第一話 始まりの日
商業都市メルトア……それはこの世界でも有数の大都市の一つ。街は世界各地から運び込まれるありとあらゆる物流で溢れ、商売目的や新事業のために街を訪れる商人や、冒険者になって自由気ままに生きる者、都市に存在するありとあらゆる雇用をもとめてこの地に足を運ぶ者達……この都市には世界中から色んな人達が様々な理由と目的をもって訪れる。
そしてまた、とある理由でこの都市にやってきた一人の少女イルマ・ツアーは、この都市に入るために検問所を訪れようとしていた。
「やっと着いたぁ……遠かった」
そう口にするのは、旅人風の装いに腰に剣を差した一人の少女……赤い髪を腰に届くまで伸ばし、透き通る青い瞳をした美しい少女。
「明後日には冒険者認定試験があるから今日はまず、冒険者ギルドに行って試験の予約をしなきゃ」
赤髪の少女イルマは村を出る前……村を出てからここへ来るまでの道中……ここメルトアで何をして生きていくか色々と考えた結果、冒険者になる事にしたのだった。
「お母さんに冒険者は安定しないからやめた方がいいって言われたけど……やってみたいなぁってことが冒険者くらいしかないんだよねぇ」
そんなことを言いながらイルマは、都市へ入国するために検問所の列に並ぶのだった……
……………
………
「次の方ッ!どうぞ」
年相応の門兵が言い放った、イルマの順番が回ってきたようだ。
「この都市に入る目的と出身地、年齢と貴方の身分証の提示をお願いします」
「は、はいっ!……お願いします!」
イルマは少し緊張気味に自身の身分証を門兵に手渡した。
「この都市に来た目的は何ですか?」
「就職です」
「なるほど……」
次に手渡された身分証を門兵が確認していく……
「出身地はカレド地方の東南に位置するメラド村、犯罪歴は無し年齢は十五歳……」
確認が終わると門兵が渡された身分証をイルマに返した。
「以上なしっ!都市への入国を許可する」
門兵がそう言い放つとイルマは、少々緊張していたようで……ホッと自身の胸を撫で下ろした。
無事に入国できるようで安心したようだ……するとそんな光景を見ていたもう一人の若い門兵が……
「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」
「はい……」
緊張気味だったイルマに気遣い声を掛ける……イルマは恥ずかしそうに頷いた。
都市への入国を許可されたイルマは、検問所を抜けていよいよ目的の商業都市メルトアに入国するのであった……
「ここが……メルトアっ!」
イルマはついに目的の商業都市メルトアに足を踏み入れた。
「ぜんっぜん違う……故郷の村と……これが都会か……」
イルマは自身の目の前に広がっている光景に只々呆然としていた……広々と街全体に広がる美しい建物や見たこともないほどに高い建造物、今まで生きてきて聞いたこともないほどの数ある人々の声。
そこにはイルマの知らない世界が広がっていた……
………………
…………
どれくらい経ったろうか……イルマはその場でただ呆然と目前に広がる光景を見ていた……
「あっ!いけない、いけない。試験の予約しなきゃ、ええと……冒険者ギルドの場所はっと……」
イルマは自分の背負っているバックを下ろし、中から村に度々来る行商人から買ったメルトア内の各場所の位置が記された地図を徐に開きはじめた……
「えと……現在地がここで、冒険者ギルドは……」
地図を手に目的の場所を探し出す……
「あったっ!ここだね、中央地区の四番街……今いる場所が南地区の一番街の開門の前っと……まずはここから真っ直ぐ進んで中央地区の三番街に、そこからさらに右に進んだら四番街……」
「よし、冒険者ギルドまでの道は分かった」
行き先を把握したのでイルマは歩を進めてゆく……
……………
………
歩く事約一時間、途中市場で飲み物を買ったり行く先々で数ある店の品々を軽く物色しながらイルマは進む。
「さっすがメルトアっ!なんでもあるね」
さらに進む事数十分……
ようやく中央地区三番街の玄関口が見えてきた……
「世界有数の大都市ってだけはあるねっ!故郷の村とは違う、都会って凄いやっ!」
自身の生まれ育った場所との違いにイルマは驚くばかりであった。
「ここが中央地区……南地区と違って、なんだか高級感のある建物なんかが多いな、通りを歩く人もなんだか毅然とした立ち居振る舞いの人が多いような……」
さらに進んでゆく……
こうして歩く事ようやく目的の場所に到着した。
「ここが冒険者ギルド……」
やや緊張しながら建物の中に入ってゆく……
「えと、受付は……」
イルマが辺りを確認すると……冒険者ギルド受付と書かれた窓口があったので早速向かう……
「あの……すみません、冒険者認定試験の予約をしたいのですが?」
「はい、こちらの用紙に記入をお願いします」
イルマは受付の人から渡された用紙に記入していく……
「これでお願いします」
書き終わった用紙を受付に手渡した。
「はい、確認しました。では、明後日の試験の時間にまたお越しくださいませ」
そうしてイルマは、冒険者ギルドを後にするのであった……
……………
………
「試験の予約はできたし……そろそろ宿の予約でもしようかな……」
時は夕刻、もうじき夜に差し掛かろうとていた……
「どの宿にしよう?」
イルマは中央地区を出て、もといた南地区に戻ってきていた。
「試験に合格して正式に冒険者になって収入を得られるようになるまでは……できるだけ節約したいし、安い宿を探さないと」
イルマは歩きながら辺りを見渡し、あまりお金がかからない宿を探している……すると!
「おっ!夕暮れの宿?料金も安いし冒険者ギルドまでそう遠くもない……よし!ここに決めた」
イルマは意を決して夕暮れの宿なる宿泊施設に入る。
「「いらっしゃいませー!!」」
宿の従業員らが各々挨拶をする。
「すみません、予約をお願いします」
「何泊になさいますか?」
「ええと…………一週間で……あ、もしかしたら延長するかもしれないです」
「はい。では、一週間のご予約という事でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
こうしてイルマは自身の泊まる部屋へと案内される……
……………
………
「こちらが滞在されるお部屋になります」
「おぉ〜!」
イルマはこれから泊まる部屋に案内された。内装は値段のわりにはかなり良いし、風呂場やトイレも綺麗だった。
イルマは部屋の窓を開けてみる。
「おぉ〜っ!!こりゃぁ〜凄い!」
窓からの景色は泊まる部屋が三階ということもあって、メルトア市内を一望できた。
夕刻ということもあって絶景だった。
「ではお客様、私はこれで」
そう言うと宿の従業員は部屋を後にした。
……………
………
しばらくして……時刻は夜、イルマは久々の入浴に心躍っていた……
「あぁぁ……いぃぃ……気持ちぃぃ〜」
気分は絶好調だった。
「村を出てから久々の入浴……堪らんっ!やっぱり風呂はいいねぇ〜旅だと体を拭くしかないし、髪はごたつくし……いや、ごたつくとゆーよりもギトギトだな」
旅をする上で髪を手入れするのは至難なのだ。
「あぁ〜あ、あたしが魔法でもつかえたらなぁ〜」
器用なものは魔法でお湯をだすこともできるのだが、そもそもイルマは魔法を使うことができないのだ。
「お父さんに鍛えられたから、剣術か体術なら結構自身あんだけどなぁ〜魔法はねぇ〜」
そんなことを口にしながら久々の入浴を満喫する。
「明日は街の観光でもしよっかなぁ〜色々と行ってみたい所、結構あんだよねぇ〜」
そんなことを呟いているイルマだったが、彼女はまだ知らない……これからの人生においてとても重要な出会いが、明日あるということを。
現在投稿している話での句点の修正作業が終わりました。
ご迷惑をおかけしました。