目指せ! なろう神話入り! 〜あなたの代表作に箔が付く!?〜
『神話入り』という単語について知っているだろうか。もちろん宗教的なものとは何の関係もない。これは主にニコニコ動画で使われる単語である。ニコニコでは、動画が10万再生されると『殿堂入り』、100万再生で『伝説入り』、1000万再生で『神話入り』と呼ばれ、祝われる文化がある。この栄誉を達成した動画には、殿堂入り、伝説入り、神話入りといったタグがつけられ、名作一覧として検索しやすくなるのだ。
さて、私は自称ではあるがボカロの専門家として活動しており、そしてボカロとニコニコは切っても切れない関係にあるため、この『なんとか入り』という概念に造詣が深い。話をボカロに限定すると、神話入りしたボカロ曲には『vocaloid神話入り』というタグがつけられる。このタグがついた曲は、現在でも20曲しかない。ボカロP(ボカロ曲を作る人)にとっては、神話入り=1000万再生の曲を1曲でも出すことは業界最高の栄誉であり、特に神話入り曲を4つも持っているwowaka氏などは、もはや神のように崇められている。
このヲワカ氏のすごいところは、全投稿作品数が12曲しかないのにその三分の一が神話入りしているところである。なお、ヲワカ氏は8/12曲で伝説入り=100万再生を達成しており、全曲が殿堂入り=10万再生を達成している。しかし、やはり彼の弱点は絶対的な曲数が少ないことにある。ヲワカ氏が主に活動したのは2009年から2011年までの間であり、また彼は2019年に死去している(30代前半だった。惜しい夭折である)ため、これ以上新曲が出ることはない。
神話入りの数だけなら今のところヲワカ氏がトップだが、伝説入りの数ならDECO*27氏がトップである。なんと伝説入り以上の曲が39曲もある。縁起良くミク(39)だった。このデコ氏は2008年という初期から現在までほぼ休止せずに活動し続けており、そしてコンスタントにヒット曲を出している。去年も『ラビットホール』などの既に伝説入りしているような名曲を生み出した。なお普通に2曲が神話入りしており、もちろん全曲が殿堂入り以上である。
ちなみにニコニコのボカロの総再生数上位10曲のうち3つがヲワカ氏、2つがデコ氏であり、二人で半分を占めていることがわかる。つくづく偉大な二人である。ただ、将来的にデコ氏が天寿を全うしつつボカロPとして人気を維持すれば、神話入りの数はヲワカ氏を抜くことになるだろう。それでもすでに神話入りしているレベルの上位戦線ではヲワカ氏の伸びの方が速く、まだ歴史的にどちらが偉大かを決定しにくいのが現状だ。
このように、ボカロ界隈では『神話入り』や『伝説入り』の数を数えることで、ある程度ボカロPの力や業績を知ることができる。一曲でも殿堂入りすればボカロ界隈での名が上がり、新曲を投稿するだけである程度の初動を取れるようになる。一曲でも伝説入りすれば一流と認められ、プロセカなどのタイアップも来やすくなる。一曲でも神話入りすれば、もうそれはボカロ史の教科書に載るレベルの偉人になれる。
ところで、我々がいつも小説を書いている『小説家になろう』に、このニコニコ動画の風習を持ち込むとどうなるのだろうか。もしかすると、作者を評価する一つの指標となるかもしれない。そこで、まずは基準を設定しよう。ニコニコ動画のように再生数=pvとすれば連載作品が大きく有利になってしまうため、ここではなろうのランキングを決定するポイントを媒介にして考えてみる。
さて、皆さんはなろうの総合累計ランキングにおいて、『とんでもスキルで異世界放浪メシ』が最近首位に浮上したことをご存知だろうか。これはおおよそ年末年始に起こり、長年なろうの頂点といわれた『転生したらスライムだった件』が首位から陥落したことは、なろう界に大きな衝撃を与えた。だが、果たしてどれほどの人が、とんでもスキルが実際に何ポイント獲得しているかを知っているだろうか。2024/1/26の夜現在、とんでもスキルは877,130ptを獲得している。6桁後半だが、100万には届かないようだ。
なお、2位の転スラは875,467pt、3位の無職転生は849,008ptであり、この3作品は他より突出してポイントが多い。4位の『ありふれた職業で世界最強』は695,908ptであるが、この下は12位『薬屋のひとりごと』の624,558ptまで60万台が続く。薬屋がアニメ化効果で爆伸びしていることを考えると、ここからさらに順位を上げることもありそうだ。
その下を見ていくと、かなり多くの作品が10万ポイントを突破していることがわかる。よって、試しに1万ポイントを『殿堂入り』、10万ポイントを『伝説入り』、100万ポイントを『神話入り』と定義する。
こうすると神話入りの該当作品がゼロになってしまうが、そとそもニコニコであっても神話入りは簡単に達成できるものではない。実際、たった5年前の2019年1月には、神話入り曲はわずか4曲しかなかった。上で紹介したヲワカ氏やデコ氏ですら、まだ1曲も神話入りしていなかったのである。なお彼らの代表曲はその年の春に熾烈な神話入り争いを繰り広げることになり、そしてこのときちょうどヲワカ氏が急死して彼の全曲に一大ブーストが発生したため、数十万再生差あったデコ氏の曲をぎりぎりで抜かして先に神話入りを達成したのである。この故事は『死せるヲワカ、生けるデコを抜かす』といわれて現在でも語り継がれている。
少し話がそれたが、この2曲はもともと2010年に投稿されたものであり、ニコニコのボカロであっても何年もかけてやっと神話入りするのである。決して初動だけの曲は神話入りできない。このことからも、神話入りの基準は100万ポイントにすべきである。その達成はこれからの上位曲の伸びを見守ればよい。
とにかく、この新しい評価基準を使って、さっそくレジェンドとされている作者たちの作品を見ていこう。果たしていくつの作品が伝説入りしているのだろうか。
まずは総合1位、とんでもスキルの江口 連氏である。意外にも、江口氏の作品はわずか2つだった。代表作のとんでもスキルの他に、『妖精(珍種)に生まれ変わった俺のお気楽異世界冒険譚』という作品がある。この作品は未完であるものの、それでも16,994ptを獲得しており、殿堂入りである。
次に総合2位、転スラの伏瀬氏である。この人も2作しかない。転スラの他には転スラ番外編『とある休暇の過ごし方』があるが、これは残念ながらポイントが公開されていない。しかし、おそらく殿堂入り以上の多くのポイントを得ていると思われる。
ここまでの二人は、累計総合首位を争うほどの実力でありながら、総投稿数は思ったより少ない。これはどちらの主要連載も長期にわたるものであり、すでに一つの連載で大きな人気を得てしまった作者の場合は、新作を投稿するメリットは少ないからだ。とはいえ、彼らが一発屋であるとは一概にはいえず、これから新作が投稿される可能性もある。
しかし、3位の無職転生の作者、理不尽な孫の手氏は多作な作者である。そもそも無職転生自体が5作品からなるシリーズ『六面世界の物語』の一部であり、その他にも全部で17と多くの作品がある。無職転生と『オーク英雄物語』は10万ポイントを突破しており伝説入りである。ここまでで初めて伝説入り複数の作者が出た。そして実に10作品の殿堂入りを達成している。10/17の殿堂入りは、投稿作品数の多さを考えるとかなりの偉業である。
だが、これらの三人は全員がハイファンを主に書く作者であり、短編から中編が優勢な異世界恋愛では、上位作者のポイント獲得傾向は違ってきそうだ。……と思ったが、実は異世界恋愛上位も同じように、一作の連載を続けて伸ばしていくタイプであったのである。だが、ここで私は面白いことを思いついた。
なろうにはユーザ検索の機能があるではないか。そこで合計獲得ポイントが高い順に並び替え、上位をみていけばいいのだ。きっと高名な作者がたくさん現れるに違いない。
この機能を使うと、1位は下菊みこと氏となった。実に合計で2,128,504 ptを獲得している。この人の代表作は『国王の側妃として嫁いだら「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない。君に望むのは体の弱い王妃に代わり世継ぎを産むことだけだ」と言われたのですが、私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。』である。タイトル長い。とにかくこれが25,184 ptで最も高い。そしてなんと50作品が1万ポイント以上、つまり殿堂入りしている。これはすごい。これが異世界恋愛大手の力である。しかし、下菊氏は伝説入りは一つも出せていない。
だが、2位の三木なずな氏は少し毛色が違う。この人はハイファン作家であり、代表作は『貴族転生~恵まれた生まれから最強の力を得る』で、411,460 ptを獲得している。そしてさらに、7作品が10万ポイント以上の伝説入りを達成している。これは強い。そして10/11が殿堂入り以上である。三木氏は安定した作者といえそうだ。
このように、なろうの作者の作品のポイントが大台に乗せているかどうかを調べることで、その作者の実力や投稿作品の性格がわかる。プロフィール欄に『私は殿堂入り10作持ちの人気異世界恋愛作者です!』と書いてみたりとか、新作のあらすじ欄に『前作で伝説入りした人気ハイファン作者の最新作!』と書いてみたりすれば、箔がついて読者が増えそうである。その実力がある人は、ぜひやってみてほしい。
最後に、まだ誰も成し遂げていないなろう神話入り(100万ポイント)を誰が最初に達成するかは、まだ誰にもわからない。とんでもスキルが逃げ切る可能性が高めだが、転スラや無職転生に新しいアニメ化があれば伸び始めるだろうし、現在連載中であるうえにアニメが大ヒットしている薬屋も上位進出をうかがっている。これから新しい名作が出てくることもあるだろう。とにかく、その記念すべき史上初の神話入りが達成された日には、なろう全体がお祭り騒ぎになるに違いない。