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第二十五話 人魚のアリス


イルマは自身に語り掛けられた声を追って洞窟内を進んでいく。


「(灯りは要らなそうだね)」


洞窟内は天井や壁など所々に隙間が空いていて外の日の光が差し込み、壁がほとんどなく開けている場所もあった。


「(魔物はいないみたい……)」


洞窟内には魔物などは一切おらず、海がすぐ近くにあることから波の音だけが洞窟内に響き渡っていた。


「…………ッ!?……何、これ?」


イルマは何かを見つけたようで走るのをやめて、洞窟内の壁の方を見つめている……そこには……


「これって……銅像……だよね?……たぶん……」


イルマの見つめるその先には、壁をくり抜いてできたちょっとした空間があり……そこには二つの銅像の様な物があった。イルマはその銅像に近づき眺めている……


「この持ってるやつは……剣と……杖、かな?」


二つの銅像はそれぞれ剣と杖の様な物を手に持っている。


「たぶん……両方女性……だよね?……見た感じ……」


銅像はどちらも作られてかなりの年数が経っている様で、所々が崩れていて本来の姿は想像もつきそうにないが、両方とも女性を模して形作られたという事は何となく分かる……という感じだ。


「何でこんなのがこんな所にあるんだろ……?」


イルマは二つの銅像を不思議そうな顔をして眺めている……すると!何やら後方の自身が走ってきた道の方から足音が聞こえてきて……


「あ……」


後ろを見ていると何者かが、イルマのいる銅像がある場所を越してその先へと走り抜けて行き……


「セラっ!!待って……」


イルマが急いで道へ出てセラを呼び止めたッ!


「ん!?……あっ!?いたッ!!」


後方を走り抜けて行ったのはセラだった……セラは声を聞くとすぐに足を止め、イルマの方に駆け足で寄って来た。


「はぁ、はぁ、はぁ……やっと追いついた……」


「ははは……なんか……ごめん……」


「全く、急に走り出すからビックリしたわよ……本当に……」


セラはイルマの前までくると屈んで自身の膝に手を置き、息を切らしている。急に走ったので疲れている様だ。


「ほんとごめんね、なんか……体が衝動的に動いちゃって……」


「そう……で、何だったの……?確か、声が聞こえたとか…………?」


セラが辺りを流し見ながら喋っていると……ふと、ある物に目が留まる。


「何これ……?何かの銅像?」


「うん、あたしも今これを見つけたとこだったの」


「ふーん。見た感じ、剣士と魔法使いってところね。相当昔に作られた物みたい……んー、かなり劣化しててよく分かんないわね」


「何でこんなのがこんなとこにあんだろうね」


「さあね、古すぎて全く分からないわ」


二人は謎の銅像を眺めている……


「まあ、よく分かんないし……早く先へ進みましょ?この先に何かあるんでしょ?」


「そう、だね……うん!行こうっ!」


二人は洞窟内をさらに進んでいく……


……………


………


「終わりが見えてきたわね」


「外に繋がってるのかな……?」


二人がしばらく洞窟内を進んでいると……道の先から光が差し込む、どうやら終着点らしい。


「これは……」


「…………」


二人が先へ進むと、そこには……ちょっとした海岸があった。天井は洞窟内と同じく岩石で覆われているが、側面には何もなく見渡す限りに海が広がっていた。


「これはいわゆるあれね……秘密の海岸ってやつよ」


「ここに……」


二人は辺りを見渡しながら海の方に歩いて行く。


「結構良い場所ね、ここ。町の人達は知ってるのかしら?」


「…………」


「ねぇイルマ、何か分かった?」


「…………」


「イルマ?」


「あたしを呼んだのは貴方……?」


「え、何を言って…………」


イルマが急に妙な事を言い出す……セラは不思議そうな顔をしながらイルマの方を見る。イルマは海の方をただじっと見つめていて、セラもなんとなくその視線の先に目を向けてみる……すると!そこには……


「人……かしら?なんであんな所に」


視線の先……海面に露出している海中の岩石の一つに、人らしき者が座っている……


「ねぇイルマ…………!?」


セラがイルマに何か言おうとしたその時!二人の視線の先にいた人らしき何かが、海の中へと消えていった……


「あれ……?どっかいっちゃった……」


「…………」


セラは呆気にとられた様子で立ち尽くし……イルマは無表情で海の方を見ている。


「んー……何だったのかしら?今のは…………」


「さぁ〜?何なんでしょうねぇー?」


「え!?」


セラは突然の見知らぬ声にビックリして、反射的に声のした方を見る……そこには、一人の少女がいた。先程の人らしき何かがいた場所よりもすぐ近くにある海面に露出した海中の岩石の上にその少女は座っていた。


「って!?貴方、どこか…………!?」


セラが突然自分達の前に現れた少女に何か言おうとするが……その前に少女の驚くべき姿に言葉を失う。美しく透き通った水色の長い髪とその髪色と同じ色の綺麗な瞳のイルマとセラの二人と同じくらいの年齢の少女がそこにはいた。髪の色と同じ綺麗な水色の水着を着ている……だが、この少女は普通ではなかった。なぜならば上半身は普通の人と何ら変わりはないが、下半身が魚のような見た目をしていたからだ。


「に、人魚ッ!?嘘……でしょ……」


セラは驚愕の表情を浮かべながら固まっている。


「ふふふ、そんなに驚かなくてもよくない?」


「まさか、ほんとにいたなんて……」


人魚の少女は軽く笑いながら自身を見て驚いているセラの方を見ている。


「隣の娘は驚かないんだね」


「…………貴方があたしを呼んだの?」


イルマは人魚の少女を見ても特に驚いた様子はなく、ただ質問をして……


「ええそうよ。私が貴方達をここへ呼んだわ」


「ん?達……?」


人魚の少女はそう答えた。


「どうしてあたし達を?」


「ふふ、それはね…………っと!その前に、まだ名を名乗ってなかったわねっ!私はアリス、蒼き人魚のアリスよ!」


人魚の少女ことアリスは二人に自身の名を名乗る。


「アリス……そう、アリスさんね。あたしはイルマ、イルマ・ツアー」


「じゃあ、私も名乗らせてもらうわねっ!セラ、セラ・メレスよ!」


二人も自身の名を名乗る……


「そう……今回はそんな名前なんだ……」


「今回?」


少女アリスは二人の名前を聞いた後、何かを思い出すように視線をずらして何処か遠くを見つめている。


「あの、すみません……それで、あたし達を呼んだ理由…………」


「イルマ、ちょっと待ってっ!その前に……ねぇアリスさん、さっき貴方達を呼んだって言いましたけど……私にも何か関係のある事なんですか?」


イルマがもう一度質問をしようとするが……その前にセラが気になっていた事をアリスに尋ねた。


「ええ、もちろん。貴方にも関係のある事よ」


「で、でも……私には何も聞こえませんでしたよ?」


「ん?あー、それは……どちらに語りかけてもよかったんだけど……まあ、そんなに気にする程の事じゃないから大丈夫よ」


「そうなんですか?」


「貴方達、なんだかとても仲良さそうだったから……どっちか呼べばもう一人も絶対に付いてくると思ったからってだけだから」


「そう……ですか」


セラは納得したように返事をする。


「それじゃあ話しましょうか……貴方達二人をここへ呼んだわけをね」


少女アリスが話し始める……


「まあ、そうねぇー……何で呼んだかって理由を説明する事じたい変な話な気もするし……だって、こうなることは決まっていた事だし……んー、まあ簡単な話これは運命ってやつなのよ。何がどうなっても貴方達二人はここで私と会う事になっていた……貴方達二人が初めて出会った時みたいにねっ!あれも決まっていた事なのよ、ずっと前からね」


「え?」


「それって……どういう……」


「まあ……これから起こる運命に変わりがない程度のことなら言ってもいいか……そうねぇー……」


アリスは戸惑っている二人を気にせず話を続ける……


「じゃあ私からのアドバイス……いや、助言かな……まず一つ。アルシエラ帝国には一切関わらないこと」


「え、帝国……?」


「確か……アルシエラって……ねぇセラ、アルシエラ帝国って……」


「アルシエラ帝国はね、私たちがいるこの大陸の中央に位置する国で、この世界で最も強力な軍事力と経済力を持つ超大国よ」


「あたし……名前くらいしか知らなかったけど、やっぱり結構すごいんだ……その、帝国って……」


「ええ。私の祖国アルセデスよりすごいわ……まあ、それを認めたくはないんだけどね。ムカつくから。一貴族としてのプライドってやつよ」


「なるほど……」


セラは帝国の話になったからかちょっと怖い顔をしている。


「一ついいかしら?」


「何かな?」


「もしも帝国とこれから関わるような事になったら私達はどうなるの?」


「とても不幸になるわ。物凄く絶望して関わってしまった事を後悔し続ける事になるわ」


「そう……(何、この感じは……この人の言ってる事は絶対に間違っていない、絶対に言う通りにしないといけないって……なぜか自然とそう思ってしまう。でも、嫌な感じはしない……敵じゃないって事だからなのかしら、いや……こんなにも自然と人を信用してしまうのも……なんだか……よく分かんない)」


セラは色々と考えて難しい顔をしている……


「ふふふ、心配なんていらないわっ!ただ関わらなければいいだけの話だからさぁー」


「そうね……」


「セラ……」


アリスはそんなセラに不敵な笑みを浮かべながら声を掛けて、イルマは不安そうな顔をしながらセラを見ている。


「じゃあ二つ目いくわねっ!」


アリスは楽しそうに話し始める……


「もしもこれからの人生で貴方達二人のうちどちらかが死ぬような事になれば、もう一人も死になさいッ!これは絶対よッ!自殺でもなんでもいいからとにかく死になさい!」


「死ぬって……」


「…………」


二人は先程同様、この少女アリスが言った事を聞いて衝撃を受けていた……さっき言っていた事よりも予想外のことを口にしたので二人は一段と暗い顔をしている。


「ちょっとぉーっ!そんな顔しないでよ、死ななければいいだけの事でしょ。簡単なことじゃない」


「あの……もしもっ!もしもどっちかが死ぬような事になったとして……もう一人が死ななかったら、その生きてる方はどうなるんですか?」


イルマが少し焦った口調でアリスに尋ねた。


「教えない」


「え……」


「悪いわね、これは言えないのよ……意地悪とかじゃないからね」


「そう……ですか……」


アリスが少し困った顔をしながらそう言いって、イルマは下を向きながら返事をする。


「大丈夫よ……私は死んだりしないわ。だって、イルマが守ってくれるんでしょ?ね……?」


「セラ……」


セラはイルマの両の手をぎゅっと握り語りかける……イルマは少しだけ笑みを浮かべて心なしか元気になった気がする。


「それじゃあ、最後の助言を言うよ……いや、これはただのアドバイスかな?」


「ちょっと待ってッ!」


アリスが喋ろうとしたが、それをセラが止めた。


「ずっと聞こうと思ってたんだけど聞けなかったから今聞くわっ!貴方、未来が見えるの?」


「…………さぁ〜、どうなんだろうねぇ〜」


「はぐらかさないで教えてよ!」


「私って未来が見えるのかなぁー、見えないのかなぁー……どっちかなぁ〜。ふふふふふっ!」


「ちッ!」


アリスが笑みを浮かべながらふざけだしたので、セラもたまらず舌打ちをする。


「貴方って結構キレやすいタイプ〜?舌打ちなんてしないでよぉ〜。大丈夫っ!私は貴方達の味方だから、敵じゃないわ」


「もう一度聞くわ、未来が見えるの?」


「…………答えられない。悪いわね、現時点ではその質問には答えることができないわ」


「そう……(変な感じね、やっぱり……いつもだったらもう攻撃しててもおかしくないのに……この人はムカつくし胡散臭い。でも、なぜか……信用してしまっている……私はこの人の事を……)」


セラは静かに返事をした。


「それじゃあ、最後の言うよ。ふふふ、これはとても簡単で誰にでも出来ること……」


二人は静かにアリスの話に耳を傾けている。


「中途半端な事は絶対にしないことっ!ちょー簡単でしょ!ただそれだけ……」


「中途半端な事?」


「何……それ?」


セラとイルマの二人は他の二つの事に比べると、難しいことではなかったので拍子抜けしていた。


「何事にも徹底的にやれってこと……そうすれば貴方達二人だけは必ず幸せになるわ。でもやらないと……」


アリスは不敵な笑みを浮かべている……そんなアリスにセラが……


「ありがとう、貴方の言ったこと忘れず覚えておくわ」


余裕な表情で笑みを浮かべてそう言った。


「これで私からの話は終わりよ、まだ何か聞きたいことでもある?」


「あ、あの……また、会えますか?」


イルマが少し不安そうな表情を浮かべて聞く。


「安心して、そう遠くないうちにまた会う事になるわ」


「遠くないうち……?」


「今度は四人でね……」


「え、今なんて?」


アリスは小声で呟いて……


「イルマ、もう帰りましょ?話も終わったみたいだし……」


「う、うん……」


「貴方は何か聞きたい事はある?」


「ないわ、お元気で……それじゃあ」


セラはアリスにそう言って、二人は洞窟の入り口へと歩きだした。


「ふふふ、今回の娘達はなかなか面白いわね。次にまた会う時が楽しみだわ。じゃあね、…………、…………」


人魚の少女アリスは最後に小声で何かを言って、自身の美しい尻尾をゆらぬらと揺らしながら楽しそうに笑い、海のどこかへと消えていった。


……………


………


「不思議な人だったね……いや、そもそも人なのかな……?」


「あの人魚はかなり胡散臭いけど……まあ、今日言われた事は一応頭に留めておきましょう」


「だね……」


現在時刻は午後の五時を過ぎた頃……日が沈み初めて辺りはすっかり薄暗くなっていた。二人は洞窟を出て砂浜を歩いていた。


「明日の朝にはこの町を出ましょう」


「うん。ちょっとの間いただけだったのに、色んなことがあったね……セラ」


「ええ、本当にそうね。本当に……」


「よし!早く帰ってご飯にしようっ!あたし、お腹空いちゃった……」


「そうね……」


こうして二人は、この町で滞在している宿へと帰るのであった。


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