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第二十一話 海竜騒動


「んん〜……ぁ、あぇ?ここ、どこぉ?あたし……」


「おはよう、よく眠れたみたいね」


「セ、セラ……あたし……んー、思い出せない。確か……町の古びたお店に入って、それから……えーと、何だっけ?んー……ダメだ、よく分かんないや」


「記憶が少し曖昧になってるみたいね」


「ねぇセラ、あたし……」


「イルマ、貴方は昨日……」


セラはイルマにこの町の飲食店に入ってからの出来事を端的に話した。


「そう、だったんだ……ごめんね、あたし……セラに色々と迷惑かけちゃったみたい」


「いいのよ、私がお酒を頼んだのが原因だし……でも、あんなに早く酔い潰れちゃうなんてね」


「あたし、かなりお酒に弱いみたい……はぁー、お風呂も入らず寝ちゃったよ」


「いいじゃない、寝れたんだから。私も入らず寝ちゃったから、今さっき入ったところよ」


「あたしも入ろっと……汗で体中ベトベトで気持ち悪いや……それに何だか変な匂いもするし、何の匂いだろ……汗、とは別の……んー、この何ともいえない独特の匂いは……」


「イ、イルマっ!早くお風呂に……」


「それに何だろこれ……」


イルマは自身の着ている寝巻きに、何か変な跡が付いているのに気づく。


「何かネバネバしてる……これ何?」


イルマはそのネバネバした何かを手で触っている。


「ちょっ!?何してるの!?汚な……」


「それに、何だか……」


イルマは何となくそのネバネバした何かを嗅いでみる。


「変な臭いがする……ねぇセラ、これ何だか分かる?」


「…………し、知らないわっ!と、とにかくっ!お風呂に早く入って来ちゃいなさいよ……ね?」


「う〜ん、何か気になるなぁ〜」


「そ、それに私……お腹空いちゃったわ、イルマと一緒に食べようって思ってたから、まだ起きてから何も食べてないのよねぇ〜っ!」


「そうなの!?じゃ、早くお風呂入んないとだね!」


「そうそう、上がったら一緒に朝食にしましょ!」


「うん!急いで入ってくるねっ!」


イルマは足早に泊まった宿の部屋にあるシャワー室に入って行った。


「はぁ〜、焦るわぁ……(もしバレてたら私……)」


よほど焦ったのかセラは、体中の力が抜けて脱力しきっている。


「次にやる時はもう少し気をつけないと……」


セラはだらんとしながらも、昨日の夜のことを思い出してニヤついていた。


……………


………


「いい景色ねぇ〜……」


「そう〜だねぇ〜……」


現在時刻は午後二時過ぎ……二人は少し遅めの朝食を済ませると宿を出て、海沿いにあるカフェに来ていた。


「風もすっごく気持ちいねぇ〜」


「ええ、この席を選んで正解だったわ」


二人はこのカフェのテラス席に座り、穏やかな時の流れに身を置いていた。


「それに、これもなかなかいけるわね。この店のアイスティーは美味しいってさっき小耳に挟んだけど、これは俗に言う飽きない味ってやつね」


「このアイスティーならあたし何杯でも飲めちゃうよぉー」


「メルトアのオレンジジュースもいいけど、私はこっちの方が好きだわ。後味が良い」


「あたしはどっちかというとオレンジジュースの方がいいかなぁー、あれ飲むと元気が出るんだよね。眠気覚ましにもいいし」


二人はこの店の定番メニューの一つであるアイスティーを飲みながら、お喋りしている。


「そういえばさぁー、昨日あたしが眠ってる時に人魚の話を聞いたんでしょ?」


「ええ。言い伝え通りなら、この世界が未曾有の危機に陥る前兆に現れるらしいわね」


「危機ねぇ〜、こんなに平和なのにそんなの考えらんないよぉ〜」


「そうね。でも、人生何が起こるか分からない、終わりは突然やってくる……なんて言うし。まあ、なんだかんだ運だからね、この世界」


「運かぁー、でも……もしも世界の危機なんて事が起きるんなら、あたしが生きてるうちはやめてほしいかな」


「同意見ね、もしもこの時代に滅び神なんかが復活でもしたら、間違いなく平和とは真逆の世界になるでしょうしね」


「このまま平和がずっと続く事を願うしかないね」


「そうねぇ」


二人は話をしている……すると、不意にイルマが席を立って……


「それにしても、海ってなんかいいねぇー!」


テラス席の端、転落防止用の柵に手を置いて、イルマは海を眺めている。


「あぁ〜、潮風が気持ちぃ〜」


「知ってる?潮風には精神の疲れやストレスを軽減する効果があるのよ」


セラも席を立ち、イルマの隣で話出す。


「そうなんだぁ〜、確かにこうやって風にあたってると……なんて言えばいいのかな、なんか……解放感?みたいなものを感じるよ」


「それに波の音もいいわ〜、この音を聞いてると私……すっごく癒されるわ〜。気持ちが落ち着くってゆうのかしら」


「分かるよ。でも、ずっと聞いてるとなんだか……眠くなっちゃいそうだよあたし」


「ふふ。いいものね、海って」


「だねぇ〜」


二人は潮風に吹かれながら波の音を聞いてリラックスしている。


「(この時間がずっと続けば……)」


イルマがそんな事を考えていると……


「た、大変だぁーッ!!近隣の海に海竜がっ!!」


イルマ達の後ろ、カフェの屋内から何やら大きな声が聞こえた。


「今なんて言った!?」


「多分、海竜って」


何やら只事ではなさそうだ。イルマとセラの二人は、声のした方に向かう。


「落ち着いてくださいっ!何があったんですか?」


二人がその場に来ると、このカフェの店員の一人がなにやら興奮気味だった漁師風の男を落ち着かせようと宥めていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、すまない……」


「あ、あのっ!何かあったんですか?」


イルマが少し緊張気味に問いかける。


「で、出たんだよっ!海竜が」


「海竜って……」


セラは視線を落とし、なにやら考え込んでいる。


「何隻も船が沈められて……俺の乗ってた船はなんとか、命からがら逃げる事ができたけど……他の奴ら、仲間達は……」


そう言うと漁師の男は膝をついて……


「く、くそぉ……ち、ちくしょう……なんで、なんでこんな事に……」


直後、男の目から涙が溢れて頬を伝う。


「お、俺は……なにも……逃げる、ことしか……」


「…………」


イルマはそんな光景を見て、男に何と声を掛けたらいいか分からず、困ったような顔をしてあたふたしていた。


「落ち着きなさい」


そんなイルマの肩に手を置いて、セラが話し出す。


「海竜が出たって言ってたけど、妙ね。あの魔物はこんな近場の海に出たりはしないはずなんだけど」


「それは俺達も知ってる。だが、出たんだよ……アイツは」


「(海竜ってどんな奴なんだろ……?)」


イルマは自身の知らぬ魔物の存在に少し興味を抱く。


「もう少し詳しい情報が聞きたいわ。貴方の他に逃げ仰た人達はどこにいるの?」


「ああ、まだこの町の港にいると思う」


「そう。ねぇイルマ、行ってみない?」


「うん。何だか気になってきた」


「ねぇ貴方、案内してくれる?その港に」


「いや、しかし……子供を巻き込むわけには……」


「私達は子供じゃないわっ!冒険者パーティー太陽と月のセラとイルマよ!」


「ッ!?……あんた達、冒険者かッ!?」


「ええ!」


「は、はい!」


「それなら……ああ、分かった。案内するよ、着いてきてくれ!」


漁師の男はカフェを出て走り出し、イルマとセラもその後を追う。


「何だか急に、急展開だねっ!」


「ええ、冒険はこうでなくっちゃっ!楽しくなってきたわ!」


こうして二人は、漁師の男と共に目的の港へと向かうのだった。


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