ロビィと逆襲のタッグかいじゅう!
澄ましたふうな女が、ジト目で崖の上に佇んでいる。
身長175、あるいは4500ほど。きりとした美人だが、幼さを残した可愛い顔立ち。
ただ、その表情だけが、ビビるほどムスッとした顔をしている。
左目の位置で分かれた、ベリーソース混じりのヨーグルト前髪。頭頂部から垂らされた、同じソースがけのヨーグルト横髪。
丸い形にとったバニラアイスの後頭部。その上からは、横倒しのキャラメル牛乳ソフトクリームが垂れ下がり、まるでサイドテールのように、右肩に尻尾をくるんとしている。
ソフトクリームの根本には、固めのプリンとマカロン2つ。そして、かんざし代わりの細長いウエハース。
たっぷりのまつ毛は白く透き通り、刃物のように鋭い灰色のジト目を、端紅と共に飾っている。また、耳は長細く尖っている。鼻は尖らず、閉じられた口と同じく小さなサイズ。
服はまとわず、全裸のまま。代わりに控えめに膨らんだ胸から、わき腹、そして下半身のほとんどをチョコレートに染めている。
さらに両手の中ほどから指先までもチョコと化して、それらは共に塗装ではなく、人体パーツを模したチョコそのものだ。
もっと言うと、右胸には斜め切りのバナナとキウイ、左胸には2本のシガレットラングドシャを装甲として備えている。
そして両二の腕、丸い剥き出しの肩の下には、2粒ずつのチェリーが着いており、腕の後ろへ長いビームの茎をたなびかせている。
また、生クリームでできた履き口の広いベルト付きのアンクルブーツを履いており、その靴底はシリアルの集合圧縮体だ。
そんなふうな風体をした、彼女はロビィ菓子繰り騎リシュトルテ。
身体のすべてをビームで作られた、人の姿をしたパフェだ。
ロビィは崖の岩に片足を乗せて、膝に頬杖を突いて、表情を変えずに、こう言った。
「ここまでは、ただの外見描写だから。次からは読み飛ばしていいわよ」
「こんにちは。元気かしら。パフェはパルフェのパーフェクト、可愛いロビィリシュトルテよ」
「隙あり! うおお~っ! ウミウシガガン猛烈突進!」
「うっ!?」
どんより曇りの、メロンソーダ海岸線。
砂浜を蹴散らして、ウミウシ顔の直立2足歩行恐竜、ウミウシガガンが巨体を揺らして突撃する。
ドッカァン!
しかし、ロビィはあえて防御をせずに突進を受け、遠くの岩場へブッ飛ばされた。
岩は硬く、分厚い塊である。体がパフェで出来ているロビィが激突したら、バラバラに炸裂すると誰もが予想することだろう。
「ハ~ッハッハッハ! やったぞ! ロビィのクソバカを殺した。オレの天下だ~!」
「弾力ゼリー。展開」
勝ち誇るのは、まだ早い。岩場にロビィは特大ゼリーを置いて、グニッと体を沈ませる。
そして次の瞬間、全身をゼリーに沈めた人間は誰もが皆そうなるように、猛烈な勢いでロビィは弾き飛ばされた。
「えっ。うわあ!?」
「避けたとて間に合うものか。フンッ! トルテアローで終わらせましょう」
空を弾丸のように裂きながら、畳んだ両足を突き出すロビィ。
彼女の両足は槍のように伸ばされ、ウミウシガガンの巨体をブッ飛ばした。
「わ~っ! ぐわあ、ギャブッ!?」
宙に舞い飛んだウミウシガガンの巨体が、向こうの岩場に激突する。
グタ~ッと亡骸が動きを止めて、ロビィは組んだ手を突き出した。
「山盛り生クリーム、チェリーのせ!」
力が抜けて、ぺっちゃんこになったウミウシガガンの死骸へと、生クリーム型のビームが押し潰す。
その上から更に、チェリーの形をしたビームハンマーが落下して、彼に完全なるトドメを刺した。
「ふう……」
「ロビィ~! 勝ち誇るのは、まだ早いっ。今度はオレたちが相手だ~!」
「えっ。きゃあっ!?」
空を見上げて、腰に手を当てて勝ち誇るロビィ。
その背後から、直立2足歩行の肉食恐竜が襲いかかる。恐竜はロビィを抱き締める形で束縛して、すごい力で締めあげた。
「おりゃ~! どうだ、ロビィ!」
「ううっ。苦しい、離しなさい!」
「へっへっへ。お楽しみは、これからだぜ。ロビィ~!」
突然、岩場から飛び出してきた人影に返事をされる。そいつはサメの頭にバクの鼻と体の合成魔獣、サメバクラーだ。
サメバクラーは、長い鼻をぶるんと振って、キバの生え揃った口を開いた。
「ひっ……イヤ! 来ないで! わたくしは先端恐怖症なのよ!?」
「はーははは! 今さら泣いて詫びても、もう遅いっ。サメ針山の餌食になるがいい!」
「いや! やあ、イヤァ!」
「コラ、暴れるな! ううっ。何て馬鹿力だ」
砂を蹴散らし、突撃するサメバクラー。必死に身をよじり、避けようとするロビィを抑えようと、恐竜は頑張って締めつけた。
しかし、努力むなしく反転し、サメバクラーの口が恐竜の背中へ噛みついた。
「ぎゅわ~!?」
「あっ。やった、離れた!」
「ありゃ、スマン。しかし歯がウロコに刺さって抜けなくなったぞ」
膝から崩れ落ちて、さめざめと泣く恐竜。サメだけに。噛みついたサメバクラーは、オロオロとキバを抜こうとした。
そこから離れたロビィは、容赦なく両手で輪っかを作り、突き出した。
「束縛バウムクーヘン! 生クリーム飾りつけ!」
「ぎゅわ~! ケーキに締めつけられて、更にキバが深くに~!?」
「スマン! ほんとゴメン。しかし、このままではオレも潰れて死んでしまうな」
続いてロビィは胸へと両手を当てて、わずかな谷間から太刀を抜き放った。
闇の稲妻で形成された、その太刀の名は無形のチョコ太刀。
「フンッ! 菓子斬り之太刀で終わらせましょう」
「おい、ヤバそうだぞ! 力を込めろ、拘束をブッ千切るんだ!」
「うるさいっ。生クリームが滑るんだよ! いつまで噛みついてるんだ、このマヌケ!」
「死になさい。汝は菓子、乳ありき」
雷を撒き散らし、稲妻のスピードで迅るロビィ。
闇の紫電がサメと恐竜の体を貫き、ふたりの首がボトリと落ちる。
「うわ~! お、オレの首が~!」
「クソォ! サメは歯が抜けても生え変わるが、首が落ちたら元には戻らず死んでしまうのだぞ~!」
「死体が喋らないで。お菓子、すなわち引力なり」
太刀を捨てたロビィの両手のひら、その間に小さな禍つ星が練り上げられる。
その吸引力たるや、ダイエット中の女子とかを一撃で引きつける、恐ろしい威力だ。
「崩壊球黒雷殿砕! やあ~っ!」
「あっ。し、死ぬ……!」
振り向きざまに投げつけられた、黒く眩い暗い星。その小さな形は、恐竜たちの胴体に吸い込まれ、瞬時にクソデカく爆発した。
黒球は雷を放ち、膨らんだ時と同じに、一瞬で縮んで消える。
もちろん、サメと恐竜、斬られたバウムクーヘンと生クリームの残骸も、すべて跡形なく消えた。
今日も、遠い地球の平和は守られた。
ロビィは今度こそ誇らしげなジト目顔で、エグイぐらい曇りきった空を仰いだ。