第二話 少女との出会い
「ふぁーあ、昨日はよく寝た……」
現在時刻は朝方、イルマはメルトア市内を歩いていた……
「眠気覚しに散歩は定番だよね、実に健康的っ!今日は街の探索をしよう!」
「……ん〜(東地区に行ってみようかな、ここから近いし……)」
目的地を決めたので、イルマは若干早歩きで東へと歩を進めてゆく……
……………
………
「ここが、東地区……南地区や中央地区と比べると建物の外観が古いし……街の人も何だか……」
東地区……それは、メルトア市内の他の地区と比べて経済規模がかなり低く、街の治安は比較的先進なこの都市だが、この地区だけは良いとはいえない……東へ行けば行くほどに街の雰囲気はより悪くなり、そこにいる人々の表情はより暗く、東のはずれともなれば最悪だ。
「ここ……なんか、あんまりよくない感じ……」
イルマは東地区内を見渡しながら歩いている……そんな時、不意に左側のとある建物の近くに視線が行く……そこには一人の若い女性がいた。
「…………」
その女性の前には一人の中年男性がいて、何やら交渉をしているようだった……そんな光景をイルマが不思議そうに見ていると……次の瞬間ッ!中年男性が何やら交渉が成立したようで、急に若い女性の尻を触り出した!
「えっ……」
イルマが中年男性の突然の行動に驚いて硬直していると若い女性が――
「もぅっ!!中に入ってからよ!」
若い女性はそう口にすると中年男性の手を引いて……二人は後方の建物の中へと消えていった。
「あ……」
その光景を見て若い女性がいったい何をしていたのかようやく理解したイルマは、顔を赤くしてその場を急いで立ち去った――
……………
………
イルマは走りながら東地区内を進んでいる……
「何なのっ!?ここは――」
イルマが辺りを見回しながら走っている……そこには、先程に目撃したような光景がそこら中に広がっていた。街の至る所で女性と男性が交渉をしていて、交渉が成立するや否や街のどこかへと消えていく……いわゆる、売春というやつだ。
「(なんなのっ!?なんなのよ、ここはッ!?)」
イルマは自分の知っている世界とのあまりもの違いにかなり動揺しており、困惑していた……
「故郷の村じゃ……こんなのこと、なかったよ……」
イルマは少し疲れたようで走るのをやめて歩きだす……すると、一人の若い女性と目が合って……女性はイルマと目が合うなり不敵な笑みを浮かべてじっと見てくる……イルマは何故か急に身震いして一瞬ビクッとし、顔を真っ赤にしてその場を走り去った――
「…………もう引き返そう……」
イルマはここに来た事を後悔しながら、来た道を引き返そうとする――だが、その時ッ!
轟音ッ!!突如、地面が軽く揺れるほどの衝撃がその場一帯を襲うッ!
「えっ!?今のは――」
イルマが反射的に音のした方を向く――すると、近くの建物付近で煙があがっていた……煙の中には複数の人影も見える。
「――邪魔ッ!」
直後ッ!物凄い暴風が発生する――煙が晴れ、中にいた複数の人影が散り散りに吹き飛ばされる――
「その程度の実力で私を襲うなんて――計画無しの低脳にも程があるわッ!」
一人の少女がそう言い放った――その少女は、貴族風のドレスに身を包み、すれ違えば誰もが振り返るほどの美しく長い銀色の髪に、透き通るような黄金色の瞳の顔立ちの整った美しい少女だ。
「聞いてた以上だッ!」
「ちッ!クソッ!!」
「ガキのくせに――ッ!」
発生した暴風によって吹き飛ばされた男達が悪態を吐いている。
「"いいから"とっとと――」
銀髪の少女が男達の一人に手を向ける――すると!少女の手の前に炎が発生し――発生した炎は急速に圧縮されていく――そしてッ!
「――消え失せろッ!!」
その直後ッ!少女が男達の一人に強力な火球を放つ――火球は一直線に飛んでいき――命中ッ!!
辺り全体を焼き尽くすような超威力の火球が先ほど吹き飛ばしたうちの一人に直撃したッ!
「――ッ!?」
言葉を発する間もなくその男は一瞬にして灰塵とかした……
「今の――無詠唱魔術っ!?あの子が――」
イルマは突如発生した銀髪の少女と男達の戦闘を見ている……
「死ねッ!!」
少女がそう言い放つ――すると、直後ッ!指先から超速の雷線をニ連射ッ!!その両方が二人の男達それぞれの眉間を正確に穿つッ!男達の頭部はバラバラになって吹き飛んだ。
「ひぃっ!?」
最後に残った一人の男がその場で尻もちをついて怖気づく。
「お前で終わりだ――」
少女は残った最後の一人の男に手を向けて――
「切り裂けッ!!」
その直後ッ!少女の手から無数の風の刃が放たれたッ!!風の刃は空を切りながら男めがけて飛んでいく――
「ぁ……」
数瞬後ッ!無数の風の刃が男に直撃するッ!!風の刃は男の体を原型もわからなくなるほど切り刻むッ!
「うわ……」
イルマはそんな恐ろしい光景を見て、口をぽかんと開けていた。
男がいた場所には大量の血と肉片が散らばり、それが一体誰なのか……もう誰にも判別ができないほどの状態となった。
「ふふふ、これで終わりねっ!」
銀髪の少女は自身の勝利を確信して安堵している――だが、次の瞬間ッ!!
「――死ねぇぇぇぇぇぇーッ!!!」
突如ッ!一人の男が近くの建物の中から飛び出てきて、銀髪の少女めがけて突っ込んでいくッ!!
「えっ――」
少女は油断していた――この距離ではもう間に合わない、そう覚悟を決めた――その時ッ!!
「――危ないッ!!」
赤髪の少女イルマが閃光のような速度で移動して――銀髪の少女めがけて突っ込んでいった男を目にも止まらぬ速さの剣撃で薙ぎ払ったッ!!
「がはっ!?」
男は数十メートルほど吹き飛ばされ、その場で動かなくなった……
「ギリ……セーフ」
イルマがそう口にした……
「え……」
銀髪の少女が突然の出来事に驚き、イルマの方を見ている……
「……あっ!だ、大丈夫っ!!安心して――あたしは怪しいものとかではないからっ!」
「貴方……は?」
銀髪の少女がイルマに尋ねる。
「あたし?あたしは、イルマっ!イルマ・ツアー!……貴方は?」
イルマが銀髪の少女に名を名乗り、次いで少女に名を尋ねた……
「私は、セラ……セラ・メレス……それが私の名」
銀髪の少女ことセラがそう名乗った。
……………
………
「死んでないよね……(鞘から抜いてないし……)」
イルマは先ほど剣で吹き飛ばした男を見ている……どうやら、ただ気絶しているだけのようだ。殺すわけにはいかなかったので、抜剣せずに鞘をつけたままの状態で薙ぎ払ったのだ。
「気を失ってるだけね」
「そうみたい、だね……」
イルマとセラは足元で倒れている男を見ている。
「こいつは衛兵に引き渡すわ……情報を吐かせる」
セラはそう言うと魔術で光の鎖を出現させ、気絶している男の両手と両足をその鎖で縛って拘束した。
「さっきは助かったわ、ありがと……あとのことは私が引き受けるわ」
「お、お願いします!」
二人はそう言葉を交わし合うと、別れ……イルマはもと来た道へと引き返すのだった。
……………
………
「あぁ―、もうこんな時間か……」
時刻は夕方、もうあたりは徐々に暗くなりはじめ……夜の時間に差し掛かろうとしていた。
「色々あったけど……明日の試験、頑張ろうっ!……勉強とかしてないけど、冒険者の認定試験は簡単っていうし……大丈夫だよね?」
先ほどの銀髪の少女セラのことを考えつつ、イルマは明日の試験に思いを寄せるのだった。




