第二十話 言い伝え
「よいしょっと……」
「…………」
セラは食べた料理の会計を済ませて、この店の老店主と向かい合って席に座っていた。
「隣のお嬢ちゃんはぐっすりと眠っとるようじゃの」
「ええ」
イルマはセラにもたれ掛かって、頭をセラの肩に乗せて眠っている。
「起こした方がいいかしら?」
「ええよええよ、せっかく気持ちよさそうに眠っとるんじゃからの」
老店主は笑みを浮かべながらイルマを見ている。
「では、始めようかの。これから話すのはこの町に大昔から伝わっている、とある言い伝えじゃ」
「言い伝え?」
「そうじゃ」
老店主が話し出す……
「大昔、この町がまだ無かった頃よりこの地にはとある言い伝えが伝わっておる。それは……この世界が未曾有の危機に陥る前兆に蒼き人魚がこの地に姿を表し、運命に選ばれし者達と共に人々を導き、未曾有の危機から世界を救う、とな」
「未曾有の危機……蒼き、人魚……?」
「そしてこの言い伝えは、わしは過去に実際にあった出来事じゃと思っておる」
「大昔にあった未曾有の危機って……滅び神のこと……かしら?」
「ほう……さすがは貴族のお嬢さんじゃな」
「今は滅び神関連で……じゃなくてっ!まあ、大昔にあった危機なんていったら誰でもまず、それを疑うわよね」
「お嬢さんは滅び神が実際にいた存在だと考えているのかね?」
「ええ、まあ……」
「ほほう、珍しいのう。この手の話をすると大抵の者は、そんなヤツはいない、ただのおとぎ話にでてくる架空の存在だのと言うのだがな」
「…………(まあ、それが普通の反応よね。滅び神の復活を目指しているかの邪悪な祝会も一般の人から見れば、ただの頭のおかしいカルト集団だしね)」
セラは自身の命を狙ってくる、かの組織の事を考えて難しい顔をしている。
「ならば人魚についてはどうじゃ?本当におると思うかの?」
「んー、それこそおとぎ話の世界よね。でも……滅び神もいたんだとしたら、人魚もいそうだけどね」
「じゃよなーっ!わしもおると思っておる。わしはのう、生きとるうちに一度だけでええから人魚に会いたいんじゃよ。それがわしの子供の頃からの夢なんじゃ!」
「人魚ねぇー、本当に実在するなら私も一度は見てみたいけど……」
「人魚はの、この地の……というよりこの世界に広がる海、海の守り神として崇められておるのじゃよ」
「守り神……」
セラはこの店の名前を思い出す……
「じゃからこの店の名前も海の守り神にしたんじゃよ!」
「なるほど……(このお爺さん、本当に人魚が好きなのね)」
「この世界の海の何処かに必ず人魚はおるっ!絶対おるんじゃよ!わしは……」
「またその話してんのかよ親父っ!」
老店主の言葉を遮って、とある人物が声を発する。
「何じゃ息子よ、今大事な話をしとるんじゃから邪魔するでないっ!」
「何が大事だよ、旅人や若い客が来るたびにくだらんおとぎ話を喋くりやがって……そのせいで店の客足にも影響がでてるっていつもいってるだろっ!」
「ふんっ!客足が悪いのは昔からじゃよ!」
「…………(あの人、このお爺さんの子供だったのね)」
老店主が息子と呼ぶのは、先ほどセラが脅して席に案内させた中年の男性店員だった。
「メレス嬢、我が父が大変なご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんな」
「いえ、そんなことは……」
「何が迷惑じゃっ!迷惑なのはお前のほうじゃろうがっ!早うあっちへいかんか!」
「ったくッ!……メレス嬢、貴重なお時間を我が父の無駄話で奪ってしまい申し訳ない、もうお帰りいただいてもよろしいので」
「は、はい……では、私達はこれで……」
「あぁーッ!!まだ話がっ!」
「いい加減にしろッ!!」
「ははは……(何だか……まあ、帰れるならいいか……)」
まだ話をしようと引き下がる老店主を息子が力づくで止めて……その間にセラはイルマをおんぶして店を後にするのだった。
……………
………
「はぁー、こんな時間になっちゃった……」
現在時刻は夜の十一時を過ぎた頃……セラはイルマをおんぶして歩き、とある宿を借りて部屋のベッドに座っていた。
「今日は色々な事があったわね」
セラはメルトアを出て、盗賊達を返り討ちにし、この町で食事をしてこの宿に来るまでの事を思い返す。
「冒険者も楽じゃないわね……でも、楽しいわ」
セラは笑みを浮かべながら自身が座っているベッドで眠るイルマの頭を撫でている。
「ふふっ、本当によく眠ってるわね。こうして見るとまだまだ子供ね、昼間の戦闘が嘘みたい。まあ、私もちゃんとした大人とはいえないかもしれないけどね」
セラはイルマの服を着替えさせてベッドに寝かせていた。
「ふぁ〜あ……さすがに私も眠くなってきたわね。そろそろ寝ようかしら……」
そう言ってセラは宿の部屋に用意されたもう一つのベッドに行こうと立ち上がるが……
「…………(女の子同士だし、一緒に寝たっていいわよね……)」
セラはイルマの寝ているベッドの掛け布団をあげて中に入り、イルマを自身の方に抱き寄せた。
「くんくん、これは……(お風呂に入ってないからかしら、ちょっと臭うわね……汗の匂いと女の子特有のいい匂い……うふふふふっ!)」
セラはイルマの体を抱き寄せて匂いを嗅いでいる。
「(何だろ……これ、ちょっと変な気分に……)」
セラはイルマに抱きつき、何やら体をモジモジしはじめた……
「あ〜、ダメだ……これ……ムラムラしてきた」
セラはなにやら自身の下腹部を手で弄りはじめた。
「ごめんねイルマ、汚れちゃうかもしれないけど……(でも、別にいいわよね……お風呂入ってないし、私も入ってないし。お互い汚れてるからいいわよねぇ〜)」
セラはかなり興奮しているのか、顔を赤らめてとろけた表情をしている。なんだかとても幸せそうだ。
「神様、生まれて初めての私からのお願い。どうか、イルマが目を覚ましませんように……」
こうして、セラの楽しい夜が始まるのだった……
……………
………




