第二十六話 愚者の行い
「ねぇセラ、今日はどれにする?」
「そうねぇー……どれにしようかしら……」
現在時刻は朝の九時を過ぎた頃……イルマとセラの二人はエレイムの町からメルトアに帰還して数日が経ったある日……次に受ける依頼を決めるべく冒険者ギルドで現在ある依頼の数々を見ていた。
「前に受けたのが護衛依頼、その前の初めて受けたのが討伐依頼……どちらも状況次第では命を落とす可能性だってある……なら」
そう言うとセラは、手元にある依頼の数々を次々に流し見ていって……
「今回受けるやつはちょっと簡単なやつでもいいかもね。毎回生死を伴うようなやつを受けるのもなんだか疲れるし…………だから、これなんてどうかしら?」
セラはとある依頼をイルマに見せる。
「薬草採取の依頼っか……確かに、毎回危ないやつを受けるのもあれだし…………今日はこれにしよっか?」
「決まりね。受付のお姉さんの所に行きましょう」
「うん」
そうして二人がギルドの受付に向かおうとしたその時ッ!
「貴方達が太陽と月の二人かしら?」
「ん?」
「え?」
後方から何者かに声を掛けられた。
「えっと……どちら様で?」
「私達は冒険者パーティー、英雄の夜明けよ!」
「英雄の……夜明け?」
イルマが尋ねると一人の少女がそう名乗った。少女の後ろには他に男女が三人いる、恐らく仲間だろう。
「もう一度聞くけど、貴方達が太陽と月の二人よね?」
「は、はい……」
「そう……私は英雄の夜明けの一人、魔術師のサーシャよ」
そう名乗るのは茶色の短い髪に赤色の瞳をした気の強そうな少女だ。魔術師がよく着ているローブを身に纏っており、頭には魔術師特有のとんがり帽子を被り、眼鏡をかけている。
「あの……あたし達のこと、知ってるんですか?」
「そりゃあー知ってるわよ!だって有名だもの」
「有名?」
「ええ。冒険者認定試験では貴方……あの剣才のミラと互角に渡り合ったらしいじゃない?それに、隣の貴方も試験では圧倒的な実力差を誇ってたらしいわね。なんでも、無詠唱で魔術を扱えるんだとか……けッ!さすがはスーパールーキー様だッ!他とは格が違うっ!」
サーシャと名乗る少女は、イルマとセラの二人に対して嫌味っぽくそんな事を言った。
「え…………そ、そんな事ないですよっ!あ、あたし達は……」
「そんな謙遜しなくたっていいわよ。だってッ!すごいじゃないっ!冒険者としての初めての依頼でCランク以上の討伐依頼を難なくこなし……その後に受けた護衛依頼では、運悪くあの厄介な盗賊集団獣の牙からの襲撃を受けるも逆に返り討ちにし……壊滅させたって話じゃない?それだけでもすごいってのに貴方達……その後に到着した町で偶々出現して町の漁業に深刻な被害を出した海竜をも討伐しちゃったらしいじゃない?今ギルドは貴方達の話でもちきりよっ!ほんっと……目障りだわ。貴方達……」
「あ……あたし達、は……」
「ふん、貴方達……ちょっとばかし強いからってだけであんまり調子に乗るんじゃないわよッ!」
「そ、そんな……あたし、調子に乗ってなんか……」
「はぁ?乗ってるじゃないッ!!あんた、自覚ないの?」
「あたし……」
「何よ?言いたいことがあるなら何か言ってみなさいよッ!」
「…………」
イルマはサーシャから受けた言葉に動揺していて何も言えなくなってしまう。
「あんた口がついてないの?黙ってないで何か言いなさいよっ!ねぇッ?」
サーシャが冷笑しながらそう言うと……後ろにいる彼女の仲間達も何も言えずに下を向いて黙っているイルマを見てクスクスと笑っている。
「だから何か言えってのッ!なに下向いてんのよ、人と話す時は目を見て話す……そんな当たり前の常識もないわけぇ?アンタ」
「うぅ……」
イルマは目が潤み今にも泣き出しそうになる……が、その時!
「英雄の夜明け、ねぇ……ふふふっ!」
今まで黙っていたセラが喋り出す……
「それってつまり……あれでしょ?いつの日かに読んだ本に書いてあったわ。確か……どれほど苦しく困難な状況に自信が置かれていたとしてもいつの日か必ず、光が差して良いことが訪れる……ってなやつじゃなかったかしら」
「…………まあ、そんなとこよ」
「あのさぁ……それ、矛盾してない?アンタら?」
「は?」
「だってそうでしょっ?凡人以下でなんの役にも立てない能無しな貴方達には絶対に来ないもの……そんな輝かしい日わ」
「くッ!?」
セラが小馬鹿にするような笑みを浮かべながらそう言うと、サーシャは怒りの表情を浮かべセラに何か言い返そうとするが……
「お前ーー」
「要はあれでしょッ?自分たちには才能がないから、才能があってなんでも出来てしまう私達に嫉妬したって事でしょ?はぁー、醜いわね……アンタ」
「……ッ!?」
セラはサーシャの言葉を遮り、彼女の頭の中にある核心をつく。
「ち、違……」
「別に否定するような事じゃないわ。才能があるものをないものが羨むのは当たり前のことだもの……お前はただ当たり前の事を当たり前にしただけ……でもねッ!!」
セラが拳を強く握りながらサーシャを今にも殺してやるといった表情で睨みつける。
「お前は私の友達で仲間のイルマを傷つけた……おいッ!お前……これから自分が……いや、自分達がッ!どうなるか分かってんだろうなッ!!」
「え?」
セラが殺意を向けながら続ける……
「連帯責任に決まってんだろッ!何がえだッ!お前達四人は代償を払う他ない」
「ちょっと待てよっ!」
サーシャの後ろにいる三人のうちの一人……剣を腰に差した戦士風の男が口を開く。
「あんたの言ってることメチャクチャだぜ?なんで俺達まで――」
「黙れ……」
「くぅっ!?」
セラは凄まじい殺意を含んだ言葉で会話に入ってきた男を黙らせた。
「お前達の意見なんか聞いてないんだよ……決めるのは私だッ!私でないとダメなんだ。それに、さっきお前ら三人もコソコソ笑ってただろ?同罪だよ」
「そ、それは……」
戦士風の男は少し汗をかきながら顔を歪める。
「ちょっと……落ち着きなさいよ……貴方。なんでそこまで……ちょっと言っただけじゃない?」
「ちょっとぉ?どこがだよッ!!メチャクチャ言ってただろうがッ!!」
「くぅ…………分かったわよっ!私も言い過ぎたわ、謝るから――」
「謝ったとしてもその行為にはなんも意味もないわ。私は貴方達を許さない……貴方達がこれからする事は代償を払う……ただそれだけよ」
「だ、代償って……何すればいいのよ?」
「ふふふ、簡単よ」
セラは不敵な笑みを浮かべながら……
「貴方達には私達と決闘をしてもらう……ただ、それだけよ」
「え、決闘……?」
「安心なさい、殺したりはしないから」
「殺し……?ていうか――」
「逃げたりはしないでしょうね?」
「え?」
「なんの問題もないでしょ?私達は二人、貴方達は四人……そっちのが有利なんだから」
「いや、でも……」
サーシャが困っていると後ろから……
「これは多分、受けるしかないやつだぞ」
戦士風の男が今現在の自分達が置かれている状況を理解した口調でサーシャに小声で耳打ちする。
「で、でも……」
「考えてもみろ。あっちは二人でまだ新人、ランクもまだEだ。それに比べて俺達は全員がCランクの熟練パーティー、いくらスーパールーキーってもまだ浅い……俺達が本気だしゃー余裕だぜっ!なっ?」
「う、うん……そうね、分かったわ」
そうしてサーシャは……
「受けるわ、その決闘」
「ふふ、当然よね」
セラからの決闘を受け入れた。
「イルマ」
セラはイルマの手をぎゅっと握る……その手は微かに震えていた。
「聞いて、イルマ。貴方は強い、本当に強いのよ……だから、もっと自分に対して自信を持ってほしいの……でも、どうしようもないって思ったら、私の陰に隠れていなさい。なんとかしてあげるから……だって、私の方がお姉さんなんだから」
「セラ……」
セラがイルマを元気づけようとしてそう言うと、イルマの手の震えは自然と止まって……
「ありがとう、セラ。あたし、もう大丈夫だよ」
「よかった…………それじゃあ」
セラはイルマの手を離すと歩き出して……
「決闘をするのにもってこいのいい場所があるわ……ついてきなさいっ!」
セラはそう言うとギルドの入り口に向かって、イルマもその後を追う。
「行くわよっ!」
サーシャがそう言って歩き出すと、仲間の三人もその後に続く。
……………
………
現在時刻は朝の十時半頃……イルマとセラの二人とサーシャをはじめとする冒険者パーティー運命の夜明けはセラの案内でとある場所にきていた。
「ここって……」
「ええ。ここわ……」
セラの案内した場所はメルトアの東地区にあるとある場所……特にそれといってこの場所には名前がないが、よく決闘や揉め事などがあると何故かこの場所がわりと使われたりする。東地区の中でもかなり廃屋が多い場所でこの付近にはほとんど人が住んでいない、いわゆる無人地帯というやつなのだこの場所は。
「人の気配がないね、ここ」
イルマは辺りを見渡す……建物はそれなりにあるがそのどこからも人の気配が一切しない。あるのはこの場にいる人達の気配だけだった。
「ここなら思う存分殺れるわよ、イルマ」
「うん、セラ」
イルマには分かっていた……さっきセラは殺しはしないと言っていたが恐らく全員殺すつもりだろうと。
「それじゃあ始めましょうか?」
「そうね……(私達なら勝てる……絶対に。こんな生意気なガキ共なんかに負けてたまるかッ!)」
「そんなに身構えないでよ。大丈夫、殺したりはしないからさ……私は慈悲深いんだ。だから……(お前達を絶対に殺してやるッ!!)」
セラは冷たい笑みを浮かべながらそう言って……今、二つの冒険者パーティー同士の決闘が始まるのだった。




