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第二十九話 薬草採取依頼にて……


「ないなぁ……(ここにもないのかなぁ……)」


「ねぇイルマ、そっちはどう?」


「似たようなやつはあるんだけど……色が違うんだよねぇ〜」


「そう……(また場所を変えた方がよさそうね)」


現在時刻は午前十一時を過ぎた頃……イルマとセラの二人はギルドで受けたとある依頼の真っ最中であった。


「ねぇセラ、ほんとにこの辺なの?」


「ええ。依頼の内容を見る限りはね」


セラは今回受けた依頼書の内容を再度確認している。


「(メルトアから北東へ数キロ程行った先にあるヨナの森で採取可能な妖幻草の納品……場所はあってるはずなのに、おかしいわね……どこにもない)」


セラは依頼書を見ながら難しい顔をしている。


「ねぇセラ、もう少し奥の方に行ってみようよ!」


「そう、ねぇ……よしっ!行ってみましょう!」


「うん!」


二人はヨナの森のさらに奥の方へと進んでいく……


……………


………


「ここならあるかなぁ……」


「あるといんだけど……まあ、とりあえず探してみましょう……」


二人はこの森の深奥まで来たので、早速目的の妖幻草を探しはじめた……


「んー……似たようなのはちょこちょこあるんだけど……この妖幻草ってのはないなぁ……」


イルマは片手に持った植物の図鑑で妖幻草のページを開き、辺りをくまなく調べている。


「これは葉の形が違うし、こっちは似てるけど色が違う……んー、何だかここにもなさそうな気が…………ん?」


イルマは何かを感じとったようで前方にある茂みの方を見ている。


「この気配は……人?…………どんどん近づいてくる……」


イルマが感じとった人の気配なるものは、次第にこちらへ近づいてきて……


「…………だ、れか……た、すけ……」


「ん!?」


「……誰か、誰か助けてぇぇぇぇーッ!!!!」


「え!?」


イルマが感じとった気配の正体が露わになる……それは、一人の小さな女の子だった。


「助けてぇぇぇぇぇぇぇーッ!!!!!」


その女の子は茂みの奥から姿を現わすや否や、イルマに勢いよく抱きついた。


「え!?えと、えッ!?」


イルマは予想外の事態に驚き、慌てふためいている。


「え、えと……だ、大丈夫!?」


「……お母さん、お母さん達をッ!!お母さん達を助けてッ!!!」


小さな女の子はイルマに抱きついたまま泣き続けていて、とても会話ができるような状態ではなさそうだ。


「どど、どうしよう!?…………あ、あたし……」


「イルマっ!!大丈夫?何か今、子供の声みたいなのが聞こえたけど……」


セラが心配して駆け寄ってきた。


「セラっ!?何か、急に子供が……」


「え!?何でこんなとこに!?」


セラも予想外の状況に困惑しているようだ。


「と、とりあえず……落ち着かせましょうっ!」


「う、うん……」


イルマとセラの二人は、泣きじゃくる女の子を宥めて落ち着かせようとする。


……………


………


「もう、大丈夫かしら……?(怪我はないみたいだけど……)」


「な、何があったのか分かんないけど……大丈夫っ!あたし達が、いるから……ね?」


「…………」


幼い少女は泣き止むと、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「ねぇ、お嬢ちゃん。一体何があったの?」


「ぁ、あの……お姉ちゃん、達は?」


「ああ、まだ名乗ってなかったわね。私はセラよ、冒険者」


「あたしはイルマっ!セラと一緒、あたしも冒険者だよ!」


「セラさんに……イルマさん……」


二人は幼い少女に名を名乗る。


「で、お嬢ちゃんは?」


「…………ニマ……私は、ニマ……です」


「そう。ニマちゃんね」


少女ニマは弱々しい声で名を告げた。


「ねぇニマちゃん、お姉ちゃん達に何があったのか教えてもらえないかな?」


「あたし達、冒険者だし。きっと力になれると思うよ」


「…………私……私、の……村が、村が襲われたの……魔物に……」


「そう……」


「魔物……」


少女ニマは震える声で二人に告げた。


「突然、現れて……それで……」


ニマは下を向いていて、その表情は伺えない……


「そう、魔物が…………それで、どんな奴らだったのかしら?」


「たぶん、コボルドだよ……あれは……」


「ん?コボルド?」


「コボルドって……ねぇセラ、ゴボルドって人を襲ったりするの?」


「いや……私の知る限りではそんな事をするような奴らじゃないはずだけど……いたずら好きでたまに悪さもするけど、人を……それも村を襲ったなんて聞いたこともないわ」


「そっか……ねぇ、ニマちゃん?村を襲った魔物ってほんとにコボルドだったの?」


「うん」


イルマがそう尋ねると少女ニマは頷いた。


「そっかぁ……セラ、これって……」


「ええ。もしかしたらだけど……前に私達が戦ったドラゴンゾンビみたいな感じなのかも……」


「確か、特殊個体……だっけ?」


「ええ。まあ……今回村を襲ったっていうコボルドがそうなのかは断定できないけどね」


「その可能性があるかもしれないってことか……」


「まあそんな感じね」


二人は初めて受けた依頼で遭遇したドラゴンゾンビの特殊個体の事を思い返しながら色々と考えている。


「ねぇニマちゃん、そのコボルドってどれぐらいの数がいたかしら?」


「…………百匹、百匹以上はいたと思う……」


「百以上……(結構な数ね……)」


「ねぇセラ、村は……」


「……被害はかなり出てると思う。でも、この近くにある村って言ったらヨナの村くらい……たぶん、まだ全滅はないと思う」


「ヨナの村?」


「ヨナの村はこのヨナの森内部にある唯一の村で、確か二百人くらい暮らしていたはず……この森だって魔物も出るっちゃ出るから恐らく村には守り手くらいは何人かいるでしょうし……そうそう村が滅んだりはしないと思うわ。でも、急いだ方がいいわね」


「だね。人を襲うコボルド……それもかなりの数、速く行かないと手遅れになるかも……」


「ねぇニマちゃん、私達を貴方の村に案内してくれないかしら?」


「助けて、くれるの!?」


「ふふ、当たり前じゃない!私達は冒険者よっ!」


「困ってる人達を助けるのも冒険者の仕事だからね!」


「お姉ちゃん達……」


今までずっと暗い表情をしていたニマの顔が僅かながら綻び、明るくなる。


「ニマちゃん、時間を要するわ。怖いかもしれないけど、今すぐ私達を貴方の住んでる村に案内してくれないかしら?」


「……うんっ!こ、こっちだよっ!!」


ニマは返事をするや否や走り出し、森のさらに奥の方へと駆けて行った。


「イルマ、行こうっ!」


「うん!急がないとだねっ!」


二人も少女ニマの後を追って走り出した。


……………


………


「これは……」


「酷い……」


「お母、さん……みん、な……」


イルマとセラの二人は幼き少女ニマの案内で、コボルド達に襲撃されたヨナの村に着いた。状況は……最悪だった……村の建物はほとんど破壊し尽くされ、そこら中から悲鳴が聞こえ……この村全体が阿鼻叫喚と化していた。


「何よ、これ……ほんとにコボルドがやったの!?」


「…………(たくさん死んでる、全部血まみれだ…………あたし……)」


セラは自身の予想を超える破壊を見て唖然とし、イルマは険しい表情で自身の手首を強く握りしめている。


「お母さん……お父さん……お姉ちゃんッ!!!!」


「あっ!?待って、ニマちゃんッ!!」


セラの声は届かず、ニマは走り出した。


「ニマちゃん……イルマ、早く…………?……イルマ?」


セラの声が聞こえていないのか、イルマは自身の手首を強く握りしめたまま下を向いている。


「イルマ……どうしたの?」


「え!?……ああ、ごめん」


「大丈夫?」


「う、うん。ちょっと考えごとしてただけ……」


「そう……ならいいけど……」


二人はニマの後を追う……


……………


………


「お父さんッ!!!」


「ニマッ!?無事だったのかっ!!」


ニマは父親を見つけると涙を流しながら駆け寄った。


「お父さんッ!!私……」


「ニマ……」


親子は抱き合ってお互いが生きていたことに喜びを感じている。


「…………あっ!?いた、ニマちゃんっ!」


セラとイルマの二人が追いついてきた。


「ん?あなた方は?」


「私達は冒険者ですっ!」


「お父さん、このお姉ちゃん達が私を助けてくれたのっ!」


「助けた?……まあ、そうなるのかな……(まだ特に何もしてあげれてないけど……)」


「そ、そうか……娘をここまで……」


ニマの父は二人に近づいてきて……


「お嬢さん方、ありがとうっ!!娘をここまで……」


「い、いえ。私達は…………」


「ねぇお父さんっ!お母さんは?」


「母さんならあっちで治療を受けているよ。重症だが……命に別条はないそうだ。」


「お母さん…………よかったぁ……なら、お姉ちゃんは?」


「…………ミナ、は……」


ニマの父は急に黙ってしまう。


「お父さん?」


「…………すまない、ニマ。……ミナは、ミナはコボルド達に攫われた……村の他の子供達と一緒に……」


「え……」


ニマの父は拳を強く握りしめ、暗い表情でそう言った。


「子供を、攫った!?コボルドがっ!?」


「…………」


「大人達は手当たり次第に殺されたが、子供だけはなぜか殺されずに攫われていった…………昨日まで争い事とは一切無縁の場所だったのに……なぜ、なぜこんな事にッ!」


「(村を襲撃して人をたくさん殺しただけでも異例中の異例だってのに、子供を攫った!?一体何が起きてるっていうの?)」


セラはコボルド達の異常な行動に動揺している。


 「な、んで……なんで!?なんでお姉ちゃんがっ!!」


「ニマ……」


「お父さんッ!!なんでお姉ちゃんが攫われなきゃいけないの!?なんで、なんでなの!?ねぇ、お父さんッ!!!」


「…………」


ニマは涙を流しながら父親にしがみついている。


「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」


「すまない……」


「ニマちゃん……」


「大丈夫だよ、ニマちゃん」


「イルマ?」


今まで口を閉ざしていたイルマが急に喋り出し、父親に抱きついて泣いている少女ニマの方へと歩いていった。


「ニマちゃん、聞いて……」


「イルマ、お姉ちゃん?」


「貴方のお姉ちゃんはあたし達が必ず助け出す。だから……もう泣かないで」


「…………」


イルマはニマの頭を優しく撫でた。


「ほん、とうに……ミナ、お姉ちゃんを……助けてくれるの?」


「うん。絶対に助けてここへ一緒に帰ってくるよ。約束だよっ!」


「やく、そく……」


「うん、約束。だから……もう、大丈夫だよ。」


「イルマ、お姉ちゃん……」


「それに、ニマちゃんが泣いてるとお父さんも辛いよ。だからね……」


イルマはニマの両肩に手を置いて……


「あたしが必ず貴方のお姉ちゃんを助け出すっ!だから、ニマちゃんはそれまで泣かずに待っててよっ!ね?」


イルマはそう言ってニマに優しく微笑んだ。


「イルマお姉ちゃん…………うんっ!分かったよ!私、私もう泣かない……だから、ミナお姉ちゃんを絶対生きて村に連れて帰ってきてね!イルマお姉ちゃんっ!!」


「うん、任せてっ!」


「イルマ、貴方……」


イルマは少女ニマに連れ去られた姉を必ず救い出すと約束した。そんなイルマの行動をセラは、何やら複雑な表情で眺めていて…………


……………


………


「ねぇ?ニマちゃん」


「どうしたの?イルマお姉ちゃん」


少ししてイルマは連れ去られた子供達を助けるべく、セラと共にコボルド達のアジトへと向かおうとしていた。


「貴方のお姉ちゃん、ミナちゃんの特徴を教えてもらってもいいかな?さっき聞きそびれちゃったっ!」


「うん。ミナお姉ちゃんはね、私と一緒で頭にこの白い花の髪飾りをつけてるよ!」


ニマは自身の頭に付けている白い花の髪飾りを触りながらそう言った。


「そっか、分かったよ」


「冒険者殿……」


「ん?」


ニマの父親が口を開く。


「どうか……どうか、娘の事を頼みます」


そう言ってニマの父親はイルマとセラの二人に対して深く頭を下げた。


「はい。任せてください、必ず攫われた子供達を助けてこの村に戻ってきます」


イルマは真剣な表情でそう言い、セラと共に村の入り口へ向かう。


……………


………


「ねぇ、イルマ?」


「ん?」


二人は村の入り口を目指して歩いている……


「大丈夫?貴方、この村に来てから……なんだか、ちょっと……」


セラはずっと感じていた……この村に入ってからイルマの様子が少し変だと言う事を。


「え?」


「ああ、やっぱりなんでもないわっ!……気にしないで(私、何言ってんだろ……これだけ破壊された村を見たら、誰でも……)」


「少し、昔の事を思い出してて……」


「え……昔?」


「うん……」


イルマは足を止め、自身の手首を強く握りはじめた。


「あたし……ね、妹がいたの」


「妹?」


「うん。もう、いないけど……」


「…………」


「あたしがまだ、小さい時…………村、がね……魔物に襲われて、それで……」


イルマは自身の服の袖を捲った……


「それは?」


セラはイルマの手首を見ている……そこには二つの手織りのブレスレットが付けてあって……


「お母さんがくれたんだ……一つはあたしの、もう一つは……」


イルマはブレスレットに手を優しく添えている……一つは古いながらも綺麗なままだが、もう一つは血が濃く滲んでいてボロボロだった。


「村が襲われて……兄弟が攫われて……なんだか、ニマちゃんを昔の自分と重ねちゃって、それで……」


「…………」


イルマは昔の事をお思い返しながら話している……その声はとても弱々しくて……


「あの時は……何もできなかった。でも、今なら……」


「イルマ……」


「あっ!ごめんね、急にこんな話して……困るよね、あはは……」


「…………」


イルマはセラに気を使わせまいと作り笑いをしている。


「無理に笑わなくたっていいわよ……」


「え?今なんて」


「何でもないわ……速く行きましょう」


「う、うん……え?」


セラはイルマの手を優しく握った。


「急に、どうしたの?」


「行くわよ」


「……うん」


イルマは急に手を握られて少し驚いている……でも、なんだか嬉しそうで…………こうして、二人はまた歩き始め……攫われた村の子供達を助けるべく、コボルド達のアジトへと向かうのであった。



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