第三十二話 信仰のアルダーク その1
「くくく、まずはこの子たちに相手をしてもらおうかな!」
アルダークが不気味な笑みを浮かべて指を鳴らす……すると、二つの真っ黒な歪みがアルダークの左右に出現し――
「セラッ!何か来る――」
「分かってるッ!」
イルマが何かを感じ取り、二人は警戒を強めた――
「君たちの力、見せてもらうよ!」
直後ッ!出現した歪みから二頭の魔物が姿を現す。
「何、あの魔物……セラ、分かる?」
「……分からない、あんなの見たことない……」
二人の視線の先――アルダークの両隣にそれはいた……全身を緑色の鱗で包んだ蛇のように細長い見た目の小型の竜だ。二本の足と翼をもった蛇のような頭をした竜がそこにはいた。
「……見たことない奴だけど、竜種にしては随分と小さいわ」
「だね。見た感じ……数メートルくらいかな……」
「ふふふ(見るからに弱そうじゃない?何が君達の力を見せてもらう、よッ!あんなの一瞬だわ!)」
セラは余裕の表情で笑みを浮かべ、二頭の竜に魔術を放とうとする――が、それと同じくして竜達が数歩前に出て口を開き――
「死――」
「セラッ!!何かヤバいッ!」
「えっ!?ちょ――」
イルマは何かを察し、突如セラをお姫様抱っこした!そして――
「しっかりつかまっててねッ!」
「急にどうし――きゃぁっ!?」
直後ッ!イルマは地を強く蹴って上空に跳んだッ!!
「ちょっとっ!?どうしたのよ、イルマ――」
二人が地を離れたその数瞬後――それは放たれたッ!二頭の竜の口から物凄い量の紫色をしたガスのようなものが放たれ、先程まで二人がいた場所一体を一瞬にして覆ってしまった。
「何あれッ!?毒ガス!?」
「危なかった……」
二人は地を見下ろす――そこは紫色の毒ガスで溢れ、まるで深い霧のように辺り一体を包んでいる。
「イルマっ!」
「うん、分かってる!」
イルマはセラを離すと――目下、毒ガスで溢れかえっている地上に向けて無数の斬撃を放つ!
「吹き飛べッ!!」
セラも風の魔術を地上に向けて数発放った!
直後ッ!辺り一体を覆う毒ガスが無数の斬撃と強力な風によって霧散していく。
「全く、酷いことするわねっ!」
「…………」
二人は毒ガスを払い無事に着地すると構えて、敵の次なる攻撃に備えている。
「くくくくく、察しがいいねぇ〜そっちの赤髪の娘っ!でも、今ので終わってた方が楽だったろうに……」
アルダークは二人を見て楽しそうに笑っている。
「……じゃあ、続きを始めようか!」
アルダークがそう言うと二匹の竜が飛び――イルマとセラに物凄い速度で急接近するッ!
「墜ちろッ!!」
セラがこちらに向かって飛んでくる二匹の竜に指を向け――高速の雷線を放つッ!雷線は一直線に飛んでいき竜に迫る――
「回避」
アルダークが小声で呟く……すると、突如二頭の竜が変速的に動いてセラの放った雷線を難なく避けた。
「ちッ!」
竜達がさらに二人へと迫ってゆく――
「あたしがやるッ!!」
その直後ッ!イルマが咄嗟に駆け出し、剣を振りかぶって――
「切るッ!!」
二頭の竜の首を狙い、横薙ぎに一閃ッ!しかし――
「速いッ!?」
竜達は超反応でイルマの剣の直撃をギリギリでかわし、一頭の胴体を浅く切るだけに終わった……避けるや否や竜達は空高くに飛び立って一時離脱――したかと思えば急に転回ッ!セラ目掛けて一直線に物凄い速度で突っ込んでいく――
「なっ!?私――」
セラは予想外の竜達の動きに反応できずに固まっている。竜達は口を大きく開け、その牙からは何やら紫色の液体が滲み出ていた。
「セラァァァーッ!!!」
イルマは地を蹴り、セラに向かって勢いそのまま突っ込み――抱きついたッ!
「あぅっ!?」
二人はそのまま地面に倒れ込み――竜達の攻撃をなんとか避けた。
「いったたぁ……」
「ご、ごめん……」
イルマは先に立ち上がり……セラに手を差し伸べる。
「……何で、謝るの?」
「え?」
「悪いのは私よ、ありがと……今のはかなり危なかったわ……」
セラもイルマの手を取り立ち上がる。
「……セラ、大丈夫?」
「ええ、問題ないわ。それよりも……」
セラは辺りを見渡している。
「あの蛇みたいな奴ら、どこいった……?」
「……分かんない。でも、近くにはいないよ」
「そう……」
二人は竜達の姿を探している……
「くくく、赤髪の君……随分と戦い慣れしてるねぇ〜……それに比べて君は……くくくくくっ!」
アルダークはセラを見下すような表情で流し見ている……
「君は随分と愚かだね。達者なのは口だけだ、まさに愚者そのもの」
「あぁッ?」
「だってそうでしょ?もしそこの赤髪の娘がいなかったら君、もう二回は死んでるよ」
「ふふ!私が死ぬですってぇッ!?面白くない冗談ね、どうってことないわっ!あの程度……ふふふ、それに……もし私がその気だったら貴方、少なくとも十回は死んでるわよ!!」
セラも負けじと言い返す……
「はぁー、子供と話すと疲れるね……」
「ふっ、いい大人がくだらないカルトにどっぷりハマってるよかマシよっ!」
「そうだね、だから……これで話は終わりだッ!」
アルダークが両の手で複数回ゆびを鳴らす。
「セラッ!また何か来るッ!!」
「ええ!」
アルダークの周囲に複数の歪みが出現し、そして……
「お遊びはお終いだ。偉大なる神の意志に従い、君たち二人に滅びを与える……」
アルダークの生み出した歪みから魔物達が次々に現れる――強靭な体躯に翼と尻尾を生やし、全身を赤い鱗で包んだ竜や、人とは比べものにならないほどの大きな巨体に二本の角と凶悪な牙を生やした怪物、三つの頭と蛇の尾をもち、全身に真っ黒な体毛を生やした巨大な犬の化物……強大な魔物達が二人の前に立ちはだかるッ!
「あれって……赤竜!?それにオーガがあんなに……あの犬の化け物はなに……?」
「…………」
イルマは目の前に現れた魔物達の威圧感に少々気圧されている。
「ねぇセラ――!?」
イルマは突然、首を振って辺りを見渡し始めた――
「……えっ!?なに、この数ッ!?」
「退路は断たせてもらったよ!」
二人の周囲を囲う森……その木々の間からぞろぞろとある魔物達が現れた。
「コボルドッ!?なんで……いつから――」
「始めからさ、君達が採掘場から出てくる前からこの場一帯は包囲されていたのさ」
先程、採掘場内でイルマたちが戦ったコボルド達だ……コボルド達はイルマとセラを囲むように立っている。
「なるほど、さっき消えたやつらか」
セラは無表情でコボルド達を流し見る。
「……なんて数なの(数百……いや、千以上はいるッ!)」
イルマは少し焦っている。
「くくくくくっ!じゃあ、いくよッ!!」
アルダークが手を振う。すると――赤竜の口から火が溢れ、オーガ達は手に持つ巨大な剣を構え、ケルベロスは異様なほど目が赤く染まって血走り――今、魔物達が一斉に動き出そうとして――
「はぁー、くだらないッ!!」
その直後ッ!轟音ッ!!アルダークとその周辺にいた魔物達を激しい炎と稲妻の破壊が襲うッ!
大地が大きく揺れ、辺り一体の木々が激しく揺れて爆風がその場一体に吹き荒れる。
「うぅ……」
イルマは顔を腕で覆い、目先で起こった突然の爆発によって発生した強烈な風に耐えている……
「…………セラ」
風が収まるとイルマはセラの方を見る――セラは爆発が起こった方に向けて手をかざしており、もう片方の手を服のポケットに入れていた。
「ふぅー、スカッとしたわ!」
「セラ、奴らは……」
「ええ、まあ……これで終わってくれたらいんだけど……」
セラが超威力の魔力弾を放ったのだ……火と雷の複合魔術でかなりの威力をもつものだ。
「…………ははははは、少しはやるみたいだね!」
「まあ、そうよね……」
「…………」
爆発によってできた土埃の中から一人の人物が姿を現した。
「わざわざ呼んだのに、全員やられちゃったかぁ……ちょっと悲しいね」
アルダーク……セラの放った魔力弾の直撃を受けたはずの人物がそこにはいた。
「(あのバリア、今の技でも破れないか……)」
セラはアルダークを見ている……その全身は半透明の対魔術障壁で守られており、セラの魔術の直撃を受けても無傷だった……
「厄介だね、あの透明なやつ」
「ええ、でもなんとかなるわ……(次はもっと強力なやつを……)」
二人は身構えてアルダークを見据える――
「(大した技量だ、あの銀髪の娘……)」
アルダークはセラの魔術で全滅した魔物達の死骸を見ている……
「(まあ、退路はないから――)」
「えいっ!!」
セラが手を大きく振るって魔術を唱える――すると、辺り一体に凄まじい冷気が押し寄せて……
「なあ、氷の世界を知ってるか――」
押し寄せた冷気はセラを中心に辺り全体に広がっていき……
「――テメェら全員ッ!!凍え死ねぇぇぇぇぇーッ!!!!」
セラが再び手を振る――直後ッ!凄まじい風が辺り一体に吹き荒れて――その風は冷気と交わって瞬く間にその周辺へと広がっていき――
大地に木々、そして――膨大な数のコボルド達を全て氷漬けにした。
「す、すごぃ……」
イルマは辺りを見渡す……そこはまるで別世界のようで……自身とセラがいるこの場所以外の全てが凍りついていた。
「ふふふ、私たちを包囲したですってぇ?あんた……幻覚でも見てたわけ?」
氷と風の複合魔術……セラは先程まで自分たちを取り囲んでいた大量の数のコボルド達を全て、瞬く間に氷漬けにして永眠させたのだ。
「ふーん、なるほどねぇ……」
アルダークは特に焦ることもなく……本来は氷漬けになっていたはずだが、対魔術の障壁のお陰でその身に変化はなかった。
「大したことないわね、あんた……私がちょっとその気になれば……ふふ、何が滅び神の祝会の幹部よっ!アンタはただの凡人、取るに足らない三下よッ!!」
セラは見下すような態度でアルダークに言い放つ。
「くくく、君は本当に――」
「――セラッ!!上だっ!」
先程、二人に襲いかかった二頭の蛇型の竜が上空からイルマとセラの二人に目掛けて物凄い速度で向かってきた――
「くっだらね……」
セラは竜達を一瞥し――指先から二発の雷線を放ったッ!雷線は竜達に目掛けて一直線に飛んでいき――命中ッ!!一頭は頭部を破壊されて即死し、もう一頭は翼に風穴を開けられて体勢を崩し、そのまま地上へ落下していき――
「てりァッ!」
地上に堕ちるよりも速くにイルマが地を蹴ってその竜に近づき――全身を無数の剣撃でバラバラにした。
「(確かに素早いけど……あの時、海で戦った海竜に比べたら……)」
イルマは着地すると同時に力強く地を蹴り――アルダークに突っ込むッ!
「(魔術がダメならあたしが――)」
剣を振りかぶってアルダークに強力な一撃を叩き込んだッ!!
ガギィィンッ!!!
「なッ――!?」
イルマは驚愕の表情を浮かべている――なぜなら……
「魔術じゃダメなら直接に――実に合理的だね!でもね……無意味だよ、僕に対しては――」
アルダークの全身を半透明の障壁が包んでいる……イルマの放った攻撃はその障壁によって防がれた。
「な、なんで……その魔道具は、魔術だけじゃ――」
「ああ、そうだよ……これはね――」
アルダークはそう言うと手をかざし、自身のはめている指輪をイルマに見せつけた。
「こっちの指輪は魔術を防ぐけど……この指輪は僕をあらゆる物理攻撃から守ってくれるのさ!」
アルダークが左手に嵌めている指輪の一つが淡く光を発している。
「そ、そんな……」
「くくく、残念だったねっ!」
「うぅ……」
イルマは地を蹴り、瞬間的にセラの元まで戻った。
「……どうする?セラ」
「確かに厄介ではあるけど……あのての魔道具には制限がある。回数か……耐久か……まあ、おそらく耐久の方でしょうね……随分と余裕そうだし。とにかく、あの障壁にも耐えられるだけの限度があるってこと……つまりっ!」
「耐えられないほどの攻撃を叩き込めば、破れるってことだねっ!」
「そゆこと!」
「じゃあセラ――」
「作戦会議はもういいかい?くくく、僕は君達を少しだけ過小評価していたよ……だから――」
アルダークはそう言うと手をかかげ、指を強く一回だけ鳴らす……すると――先程と同じく歪みが発生して……
「イルマ、来るわよ!」
「うん……あれ、でもなんか――」
歪みが発生している……しかし、今までとは違いその歪みは次第に次第に大きくなっていき――
「くくくくくくく、ここまで抵抗した君達に敬意を払って……これから僕の最高傑作で相手をしてあげるよッ!!」
アルダークの周囲に発生した歪みが辺り一体を飲み込むほど大きくなっていき――その影が二人を飲み込む……
「ねぇ、セラ……」
「ん?」
「なんか……あたし、嫌な予感が……」
「奇遇ね……私もよ……」
……………
………




