第三十話 人喰いコボルド
「ここがアジト、なんだね」
「ええ、地図を見る限りはね」
「…………(ここに、子供達が……)」
イルマとセラの二人は村で渡された地図をたよりに進んでいき、とある場所に辿り着いていた。そこは、今は使われていない放棄された採掘場で……
「確か、魔石の採掘場……だっけ?」
「ええ。今は魔物の巣窟になってるけど、昔……五十年くらい前はかなり賑わってたそうよ。なんでも、ここでしか取れない希少な魔石があったんですって」
「今は無いのかな……その魔石」
「取り尽くしてしまったそうよ。欲に駆られてね」
「そっか……」
「まあ、要するに今は何も無いただの魔物の住処になってしまってるってことね」
「……村の子供達、まだ生きてるよね?」
「イルマ、何か感じる?」
「……ここからじゃなにも」
「そう……時間はあまり無いわ、行きましょう!」
「うん!」
二人は意を決してコボルド達のアジトとなっている採掘場へと入って行く。
……………
………
「今のところ灯りは必要なさそうね」
「うん」
二人は採掘場内を歩いている……内部は崩落を防ぐために丈夫な木などで補強され、壁には等間隔に魔石灯が置かれていて採掘場内を明るく照らしていた。
「これだけ広さがあれば剣を使うのに問題はなさそうだよ」
「そうね……思ってたより中は広そうだわ(これなら魔法もある程度は使えそうね)」
イルマが先頭を歩いて前方を警戒し、セラがその後ろに続いて歩き後方を警戒している。
「ん!?」
「どうしたの!?」
イルマが急に立ち止まった……
「……セラ、結構な数がこっちに向かってきてる」
「コボルドかしら?」
「恐らく」
二人は身構えて前方を警戒している……
「…………きたッ!」
「ええッ!」
二人の前方から数十匹のコボルド達が押し寄せてきた。コボルド達は何やら気性がとても荒く、目が赤く血走っておりかなり危険な状態だ。
「セラッ!援護をお願いっ!」
「ええ、任せてっ!」
イルマはコボルド達がこちらに到達するよりも速くに剣を抜いて地を蹴り、前方へと突っ込んでいってコボルド達との彼我の距離を瞬く間に詰めていき……
「……ッ!!」
横薙ぎに一閃ッ!!先頭列にいた数匹のコボルドを真っ二つッ!上下二つに切り裂いた。
「(コイツらが村をッ!!)」
後方にいる残りのコボルド達は目の前で起こった仲間の死を気にもせず、次いでイルマ目掛けて次々に襲いかかっていく。
「邪魔――」
イルマはコボルド達を圧倒的な剣捌きで切り倒していく……首を刎ね、胴体を切断し、腕や足を切り飛ばして次から次へと無力化していき……
「しないでッ!!」
最後に立っていた二匹のコボルドの首を刎ねた。
「ふぅー、これで最後」
イルマは一息吐くと剣を振り、コボルド達の血で汚れた刀身から血を払う。
「ふふ、援護する暇もなかったわ」
セラが近づいてくる……
「まだまだ結構いそうだよ」
イルマは手足を切られながらもまだ立ちあがろうとする残りのコボルド達の心臓を次々に剣で突き刺している。
「なんだか様子がおかしかった……この魔物達……」
「様子?」
「うん。怒ってるっていうか……うーん、なんて言えばいいか…………と、とにかくっ!なんかおかしかったの!」
「様子がおかしい、ねぇー……」
セラは地面に横たわるコボルドの死体を見ている。
「なんか、分かりそう?」
「んー、もしかしたらだけど……コイツら、操られてたかもしれないわね」
「操られてた?」
「ええ、この世界には魔物を自身の思うがままに操り従わせることのできるやつもいたりするのよ」
「魔物を……操る?」
「魔物使いっていってね。変なのもいるのよ」
「そ、そうなんだ……」
「まあ、単なる憶測だけどね。もしかしたら、さっき言ってた特殊個体ってやつかもしれないしね」
「そっかぁ……(なんだか、嫌な予感がする……)」
イルマは下を向きながら難しい顔をしている。
「まあ、なんにせよ先に進めば分かるわよ。速く行きましょ?」
「うん」
二人は採掘場内のさらに奥へと進んでいく……
……………
………
「しつこいッ!速く死ねッ!!」
「…………ッ!!」
イルマとセラの二人は無数に湧いて出てくるコボルド達を倒し続けている。
「ったくッ!!何匹いんのよ、コイツらッ!」
セラは後方から迫ってくる数十匹のコボルド達に魔法をぶち込み続けている。恐ろしく速い雷線で頭を吹き飛ばし、無数の風の刃で体中を切り刻んでバラバラにし、瞬時に鉄をも溶かす炎でコボルド達を火だるまにして焼き殺す。
「イルマッ!!そっちはどう?」
セラは後を振り向いて前方の状況を確認する。
「凄い数だよっ!!セラ!」
イルマは無数のコボルド達に四方を囲まれている……
「(百匹どころじゃない、なんでこんなにいるの!?)」
イルマはコボルド達の方位から抜け出そうと腰を軽く捻ねって一回転し、間合い内にいるコボルド達に強力な回転斬りをお見舞いする。間合いにいた全てのコボルドは綺麗に真っ二つになり、大量の血を撒き散らす。
「(とにかく、全員殺さなきゃっ!!)」
イルマは軽く息を吸って剣のつかを力強く握って地を蹴り、前方のコボルド達に向かって突っ込んでいく。
「…………ッ!!」
間合いに入るや否やイルマは目にも止まらぬ神速の剣撃の数々をコボルド達に浴びせ続ける。
「(この状況を一刻も早くなんとかしないとっ!)」
現在イルマとセラは採掘場内の長い一本道でコボルド達に襲撃され、挟み撃ちという最悪の状況にさらされている。
「(後ろはセラがなんとかしてくれる。こっちはあたしがなんとかしなきゃっ!)」
イルマは強力な剣撃をコボルド達に浴びせ続ける……首を切断し胴体を切り裂き、胸を刺して心臓を串刺しにし、視界に映るコボルド達を次々に討伐していく。
「イルマの方も大変そうね(仕方ない、帰りが面倒になるけど……)」
セラはそう言うとしゃがんで地面に手を触れ、魔法を唱える。
「しばらくそこで大人しくしてなさい、後でちゃんと殺してあげるから」
セラは分厚い氷の壁で道を塞ぎコボルド達の侵攻を止めた。壁の向こう側からは壁を叩く無数の音が聞こえるがセラの作った氷の壁はびくともしない。
「これでこっちは大丈夫ね」
そう言ってセラはイルマのいる方に駆けていく。
……………
………
「はぁ、はぁ、終わった、かな……」
「そうみたいね……」
しばらくして二人は、無限とも思えるコボルド達の大群をなんとか殺し尽くした。下を見れば無数のコボルドの死体で地面は埋め尽くされており、流れ出た血でその一体は真っ赤に染まっていた。
「さすがに疲れたよ……」
「そうね……でも、時間がないわ。少し休んだら行きましょう」
「うん」
少ししてイルマは息を整えてセラと共に歩き出す。
「やっぱり変ね」
「ん?」
「さっきのコボルド達、普通じゃないわ。多分、特殊個体でもない……誰かに操られてるわね」
「…………」
「どういうつもりか知らないけど、嫌な感じね。全く……」
「村も、その誰かが襲わせたのかな……コボルド達に」
「そういうことになるでしょうね」
「…………」
イルマは複雑な表情をして下を向く。
「……なんで、こんなことしたんだろ……」
「さあね……まあ、魔物を使って村を襲わせるなんて常人がすることじゃあないわよね」
「…………」
「ほんっと、迷惑な話だわ……」
「ねぇ、セラ」
「ん?なに」
「あたし…………ん?」
イルマは何かを言おうとして立ち止まる……
「ん?どうしたの、急に立ち止まって……」
「臭う」
「え?」
「なんだろう……この臭い」
「……私は何も臭わないけど?」
「(何か、嫌な……)」
イルマが急に走り出した。
「ちょっと!?イルマ――」
「(何だが……とにかく急がないとッ!)」
イルマは採掘場内の道を走り続ける…………そして、とある場所で止まった。
「ここだ……」
そこは一つの部屋……のような場所だった。扉は壊されていて地面にその残骸が散らばっていた。
「…………」
イルマは目を凝らして中を覗いてみる……しかし、暗くてよく見えないようだ。自身の持つマジックバックからランプを取り出して灯りをつけ、部屋の中へと入って行く。
「…………」
イルマはランプを照らしながら部屋の中を調べている……辺りは真っ暗でイルマの持つランプではよく見えなかった……そんな時ッ!
ピチャ
「え?」
何かを踏んだようだ、それは液体のようなもので……イルマは足元を照らす。
「……これって」
その液体は赤色で恐らく何かの血だ。イルマはそう思いその血の辺りをランプで照らし出し……
「……うッ!?」
カランッ!
イルマが突然自身の口を手で押さえ、ランプを落とした。
「…………」
イルマは驚愕の表情を浮かべながらある場所を見ている……そこには落としたランプが転がっていて、その付近を灯りが照らしていた。
「なん、で……これって……」
手だ。人の手がそこにはあった……しかし、あるのは手だけだ。その先には何もなかった。
「ちょっとー!イルマっ!どこー?」
「セ、ラ……」
後方からセラの声が聞こえる。
「イルマー!もぉーどこいっ――あっ!?いたっ!!」
セラがイルマを見つけたようで真っ暗な部屋の中に入ろうとして……
「セラッ!!!」
「え?」
イルマが声を発してセラを止めた。
「ど、どうしたのよ……急に大声なんて出しちゃって」
「…………」
イルマの顔は真剣だった、そんなイルマを見てセラは……
「何があるの?」
「……お願い、魔法でこの部屋一体を照らして」
「……分かったわ」
セラは部屋に入ると手をかざして魔法を唱え、灯りを発する光の玉を無数に生み出して暗く閉ざされた部屋全体を明るく照らした。
「うぅッ!?」
「え……」
二人は目前に広がった非現実的な光景を目にした。そこにあったのは死体だ、人間の死体だ。体中が食い荒らされており見るも無惨な状態だ。手足は千切られ、腹が食い破られて内臓が剥き出しの者や、全身が酷く喰われて骨まで剥き出しになっている者や、そもそも損傷が酷すぎて人の体を成しておらずバラバラになっている者もいた。
「あ、あぁ……」
「イルマっ!」
あまりの光景にイルマは尻餅をついてその場に崩れ落ちた。
「全部、人……うぅっ」
イルマは口を手で押さえて嘔吐感を必死に押さえている。
「大丈夫、イルマ?」
セラが近づき慌てて介抱している。
「(遅かった、間に合わなかった……)」
イルマは苦しそうな表情を浮かべて悔恨している。
「(酷いことするわね……胸糞悪いッ!)」
セラは辺りを見渡しながら不機嫌そうにしている。
「あ、あたし……」
「一旦部屋を出ましょう」
セラはイルマを支えながら攫われた子供達が食い荒らされた部屋を出た。
……………
………
「もう、大丈夫だよ。セラ」
「本当に?」
「うん、ありがとね」
二人は採掘場内の壁にもたれかかりながら座っていた。
「……これから、どうしましょうか?」
「…………わかんない」
「そうよね……(攫われた子供達も……)」
「ねぇセラ?」
「ん?」
「あの食い殺された人達って、ほんとに攫われた子達なのかな?」
「たぶんね…………イルマ?」
イルマが少しよろけながらも立ち上がる。
「確認してくるよ」
「もう一度入るの?大丈夫?」
「うん。もう大丈夫……(ニマちゃん……)」
イルマは少女ニマとの約束を思い出しながらもう一度部屋に入る。
「…………」
部屋の中に無造作に横たわっている遺体の数々をイルマは見ていく。
「(何してんだろ……あたし)」
イルマは力無く歩いている……その目は朧げだ。
「…………ッ!?」
イルマは何かを見つけたようで、とある遺体の前で足が止まった。
「これって……」
しゃがんでその遺体の近くに落ちていたとある物を拾う。
「ニマちゃん……ごめんね」
それは花の髪飾りだった……今は血で赤く染まっているがイルマには分かった。それは村で見た少女ニマの髪飾りと瓜二つだったからだ。
「…………」
イルマはその髪飾りを大事そうにハンカチで包み、服のポケットに入れた。
「(帰ろう……)」
イルマが部屋を出ようとする……が、その時ッ!
「え!?」
部屋にある古びたタンスの近くから音がしたのだ。イルマは近づいて確認する……見た感じは古いただのタンスだがよくみると何やら何度もタンスを動かした跡があった。
「(何だろ?)」
イルマが不思議そうに眺めていると……
ガサゴソッ!
「(やっぱり何かいる……この中、いや違うな)」
イルマは何を思ったのかタンスを押し出した……すると、そこには。
「隠し部屋かな……」
そこには明らかに人為的に作られたであろう空間があって……
「(入ってみよう)」
イルマはセラが魔法で生み出した光の玉の幾つかを手で触れてその空間の中に移動させて自身も一緒に入る。そこには……
「コボルドッ!?」
そこにはコボルドが十数匹ほどいた……しかし、先程戦った奴らとは少し違った……なぜなら。
「コボルドの……子供?」
体は一回りも二回りも小さく、まだ生まれて間もない個体もいた。
「…………」
イルマはじっとそのコボルド達を見ている……よく見ると何かを食べている個体もいる、それは明らかに人間の手足で……
「…………」
イルマはそんな光景をただ、ぼーっと見つめていると……
ドォォンッ!!!!
次の瞬間ッ!その光景は一変した。目の前で爆発が起こると同時に炎が勢いよく燃え盛った。
「こんな所に隠れてたのねっ!気づかなかったわ!」
イルマの後ろでセラが手をかざしていた。魔法で火球を放ったのだ。まだ幼いコボルドの子供達は抵抗の一つもできずに絶命する。
「ははは、よかったわっ!ちゃんと始末できて……よくこんな場所見つけれたわね。さっすがイルマっ!……イルマ?」
イルマは目の前で燃え盛る炎をとても楽しそうにニヤニヤしながら見ていた。
「イル――」
「ねぇセラ、魔物は敵だよね?」
「え?……どうしたの、急に……あったり前でしょッ!魔物は全て人類の敵よッ!全員殺さなければならないわッ!!だって敵なんだから」
「そう、だよね……ふふ、帰ろっか?」
「そうね。私もちょっと疲れたわ」
こうして二人はこの場を後にし、採掘場の出口へと向かうのであった。
投稿が遅くなってしまい申し訳ないです。




