体に凄まじい爆発音が響き渡る――


黒き災害は大きくのけぞり――そのまま地に倒れた――大地が揺れ、辺り一体に地響きが起こる。


「ふっふっふ、どうよっ?私の魔術はッ?」


セラは高木の上から地に倒れた黒き災害を見下ろしている……上半身からは黒煙が上がり、その体はピクリとも動かない。


「セラーっ!!」


「イルマ!」


イルマが近くまで来たのでセラは高木の上から降りた。


「やったかなッ?」


「んー、深手だとは思うけど……まだ死んではないでしょうね」


「そっか……」


イルマとセラの二人は、未だ立ち上がらない黒き災害の方を見ている――するとっ!


「慈悲なる神よ。我が祈りに答え、彼の者に奇跡を与えたまえ――ノア・ヒーリングッ!!」


何者かが魔術を唱えた――するとッ!突如、黒き災害の全身を緑色の光が包んでいき――


「え、何っ!?」


「魔術の、詠唱!?」


二人も突然の出来事に驚いて……そして、突如として黒き災害を覆った緑色の光はその後消えていき……


「今の、なんだったんだろ……」


「あの詠唱は……治癒魔術の……ってことは――」


「グオオォォォォォォォォォォォォォォォーッ!!!!!!」


直後ッ!!黒き災害が凄まじい咆哮とともに立ち上がりはじめ――


「セラっ!?」


「ちッ!(元気になってやがるじゃない!)」


黒き災害は立ち上がると、地に落ちた大剣を拾う――兜や鎧などの身に付けている装備は所々が破損しているが、その下の肉体には傷が全く無かった――イルマが切ったはずの目も両方再生していた。


「……嘘、私の放った魔術ならまだしも両の目……イルマが切った場所まで完全に治癒してるだなんて……」


「……今のは最上位の治癒系魔術、ノア・ヒーリング、肉体が負った傷……その全てを直す。手足の欠損から目などの主要な部位にいたるまでね!」


何者かが二人の方に向かって歩いてくる……


「……あんた、魔術も使えたのね」


「くくく、当たり前でしょ」


アルダークだ。黒き災害のすぐ近くまで来ると歩を止めた……


「ちっ!せっかく致命傷を与えてやったってのに……」


「ははははは、残念だったね……でも、君達……何で逃げたりしなかったんだい?僕がこの子を魔術で癒す間……いくらでも逃げる時間はあったのに……」


アルダークは黒き災害を見ながら怪訝な表情を浮かべている。


「ん……?逃げる?ふふ、ふふふふふっ!何で私たちが逃げる必要があるのよっ?あんた、何言ってんのっ!!」


「……ん?だって君達、逃げなきゃ死ぬよ?」


「はは、はははははっ!私たちが死ぬですってっ!?何でっ?どうして……?まさかだとは思うけど、あのデカブツがってわけじゃないでしょうねっ!?」


セラはアルダークの予想外の発言を聞き、小馬鹿にした態度で冷笑している。


「はぁー、そうやってすぐに敵を侮るのはよくないよ。若い子ほどそういう思考に至る……全く愚かで救いようがないね」


「愚かなのはお前だよっ!!デカブツを潰したら次はお前だッ!バリアがあるからってイキがりやがって、殺してやるよッ!!そのバリアを剥がしてお前を必ず殺してやる、私の手でなっ!!」


「そうかいそうかい、僕を殺すのかい……まあ、君には無理なことだけどせいぜい努力するといいよ……黒き災害、行け――」


アルダークの指示に従い、再び黒き災害が動き出す――その目は赤く血走っており、手に持つ大剣の柄を力一杯握り締めている――


「イルマッ!!来るわよ!」


「うんッ!!」


二人は臨戦体勢に入る――その直後ッ!!!黒き災害が手に持つ大剣を振り上げて上下左右、メチャクチャに振り回しはじめた――


「ちょっ!?コイツ――」


「くぅッ!?」


辺り一体を激しい破壊の連続が襲うッ!!!!その場に存在する全てが圧倒的なる暴力によって壊滅していき――


「――メチャクチャじゃないッ!?」


「セラっ!?とにかくもっと離れよう――」


二人は黒き災害から距離をとろうと、脱兎の如く辺り一体を駆け抜けていく――


圧倒的なる破壊が二人を追う――イルマは地や木々を蹴り、セラは風を纏って駆け抜けて――二人はかなりの速度で移動し、黒き災害に追いつかれまいと必死だッ!


「(なんてヤツなのッ!?こんなの逃げるしかないじゃないっ!?)」


黒き災害は手に持つ大剣を物凄い力で振り回し、辺り一体に存在するもの全てを破壊しながら移動して二人を追っている――


「――セラっ!!あれ、どこまで追ってくんだろっ?」


「分からないっ!とにかく今は――」


セラは不意に後ろを振り返る――するとっ!黒き災害が急に立ち止まって、なにやら大剣を大きく振りかぶりはじめていて――


「――まさかっ!?イルマッ!!」


「えっ!?」


セラは何を思ったのか急にイルマに近づき――その手を勢いよく掴み、魔術で自信に更に風を纏って――そしてッ!


「離しちゃダメよ――」


「セラ――」


セラはイルマの手を強く握ったまま自信に纏った風とともに上――上空へと跳び上がろうとして――


瞬間ッ!!それと同時に黒き災害が手に持つ大剣を二人に目掛けてぶん投げた――大剣は回転しながら一直線に飛んでいき――その経路にあるもの全てを破壊しながら二人に迫る――


「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇーッ!!!!」


セラが掛け声とともに地を強く蹴って空高くに跳び上がった――


その数瞬後ッ!!二人のいた場所を回転しながら飛ぶ巨大な大剣が通過して――そのままの勢いでどこまでも飛んでいった。


「ふぅー、危なかった……」


セラは風を纏って天高くに上昇しながら、地上を見下ろしている……


「セ、ラ……」


イルマは怯えた様子で手を震わしていた……


「どうしたのっ?大丈夫、イルマ」


「た、たた、た、たか、高ぃ……」


「えっ」


イルマは青ざめた表情をしながら下――地上を半目で見下ろしている……


「……あっ!そゆこと――」


「し、しししししし、死ぬぅぅぅ……」


イルマは体中を震わせながら勢いよくセラに抱きついた――


「おっと!……ははは、イルマ……高いとこ、苦手だった?」


「そん、なに……苦手、じゃないけど……こ、これは……高、すぎる……高すぎるよっ!!」


二人は空――雲の近くまで上昇していた。


「ごめんごめん、咄嗟のことでねっ!私も勢い余っちゃってね!」


セラは苦笑いしながら、イルマの背中を軽くポンポンとたたいている。


「じゃ、そろそろ降りよっかっ?」


そう言うとセラは自身の身に纏う風を調節した――すると、だんだんと風の力が弱まっていき……緩やかに、そしてゆっくりと地上を目指して降下しはじめた……


……………


………


「くくくくく、なかなか面白い子達だ……だけど――」


アルダークは一人、空高くへと跳んでいったセラとイルマの方を見ながら笑っている……


「黒き災害、僕の愛しき我が子には君達では絶対に勝てやしないよ……もし、本気でどうにかしようものなら……Sランク冒険者の最上位か、アルセデスの五英雄くらいの実力がなきゃ無理な話さ!」


「くくくくくくく、あの子は僕と同じ……特別で選ばれた者、選ばれし者が選ばれもしなかった者に劣ることなど……絶対にありはしないんだから……」


……………


………




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