第十六話 獣の牙
「お前らーー殺っちまぇぇぇぇぇーッ!!!」
盗賊のリーダーが叫ぶと同時に、部下の盗賊達がイルマとセラの二人に目掛けて一斉に飛び掛かったーーその手には剣や槍など様々な武器を持っている。だが、盗賊達が二人のいる場所に到達するよりも速く、イルマが地を蹴って盗賊達に突っ込みーー間合いを詰め、その直後ッ!!
「…………ッ!!」
イルマは周囲にいた盗賊達の手足を目にも止まらぬ速さで次々に切断していった――
「「アアアァァァァァァァァァァァァァーッ!!!!!」」
盗賊達は手足を切断された痛みに耐えられずーー苦悶の表情で悲鳴を上げているッ!だが、そんなことはつゆ知らずーーイルマは次から次へと盗賊達の手足を切断していったーー
「(ーーセラの言ってた通りだぁーっ!!)」
切断され体から切り離された無数の手足が血を撒き散らしながら宙を舞う。
「これなら、あたしでもーー」
イルマはこの護衛任務を始める前にセラから聞いたとあることを思い出す……
「殺せないなら手足を切断して身動きを封じちゃえばいいのよ」
「でも、手足を切断したりなんかしたら死んじゃわないかな?」
「安心して……それくらいじゃあ人は死なないわ。もし、死んだら……それはそいつが生きる努力をしてないからよ、生きる努力もしないで死ぬだなんて……それは自殺と同じ。もしも死んだやつがいたら、それはイルマが殺したわけじゃない。そいつが望んで自殺したのよ……」
……………
………
「(やっぱりセラは凄いーーこの方法なら簡単に制圧できるーー)」
セラから聞いた方法を実際に試してみてイルマは、今一度セラの凄さを実感している。
「――このガキがッ!!」
イルマの後方から一人の盗賊が剣で斬りかかろうと近づいてきた――
「よっとッ!」
イルマは軽い剣捌きで後方から迫っていた盗賊の両目を切る――
「アアァァァァァァァァーッ!!!目がぁぁぁぁぁぁぁーッ!!」
両目を切られた盗賊は叫び声を上げながら痛みに悶え、両手で目を押さえながら屈み込む。
「あっ!うっかり光を奪っちゃった――(手足だけを落とすつもりが……)」
イルマは少し反省しつつ次の標的に向かった――が、やっぱり戻ってきて――
「念のため落としとこっ!」
方向転換――両目を失って屈んでいる男に近づくと軽く体勢を低めーー男の両足を剣で薙ぎ払うッ!
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」
男は足を切断されてその場に倒れ込み、苦しそうに悶えている。
「これでよしっ!」
イルマは安心したようでーー次の標的へと向かっていった……
……………
………
一方その頃、セラの方も戦闘が始まろうとしていた……
「ボスの命令だッ!縛り上げて身動き封じろッ!!」
盗賊達がセラに迫る――だが、セラは余裕の表情で――
「ふふっ!」
笑みを浮かべながら軽く足踏みし、とある魔術を発動させた――直後ッ!!セラに向かって走って来ていた十人余りの盗賊達の足元から、地面を突き破って土の槍が現れる――槍はそのままの勢いで盗賊達を串刺しにして地表から数メートルの位置まで突き上げるッ!
「「アアァァァァァァァァァァァァーッ!!!!」」
地面から突き出た槍に串刺しにされ、激しい痛みに悶え苦しみ絶叫を上げている。
「バカねぇ〜無策で突っ込んできて、私は魔術師よっ!」
セラは上を見上げて串刺しになっている盗賊達を見ている……
「安心なさい!死なない程度のサイズで串刺しにしたから……本番はこれからよっ!!」
そう言ってセラが再度足踏みをする――すると、盗賊達を串刺しにした土の槍に急速に苔が生え始めて……苔の生えた土の槍から無数の蔦が生え始めた。蔦の先端は鋭利に尖っており、まるで注射針のようだ。
「チクッとするわよ!」
セラが指を鳴らす――するとっ!先端の尖った無数の蔦が盗賊達の体に目掛けて次々に突き刺さっていく……
「――何だっ!?何か、何か流れ込んでくるぅッ!?」
突如、無数の蔦に突き刺された盗賊達が皆一斉に身悶えしはじめた――
「まずは止血よ」
セラがそう呟くと、串刺しにされた時に傷口から流れ出ていた血が急に止まって……盗賊達は予想外の事に少し安堵した――が、次の瞬間ッ!
「「アアァァァァァァァァアアアァァァァァァァーッ!!!!!」」
盗賊達が急に激しくもがき苦しみ出し――苦痛に満ちた顔で叫び声を上げ始めた。
「ふふふ、存分に楽しんでちょうだいね!」
セラは盗賊達に突き刺した蔦から特殊な樹液を流し込んだのだ……この液体の成分には二つの効果がある。一つは急速に血が固まりだすもので、本来サラサラであるはずの血がドロドロとした、まるで水飴のようになる。もう一つは簡単に言うと木の種子だ。ただ、特殊な種子で宿主の血を吸って急速に成長していくというかなり異端なものだ……宿主の体内で成長していくと、根や枝などが肉や内臓などを内側から貫きながら成長していき……最後は体を突き破って出てくるという恐ろしいもので……本来、これほど複雑なことは魔術ではできない――しかし、セラならばできてしまうのだ。
「「痛いッ!!痛いッ!痛ぃッ!痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーッ!!!!!」」
盗賊達の体内では物凄い速さで木の種子が成長していき――根や枝などが肉や内臓などを貫きながら体全体へと広がっていく――普通ならば大量に出血して死んでしまう状況だが、血がドロドロと水飴のような状態になっているので痛みはあるが血は流れない。
「うふふふふ、楽しそうっ!!いい表情だわ、貴方達……」
盗賊達は両の目から大量の涙を流しながら言葉にもならない叫び声を上げ続けている……セラはそんな盗賊達を見てとても気持ちよさそうに笑っていた。
「に、人間のやる事じゃない……」
後方の少し離れた位置にいる他の盗賊達が、串刺しにされ体内で強制的に木を育てさせられている仲間達を見て……セラをまるで怪物か何かを見るような目で見ている。
「貴方達、どうしたの……?」
そんな盗賊達を見てセラは、なぜ追撃して来ずにその場で固まって動かないのか……?と、なんとも不思議な表情をしている。
「おいッ!!お前らっ!!何してるッ?速く行けぇぇぇぇぇぇぇーッ!!!」
恐怖で震えて動けない盗賊達をリーダーである強面の男が、後方から怒鳴り声を上げて追撃するよう命令している。
「「……………ッ!!!」」
リーダーの指示に慌てて盗賊達が動き出そうとした――だが、既に遅かった……彼らはもう、進む事も下がる事も許されないのだ。
「えッ!?……何だっ!?動けないぞッ!?」
盗賊達はセラに向かって猛進しようとしたが、なぜか足が動かないッ!反射的に自身の足元を見る――すると!
「何だッ!?これっ!?足が、固まって……」
盗賊達の足……というよりも下半身全体が氷漬けになって地面に固定され、身動きが取れなくなっていた。
「アンタらがもたついてたから先手を討たせてもらったわっ!」
セラが呆れた顔でそう言って……
「何なんだっ!?これ……全く動けないッ!?」
盗賊達は自身の体を精一杯、動かそうとするが……全く動かない。地面に氷で完全に固定されてしまっている。
「無駄よッ!アンタらみたいな雑魚が私の魔術から逃れられるわけないでしょっ!!」
セラは盗賊達が動き出す前に、瞬時に魔術を唱えて身動きを封じたのだ。
「クソッ!!何やってるんだっ!お前らッ!!さっさとあのガキを縛り上げろっ!!!」
盗賊のリーダーが部下達の現状を見て怒鳴り声を上げている。
「全く……さっきからうるさいわねぇ〜アイツっ!」
セラは少し不機嫌そうに盗賊のリーダーを見ている。
「まぁーいいわ、あのうるさいのはほっといて……まずは貴方達から逝かせてあげるッ!」
そう言ってセラは先程魔術で身動きを封じた盗賊達に手を向けて、とある魔術を唱えた。
「「ぎゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーッ!!!!!」」
セラは下半身が氷漬けになって動けない盗賊達に火の魔術を放ち――まだ氷漬けになっていなかった上半身のみを正確に焼いたッ!盗賊達は身動きが取れない状況で生きたまま火で焼かれるという地獄を味わい、恐ろしい叫び声を上げている。
「楽に死んで逝けるなんて思わないことね!弱火でじっくりと焼いてあげるからさっ!!」
セラは笑みを浮かべ……体を焼かれ悶え苦しんでいる盗賊達を見ている。
「熱いッ!!!熱ぃッ!熱いぃッ!!熱いィィィィィィィィィィーッ!!!!」
「ああああぁ、た、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーッ!!!!」
セラはあえて即死させずに火力の低い魔術を放ったので、盗賊達はすぐ死ねず……想像もできないほどの痛みと苦しみを味わい続けている。
「あ、あぁ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」
盗賊のリーダーの側に立つ一人の部下が震える声でそう言って、その場から逃げ出した。
「おいッ!どこへいくっ!?」
盗賊のリーダーがすかさず引き止めようとするが――
ドバァンッ!
「なッ!?」
その直後ッ!逃げ出した部下の頭が吹き飛んだ。
「逃すわけないでしょ!」
盗賊のリーダーが後ろを振り返ると、セラが指先をこちらに向けていた。逃げ出した盗賊の頭を雷属性の中距離魔術で吹き飛ばしたのだ。
「後は――貴方だけッ!」
セラは冷たく笑いながら、盗賊のリーダーに向かって歩き出す……
「俺……だけ!?へへ、何言ってやがるっ!俺にはまだ――」
盗賊のリーダーが勢いよく後ろを振り返るーーが、そこには自信が想像していたものとは違う光景が広がっていて――
「はっ!?何だよ、何なんだよっ!!何なんだよこれはぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!!」
彼の視界に広がる光景を言葉で表すとするならば……それは地獄だッ!!地獄が広がっていた……血溜まりの中で悶え苦しみ泣き叫ぶ者、耐えられぬ痛みに苦しんで狂い出す者……皆様々な表情を浮かべて苦痛に喘ぎ、その近くには切断された大量の手足が転がっていた。
「誰が……やった……?こんな……」
盗賊のリーダーは辺りを見渡し――この惨状を作り上げた存在を探す……すると!手足を切断されて立てずに苦しんでいる者達の中で一人、その場で立っている者がいた……一本の剣をその手に持った一人の赤髪の少女だ。
「一通り片付いたかなぁ〜セラの方はどうだろ――」
赤髪の少女がこちらに向かって歩いてきた……手に持つ剣は血で赤く染まり、身に纏う装いは返り血で汚れ……少女の赤い髪も相まって、見るものに恐怖を与えるような様だ。
「あ、あぁ…………」
こちらに近づいてくる血塗れの少女に盗賊のリーダーは……さっきまでの威勢は最早消えていて、自身に渦巻く圧倒的なる恐怖心が生存本能を掻き立てていて、脱兎の如く後方に走り出そうとする――だが。
「どうしたのっ?そんなに慌てて?」
セラが自身のほんの数メートル先まで近づいてきていて、走り出さずに引き止まる。
「何で……何で俺が、何で俺がこんな目にッ!?」
盗賊のリーダーは正常な判断が出来ないほど精神が追い詰められ――大量に冷や汗をかいて自身の前後に位置する二人の少女を交互に繰り返し見ている――そして!
「畜生ッ!畜生ッ!!クソッ!!クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」
盗賊のリーダーは剣を掲げ、セラの方に向かって全力で走り出した。
「哀れね……」
セラがそう呟くと同時に、イルマが物凄い速さで盗賊のリーダーに急接近し――その両手と両足を瞬時に剣で切断したッ!
「アアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーッ!!!!!」
盗賊のリーダーは切断された両手両足の切断面から大量の血を撒き散らしながら地面に倒れ込む――
「――まだ逝かせてあげないッ!!」
セラはそう言って瞬時に氷の魔術を唱え、盗賊のリーダーの切断された両手両足の切断面を瞬時に凍らせて流れ出る血を止め、そして――
「おいッ!お前ッ!!なに下向いてんだっ!情けないそのツラ見せろッ!!!」
セラは盗賊のリーダーを足で蹴って仰向けにした。
「痛てェェェェェェェェェェーッ!!!痛えよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!!!!痛えよォォォォォォォォォォォォォォォォォォーッ!!!!!」
盗賊のリーダーは両目から大量の涙を流しながら、顔を歪めて苦悶の表情を浮かべながら泣き叫んでいる。
「ははっ、はははっ……ははははははははははははははははっ!!!!」
そんな惨めで哀れな表情を見てセラは、腹を抱えて大笑いしている。
「へへ、へへへへっ……あー、腹痛い……」
セラは笑い終わるや否や、盗賊のリーダーの顔を足で勢いよく踏みつけたッ!
「あぐぅっ!」
「負け犬野郎がぁッ!!何が嬲り殺してやるだぁーっ?やってみろよっ!!!その手足で出来るもんならなぁーッ?」
セラは盗賊のリーダーの顔を何度も何度も足で踏みつけ、とても楽しそうに嘲笑っている……
「セラ……」
そんなセラを見てイルマも笑みを浮かべていて……なんだか楽しそうだ。
「はぁはぁはぁ……さて……と、そろそろ……終わりにしましょうか」
セラは盗賊のリーダーに手を向けて、風の魔術を唱え数十メートル先に吹き飛ばした――
「これで終わりよッ!ゴミクズがッ!!跡形もなく消えてなくなれぇぇぇぇぇーッ!!!」
セラは盗賊のリーダーに向けて超威力の火球を放つ――轟音ッ!!その場に業火が立ち昇る――
「……ッ!?」
火球が直撃した盗賊のリーダーは、断末魔の叫び声一つ発することなく一瞬で影も形も残らぬほど焼き尽くされて灰塵と化した。
「ふふふ、いいザマねッ!!あの世で一生後悔するがいいわっ!私に楯突いた自身の愚かさと無知をねっ!!」
そう言ってセラは、自身の目先で燃え盛る炎をとても満足したように眺めていて……余韻に浸っている。
「終わったねっ!セラ!!」
イルマが駆け寄ってきて、セラの両肩に手を置いた。
「そうねっ!これで一応、ゴミ掃除は終わったわっ!」
そう言いながらセラは、辺りを見渡して自分達の他に立っている者がいないことを確認する。
「さてとっ、護衛対象の元に戻りますか〜!」
「桃のお姉さん、無事だよね……?」
こうして二人は、商人の女性の元に向かうのだった。




