第十四話 商人護衛依頼
現在時刻は朝方……メルトア市内は普段通りの賑わいをみせていた。
「おはよ、セラ!」
「おはよう!」
場所は中央地区の皆が集まる憩いの場として知られる広場の噴水前、イルマとセラは今日も冒険者ギルドで依頼を受けるため、この場所で待ち合わせの約束をしていた。
「あたしたち以外にもたくさん人がいるね」
「まあねー、ここはよく待ち合わにつかわれるから」
広場には二人以外にも色んな人達がいた、二人のように待ち合わせをする人や散歩をする人、暇を持て余し立ち話をしている人達も。
「それじゃあ、行きましょうか?」
「うん」
セラはイルマに声を掛け、二人は冒険者ギルドへ向かう。
「……そういえば、お父様に洞窟内での戦闘の事を話したんだけど、私たちが戦ったあのドラゴンゾンビ……たぶん特殊個体なんだって」
「特殊個体?」
特殊個体とは、魔物や魔獣が何らかの影響で本来とは違う生態や肉体の構造……そして能力を得た個体のことである。
「まあ、簡単に言えば珍しい類のヤツってところかしらね。お父様はそんなのと出くわすなんて運が悪かったね、なんて言ってたわ」
「確かにそうかもだけど、いい経験にはなったよ。今まであんなのと戦ったことなかったから」
「そうね。でも、あんなヤツと出くわすのは当分は御免よ」
「あの再生速度の速さはかなり厄介だったしね」
二人は話し合いながら進む……
……………
………
「色々話してるうちに着いたね」
「ええ。今日はどんな依頼を受けましょうか」
「なんか良いやつがあるといいねぇ」
二人は冒険者ギルド内に入っていく……
「いい感じのやつあった?」
「ん〜特にこれといっては……」
二人はギルドに届けられた依頼の数々を確認していた。
「この前は討伐依頼を受けたから、今日はなんか違う類のやつとかいいかも」
「討伐以外……採取依頼とか?」
「そうねぇ〜……」
セラは手元にある依頼書に次から次へと目を通していく……
「ん?」
「いいのあった?」
とある依頼書に目が留まる。
「護衛、依頼か」
その依頼書の内容は、この都市から北西に位置する海沿いの港町エレイムまでの護衛依頼、差出人はここメルトアで店を出している商人の娘と書かれている。
「イルマ、これなんかどう?いいと思わない?」
「海沿いの港町、エレイムまでの護衛依頼か……」
「エレイムまでの距離は初めての依頼で行った密林地帯みたく遠くないから、すぐに依頼達成もできると思うし……何より、報酬がいい。二十万メルクなんて……中々の好条件だわ」
「二十万メルクッ!?う、うんっ!やろう!やるしかないよっ!」
イルマもやる気満々だ。
「でもさぁ、何でこんなに報酬が高いの?」
「それはですね……」
イルマの背後から誰かが話しかけてくる。
「受付のお姉さん!」
振り返るとそこには、ギルドで受付を担当している受付嬢のお姉さんがいた。
「出るんですよ、最近」
「……何が出るんです?」
イルマは不思議そうに尋ねる。
「盗賊です」
「盗賊?」
「はい。近頃このメルトアに繋がる街道やその近辺で、頻繁に現れて物資や金目になる物などを奪っていくんです」
「そんなの出るんだ……」
「討伐依頼を一応は出しているんですが返り討ちにあったり、逃げられたりで中々上手く対処出来てないんです……ですから、ここメルトアから出る際に物資などを運搬する方には護衛として冒険者の方々に協力してもらっているんですよ」
「なるほどね、だから報酬が高いってわけか」
セラが納得した様子で頷き、受付嬢に質問をする。
「盗賊って、どんな感じの奴らが出るの?」
「はい。獣の牙という名の集団で、情報によれば六十〜七十人の人が属しているようです」
「なるほど……まあ、大した数じゃないわね……イルマ、どうする?受ける?」
「うーん、そうだね……よしっ!受けよう!!」
「決まりね!受付さん、この依頼でお願いします」
「はい、分かりました……では、お気をつけて……(あの子達……大丈夫かしら?この前の依頼もそうだけど……危なっかしいわ、女の子だけなのに……)」
受付のお姉さんは少し不安な表情をしている……
「……依頼者の方には連絡をしておきますが、何やら急がれていらっしゃるようだったので……恐らくは明日にでもここを出られると思います。ですから、明日の朝にもう一度ギルドへとお越しください。依頼者の方もお呼びしておきます」
「「はいっ!」」
こうして二人は、ギルドを後にするのだった。
……………
………
「ねぇセラ、一つ困った事ができたよ……」
「ん?どうしたの、イルマ?」
二人はギルドを出て、都市内を歩いていた。
「さっき言ってた盗賊?もし遭遇して戦闘になったらどうやって戦おうかなって……鞘を付けたままぶん殴ろうと思ったけど、何しろ数が多いみたいだし……上手く気絶させれなくて起き上がってきたら面倒だと思って……困ったよ」
「ん……?でも、相手は盗賊よ。悪い奴なんだから殺せばいいじゃないっ?」
「いやぁ〜実はあたし、人を殺した事がなくて……」
「あっ、そうゆう事……」
「うん。魔物や魔獣とかならまだしも……いくら悪い人達だからって、人を殺すのは抵抗みたいなものがあるよ……あたし」
イルマは難しそうな顔をしている。
「ん〜、そうねぇ……だったら、こんなのはどうかしらっ?」
セラがイルマに耳打ちでとある方法を伝える。
「…………このやり方なら、何も問題なんかないでしょっ?」
セラは楽しそうに笑みを浮かべている。
「なるほど〜!!そんなやり方が……うんっ!試してみるよ!」
イルマはセラのとある提案に納得したようで、先程までの不安な表情はどこ吹く風だ。
「……じゃあ、依頼も明日ってわけだし……今日は一緒に街歩きでもしましょっ!!色んなとこ案内したげる!」
「うん!!行こうっ!」
「まずは……そうねぇ〜。私がこの都市で一番気に入ってる場所に連れてったげるっ!」
そう言うとセラは、イルマを連れて現在いる中央地区から目的の場所がある北地区へと歩き始めた……
……………
………
「おぉぉぉ〜!!ここが北地区かっ!」
「東以外はどの地区もいいけど、私はこの地区が特に好きだわ。だって、美しいものっ!」
北地区……それはこの都市の中でも特に工芸品や美術品、魔道具や魔術書といった類の物を取り扱う店が多い場所だ。そうゆう理由もあってかこの地区全体はとても幻想的な雰囲気に包まれていて、この都市の中心である中央地区とはまた別の美しい景観に満ち溢れている。
「何だか職人さんや魔術関連の物を扱っているお店が多いね」
「この地区は物作りや魔術関連の店がかなり集中してるわ。今まで色んな店に足を運んだけど、どの店もかなりレベルが高いわね」
「そうなんだぁ〜(もしかしたら、魔術が使えないあたしでもそれっぽいことが出来る道具なんかがあったりするかも――)」
イルマは期待と好奇心に満ちている。
「後で私のオススメのとこ案内したげるよっ!」
「うん。楽しみにしてるね!」
二人は目的の場所を目指して、北地区内を進む……
……………
………
「見えてきたわね、あれよ!」
「た、高ぃ…………」
セラが指差すその先には、周りにある他の建物とは比較にならない程の高さの建造物が聳え立っていた。
「ねぇ、あれって……」
「ええ、見ての通り。時計塔よ」
二人の目先に見えたのは巨大な時計塔だった。この時計塔はこの都市で最も高い建造物ということもあって近づけば近づくほどにその高さに圧倒されてしまう程だ。
「それにしても高いねぇー。この都市に来た時から目には入ってたけど、時計塔だったんだね」
「あの時計塔はね、登ることが出来るのよ!一番上、最上階から見る景色といったらもう最高よっ!私が見せたいのはそれよ」
「ほぅ、登れ――!?」
「早く行くわよっ?」
セラはイルマの手を引いて時計塔に向かって走り出した。
「セ、セラ!?そんなに急がなくても……」
「ふふっ!(あの景色を見たらイルマ、絶対驚くわ!)」
二人は時計塔目掛けて一直線に走っていく――
「よしっ!じゃあ登るわよ!」
「う、うん!」
二人は時計塔内に入るための入り口まで来た。
「こ、これは……結構足にきそうだね」
イルマは入り口から顔を覗かせて中を確認する……どうやら螺旋階段になっているようで、一番上まで行くのはかなり骨が折れそうだとイルマが覚悟をしているとセラが……
「何してるのイルマ?その階段は使わないわよ」
「えっ?じゃあどうやって上まで登るの?」
「ふふ、こうするのよっ!」
セラは不意にイルマの手を力強く握って、風の魔術を唱える――
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!!」
「手、離さないでねっ!」
地上から風の魔術を使いセラは、イルマを連れて一気に最上階まで跳んだッ!
「――よっと!着いたわよっ?」
「あぁぁぁ…………」
二人はセラの魔術で一気に時計塔の最上階まで登った。
「あわわ……」
セラが手を離すとイルマは途端に尻もちをついた。
「死ぬかと、思ったよ……」
「ふふっ大袈裟すぎよ!」
イルマは力が抜けてその場に座り込んでいる。そんなイルマにセラが手を差し出して……
「ほら、立って。これを見たら人生変わるわ」
「うん……」
イルマはセラの手を取って立ち上がった。すると、そこには!
「あっ……こ、これが……あたしに見せたかったもの……」
そこには世界があった。美しいこの都市の全貌とその先にある地平線の彼方まで広がる壮大な外の世界。イルマはあまりもの絶景に心を奪われ、先程まであった恐怖心は最上階に吹いている風と共に何処かへと消えてしまっていた。
「どう?凄いでしょっ?」
「あたし……この景色を見るために生まれてきた……自然とそう思っちゃったよ」
「そう……それはよかったわ」
セラもこの美しい景色を眺めながら安らぎを感じ、不意に自身の事を語り出した……
「生きてると色んなことがあるわ。嬉しい事だったり、楽しい事だったり……辛い事だったり、苦しい事だったり……私ね、初めてこの場所に来た頃は色々と今みたいに上手くいかなくて、なんかもう……全部面倒くさいっ!もうこんな人生どうでもいい!って、思っててね……」
セラの自分語りにイルマはじっと耳を傾けている。
「……私は上手く生きられない、何やっても思い通りにならない、何で生きてるのか分からない……ここへ初めて来た時、そんな事をずっと考えながらこの時計塔を登ってた……でもね。いざこの場所に来てこの光景を見たら……何と言うか、馬鹿らしくなっちゃってね。私は勝手にこの世界を全部知った気になって諦めてた。だけど違ったんだっ!私はこの世界のことをぜーんぜんっ!これっぽっちも分かってない……ただのバカな世間知らずの令嬢なんだって……」
「セラ……」
「あっ!ごめんなさい。急に訳のわからない事を長々と喋っちゃって」
「えっ!あ、あたしはぜんぜんっ!」
「まあ、要するに人生色んな事があるってことっ!」
「そう、だよね……生きてると本当に色々なことがあるよ。本当に、色々なことが……」
イルマの表情は少し陰っており、何かを思い出しているようだった。
「よしっ!じゃあ、そろそろ降りましょうか」
「うん。凄いものを見させてもらったよ!ありがとっ!」
「ふふ!じゃあ、次はこの地区のオススメのお店を案内したげるっ!」
「うん!それじゃあお願い――!?」
「一気に降りるわよっ!手ぇ離しちゃダメだからねっ?」
セラはイルマの手を強く握り、風の魔術を唱えて一気に最上階から地上に降りるため、イルマを引き連れてその場から勢いよく跳んだ――
「ちょっ!?待ってぇぇぇぇぇぇぇぇーッ!!!!」
「ふふ、待たないわっ!(まずはあそこでしょ、それから……)」
時計塔の最上階から二人は跳んだ……イルマは涙目になりながら喚き、セラは楽しそうにその後の予定を考えながら……二人は都市での観光を存分に満喫するのであった。




