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第009話 タケノコ掘り


「それじゃあみんな、獲物は持ったな?」


 ある日、ある異世界にて。


 おっさんは中央広場にみんなを集めていた。

 今日はオーガ山にピクニックしに行く。


 オーガ山の主となったゼルエルからの一報で、タケノコやキノコが今は獲れ放題だそうだ。


 おっさんは愛娘のミリアの情操教育を考え、このような機会を作った。


 今やお馴染みとなった四駆の自動車を走らせ、オーガ山に到着すると。

 オーガ山の主ゼルエルが黒いインナーと深緑の作業着のズボン姿で待っていた。


「おう、よく来たな」


 ゼルエルのすっかり変わった様子に古なじみのアネッタは笑う。


「キャッハハハ! ゼルエル、よく似合ってるわよその恰好」

「うっせ、お前こそなんだその姿」

「知らないの? これが今のトレンドなの」


 二人が顔を見なくなって二週間ぐらいで。

 お互いの変貌っぷりを奇妙に思ったようだ。


 おっさんはそんな二人の間に入り、ゼルエルにプレゼント。


「ゼルエル、これを」


 ゼルエルはおっさんから特殊なリストを受け取り、怪訝そうにしていた。


「説明しよう、それは遠くに離れた人と人をつなぐ」


 おっさんが誇張的な説明をしようとすると、アネッタが割って入る。


「通信具よ、私たちで言うところのコネクトロ」

「なるほど、必需品だな」


 これは賢者エグゼとの会話上で生まれたレシピだった。

 現代で言うところのケータイではあるが、ここではコネクトロというらしい。


 すると、一号を筆頭にホムンクルス達がゼルエルに詰め寄った。


 ゼルエルは鷹揚としていたものの、その目は鋭い。


「なんだよ?」


 彼は詰め寄ったホムンクルスに問うと、赤い髪の一号が口を開いた。


「私どものコネクトロに、ゼルエル様のコネクトロを登録したいのですが、よろしかったでしょうか?」


 どうやらホムンクルス達はゼルエルと繋がりたかったようだ。


 コネクトロは持っているだけじゃ機能しなくて。


 連絡を取り合いたい相手のコネクトロを登録する必要がある。


 もしくは各コネクトロに設けられた番号を直接入力する。


 ホムンクルスの行動を見て、みんなゼルエルにわらわらと詰め寄っていた。


 各人がコネクトロの交換をすませると、ゼルエルはみんなを先導した。


「おし、じゃあついて来い。オーガ山は歩きやすい方だとは言え、怪我すんなよ」


 そんな彼の態度を見て、古なじみのアネッタはすっかり牙が取れちゃったねと揶揄していた。


 にしてもタケノコか、十年ぐらい食べてない秋の味覚かもしれない。


『タケノコご飯のレシピを獲得しました』

『タケノコのせいろ蒸しのレシピを獲得しました』

『タケノコの佃煮のレシピを獲得しました』


 くぅ! これで後はビールがあれば最高!


『ビールのレシピを獲得しました』


 やったね。


 隣を歩いていたシーラは開放されたレシピを興味津々に覗き込んでいた。


「ビールって何ですか才蔵さん」

「お酒、しゅわーとして喉越しがよくて、今日みたいな日にうってつけ」


 シーラは麦わら帽子をかぶり、その下に笑顔を見せていた。


 しばらくオーガ山を歩くと、雑木林の中に開けた場所があった。

 そこにはクレセリア川に建てたテントよりも豪華なものがある。


 これはおっさんがゼルエルと協力して作った今日の日のためのキャンプだ!!


 ゼルエルは慣れた手つきで消毒スプレーを木で作ったテーブルに吹きかける。

 その後は布巾でふき取り。


「さぁ、荷物があったらここに置いてくれ。疲れたんなら休憩してもいいんだぞ」


 みんながわいわいと荷物を置き、各々の居場所をつくる。


 その光景におっさんのイマジンは高まったようだ。


『ポテトチップスのレシピを獲得しました』

『燻製チーズのレシピを獲得しました』

『炭酸ジュースのレシピを獲得しました』


 閃いたレシピをさっそくクラフトし、シーラが敷いたテーブルクロスの上に置いた。


「これ、おっさんの世界の軽食と飲み物! みんな気軽に取っていってね」


 アネッタとミリアが一番に手をつける。


 炭酸ジュースのふたを開けたミリアはプシュとあがった音にちょっとびっくりする。


「おっさん、これ本当に飲んでいいの?」

「当たり前だろ、ただ飲みすぎると炭酸が胃袋にたまって食欲なくなるぞ」


 アネッタは燻製チーズを口にしていた。


「チーズ、あたし大好物なの。うまぁ~い」


 賢者エグゼも同じくチーズを口にする。


「今じゃ乳を出す家畜もいないからのぉ、ありがたいことじゃ」


 シーラは余ったポテトチップスを口に運び。

 サクサクっとした食感のお菓子に眉を開いていた。


 おっさんもポテトチップスを自前の容器に入れ。


 チーズも分けてもらい。


 炭酸ジュースはミリアにやって、ビールを手にする。


 オーガ山のキャンプ場から、おっさん達が住んでいる街が一望できた。


 健やかな風が喉元を撫でていき、ちょっと涼をとっている。


「……こんなに気持ちいい風なのに、空の八割は暗雲か」


 この世界の人間じゃなくても、この光景は不満だな。

 ビールで喉を潤しつつ、暗雲をぼーと眺めていた。


 そこに恐らく一番意外な人物がおっさんに声を掛けた。


 赤い髪が特徴的で、ホムンクルスのリーダー格の一号だ。


「私の前身であるオーガも、この光景に不快感を覚えていたみたいです、記憶に微かに残っています」

「え? 一号はオーガの時の記憶があるの?」


 聞くと、一号は涼やかな表情で頷く。


「この山に来てから、色々と記憶がよみがえってきました。山での不自由な生活をしていた時を想像すると、今の生活は切り離せない。私達はもうあの頃には戻れないと悟っています」


 へ、へぇ……なんかごめんね?


「……ゼルエル様と闘った時の高揚感は、今でも忘れられません」


 などと、一号が言ったからか、当人のゼルエルが後ろからやって来る。


「手合わせならいつでも付き合うぜ? でないと勘が鈍るしな」

「本当ですか?」

「嘘を平然と吐くほど、今は元気ねーんだわ。ただし」


 ゼルエルは嘆息を吐くと、一号に条件を出した。


「その力はこのおっさんのために使うと約束しろ、おっさんが危険に陥った時は手前らが頼りだぜ?」


 これじゃあおっさんはお姫様みたいな立ち位置じゃないか。


『女装のレシピを獲得しました』


 いい雰囲気なんだから邪魔するな。

 一号は目を輝かせて、ゼルエルが提示した条件を受けていた。


「はい、この命に代えても、才蔵様はお守りいたします」

「いー返事だ」


 今思ったけど、一号の前身ってシーラも倦厭していたオーガだよな?


 シーラの強さはおっさん身近で感じてきたけど、シーラはミサイル並みの火力だよ?


 そのシーラが恐れるオーガを従えるゼルエルって何者(今さら)。


 それは何もゼルエルに限った話じゃなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ゼルエルの驚異的な潜在能力を知ったおっさん、今度はアネッタに興味を持った。


 タケノコ狩りの現場に着くまでアネッタをちらちらと観察する。


 メリハリのあるスタイルは、まるでゲームキャラのようにセクシーだ。


「……視線を感じるわね」


 ぎくり。


「この視線の正体は、きっとナメクジね」


 おっさんの視線はナメクジあつかいですか。


「あんたらに言ってるのよ? 三号に四号」


 何? 三号と四号もアネッタに色目使っていたのか。

 アネッタから言及された二人はおっさんの両脇にひかえた。


 緑色の髪が特徴的な三号は。


「アネッタ様は今日も素晴らしい肉体美だ」


 は? お前、どうした三号?

 三号とは逆隣りにいた眼鏡スタイルの四号は冷静に突っ込む。


「アネッタ様の魅力は体じゃない、ツンデレ気質の性格だぞ?」


 四号まで!?


 オーガ達は故郷であるこの山に来てから様子がおかしい。


 今まで魂の抜けたお人形だった内面が、急に先祖返りしたかのようだ。


 二人は以前、おっさんの両脇でひそひそとアネッタへの劣情を語り合って。


 三号はおっさんにそのパトスを告白していた。


「才蔵様はシーラさんと普段どんな夜伽をしておられるのですか?」


 まるで中学生男子の旅館での会話みたいだ。


「あのな、三号に四号」

「「はい?」」


 おっさんからうら若い君達に伝えよう。


「男という生き物は、意外とその時が来るのが、早いぞ」


 二人はその言葉を聞き、そっと股間に手をあてがって目を瞑っていた。

 三号はその時が来る前に、と口にして。


「俺はアネッタ様に貰って頂くのだ」


 四号も同意だったようで。


「俺もアネッタ様に捧げたい、是が非でも」


 その会話をおっさん達の後ろで聞いていた女性個体の二号と六号が。


「男子ったら嫌ね」

「不潔」


 と、三号と四号を非難していた。



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