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過去へと続く路地

以前、脚本として投稿した「少女たち」を、小説にした作品です。

この街に来たのは、その18歳の頃、以来なんです。

大阪は、何度も訪れましたが、この街には、一度も足を踏み入れることはありませんでした。

怖かったんです。ここに、来るのが、ただ、怖かったんです。


駅を出て、数十年ぶりに見た、その街の風景は、懐かしと言うよりも、初めて訪れた外国の街の様に見えました。でも、人間の記憶と言うものは恐ろしいもので、自然と足は、その壮絶な時間を過ごした街へと向かっていました。


木屋町。

浅い高瀬川が流れる、この歓楽街が、その場所です。

勿論、建ち並ぶお店も、行き交う人達の様子も、全く変わっていましたが、高瀬川だけは、昔と同じく、音もたてずに、ゆっくりと静かに流れていました。私は、すれ違う、外国人観光客のわけのわからない会話を聞きながら、ただ、ただ、あてもなく歩いていました。

と、その時、先斗町へと抜ける路地から、微かに、女性の歌声が聞こえて来ました。

最初は、この路地の奥に、昼間からやっているカラオケスナックでもあるのかなと思いましたが、その声は、遠い昔、どこかで、聞いた様な、懐かしも覚える声でした。無意識に、私は、吸い込まれる様に、低い屋根が付いたその暗い路地入って、その歌声に向かって歩きました。そして、路地を抜けると、冷たい風が私の顔に吹いて来たんです。田植えの季節なのに、その風は、まるで、木枯らしの様でした。また、抜けた所は、今風の飲食店が建ち並び、観光客で、ごった返した先斗町のはずでしたが、目の前の風景は、ひっそりと人気がなく、瓦屋根、黒い格子戸、出格子が並んだ町屋が軒を連ねていました。

「ここは?」

と、また、どこからか、さっきの歌声が聞こえて来ました。

ふと、声がする方を見ると、そこには、日本髪を結って、赤いはんてんを着た一人の女性がしゃがんで、歌を唄いがら雀に餌をやっていたんです。


「沖のカモメと 飛行機乗りはよ どこで散るやらね 果てるやら ダンチョネ・・・」 


つづく





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