第006話 オーガ山のオーガ殲滅
十年前に起こったとされる災厄戦争。
大地はおびただしい炎で焼かれ、一面焦土と化し。
空は魔王軍勢の手によって陽光を遮られるようになったという。
おっさん達はその時亡くなった死者を弔うべく灯篭流しをしていた。
今日出会った人たちは当事者だ。
十年前の災厄戦争で、熾烈な戦から逃れてきたらしく。
一人は狂戦士の。
「ゼルエル、達筆な字で弔ってくれてありがとうな」
一人は女剣士の。
「私はアネッタ、勝手に殺さないでくれる?」
シーラはてっきり死んでいるものかと思っていたかつての盟友に恐縮していた。
賢者エグゼを筆頭に、彼らは上流から流れてきた灯篭に気を取られたらしいが。
死んだ者の名前と生きている自分の名前が同列視されていることに気取り。
「何たる失礼な行いと思ってな、怒るついでに飯を分けてもらおうと思ったわけじゃ」
「それ単なるいちゃもんだよっ!」
おっさんが怒る姿に、賢者は活気のいい男じゃと笑っていた。
鼻息を荒げていると、シーラが肩を叩いて耳打ちした。
「この方達は英雄に肩を並べていた人達です、ここは素直にご馳走しませんか」
筋骨隆々とし、獣のマスクをフードのように下げていたゼルエルはふんぞり返って。
「おう、舌をうならせるグルメを提供してくれよ。なにせお前たちは俺らのおかげで平和に暮らせてるんだからな。まぁ、戦争には負けちまったけどな」
己の敗北を自覚しているあたり、なんとも言えないわ!
何を言ってもセンシティブじゃないか。
ゼルエルの隣にいた女剣士のアネッタは目立った胸を揺らして。
「私は出来ればお酒いただけない? 昔からお酒大好きだったんだけど、戦争に負けて以来、気軽に飲めなくなってね。でも飲んでいないとやってられないのよ、うん」
二人そろって触れずらいわ!
『赤ワインのレシピを獲得しました』
『白ワインのレシピを獲得しました』
『ロゼワインのレシピを獲得しました』
とりあえずおっさんも飲みたい気分になった。
赤、白、ロゼの三種のワインをクラフトし、新顔さんたちにグラスを提供する。
狂戦士のゼルエルには血のような赤ワインを、トクトクトクゥ。
白い木の杖を手にしている賢者様には白ワインを。
目立つおっぺぇを持ったアネッタにはロゼワインを提供。
おっさんはワイン苦手なので、ひとり一升瓶の日本酒をドン!
「……さぁ時代は大航海時代」
と言うと、他のみんなはきょとんとしている。
口煩そうな野犬の目をしたゼルエルは。
「もう酔ったのかよ、飯はどうした飯は」
「うるせぇ負け犬ッ! これでも食ってろい!」
ゼルエルはおっさんが差し出した和風ハンバーグにおとなしくなる。
同じ卓を囲っていた巨乳のアネッタはさっそくワインを飲みほしたようだ。
「ちょっとおっさん、お酒が尽きちゃったわよ」
「うるせぇ乳袋! これでも飲んでろ! あとおっぱい揉ませろ!」
アネッタには一升瓶を超える酒、樽酒を用意してやった。
これで文句あっか、あ!?
俺の嫁と書いてマイハニーのシーラは、何故か震え上がっている。
「す、すみません、私の夫が大変なご迷惑を」
シーラの謝罪に、賢者エグゼはおおらかに笑う。
「廃滅した世界でこのような快男児が出てくることはむしろ喜ばしいじゃろ」
「そのようなこと言ってくださり、大変恐縮です賢者様」
賢者が俺の嫁と話し合っている、その様子にジェラッた。
だからおっさん、シーラのそばにより、彼女の頭をつかんでキスした。
なんて気持ちいい……これ以上の至福は味わえない。
感動やら、気持ちよさやら、優越感やらが襲ってきて。
おっさんは、そこで轟沈してしまった。
狂戦士ゼルエルの声が聞こえる。
「おいおっさん、さっきのハンバーグもっとくれって」
「おっさん、お酒足りなーい、次は違うお酒頼めない?」
ううう、頭痛い、気持ち悪い、今は安静にしていたい。
しかし注文は絶えない様子で、そこでおっさんはお手伝いさんのクラフトを想起した。
『ホムンクルスのレシピを獲得しました』
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レシピ名:ホムンクルス
必要材料
・土
・クレセリアの川
・オーガの心臓
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材料の中にオーガの心臓とやらが紛れている。
これは一足で用意できるものじゃない。
「おっさん、もっとハンバーグくれよ」
「私もお酒がもっと欲しいわ、どうすればいいの?」
「負け犬におっぱい……ならオーガの心臓を狩ってきてくれないか。オーガはここから見えるあの山をアジトとしている。だから、オーガの心臓を、オーガの心臓を」
おっさんがオーガの心臓を切望すると、狂戦士のゼルエルは山に向かった。
女剣士のアネッタも目の色を変えてオーガ山に向かう。
オーガ山に向かった二人を援護しようとシーラまでもオーガ山に向かう。
「誰かー、俺を介護してくれー、誰かー」
酔いつぶれたおっさんに愛娘のミリアがそばにやって来た。
「はいはい、おっさんは私が介護してあげるから、大人しくしててねー」
ミリアは冷たい手をおっさんの頬にあてがってくれた。
それと同時に治癒魔法でもかけていてくれたみたいで。
数十分もすれば、おっさんは復調を決める。
お酒って怖いなぁ、と思っていると。
オーガ山の方から狂戦士のゼルエルと女剣士のアネッタが帰って来た。
ゼルエルは巨大なオーガの死体をかつぎ、目の前に放る。
「オーガ山の一番強そうなオーガを狩ってやったぜ」
するとアネッタは次ぐように五体のオーガの死体を目の前に置いた。
「オーガ山といっても、恐らく今狩ったので全部ね。もう気にすることないわよ?」
さすがは英雄と肩を並べる存在だけはある。
オーガとかいう強キャラをいともあっさりと言った様子で討ち取るのだから。
ゼルエルは会場にあった卓の椅子に座ると。
「おっさん、オーガは狩って来たんだ。和風ハンバーグ作ってくれよ」
次いでアネッタも椅子に座り。
「もうちょっと度数強めのお酒お願いできる?」
と要求していた。
そこでおっさんは「ちょっと待っててくれ」といい、オーガから心臓を採取する。
大きな心臓が一つと、中ぐらいの心臓が五つ、これを。
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レシピ名:ホムンクルス
必要材料
・土
・クレセリアの川
・オーガの心臓
[作成]
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ホムンクルスとやらにクラフトしてみると。
そこには十代半ばぐらいの青年、少女が六人ほど立っていた。
その光景に賢者は驚き。
「まさか、ホムンクルスを生成したというのか? それは大錬金術師であるハッサン以外にできるものはいなかった。なのにこのような見すぼらしいおっさんが作ってしまったというのか」
ホムンクルスは言わな人間を模した人造人間であり。
ホムンクルスは人の仕事を手伝ってくれたりする。
オーガの心臓から造られただけに、額には小さな角を生やしていた。
「あー、悪いんだけど、君たちの名前は一号、二号、三号、四号、五号、六号でいいかな?」
と言うと、一号と命名された赤毛の青年は口を開く。
「問題ありません、それよりも、ご用命あればお申し付けください」
まずはホムンクルスの服が必要だよな、ってことで。
『執事服のレシピを獲得しました』
おっさんは執事服のレシピを開き。
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レシピ名:執事服
必要材料
・ゴルディックの枝葉
・クレセリア川の水
・モナコ草
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「みんな、みんなに着る物を与えるために、この材料を取ってきて欲しい」
そうすると一号を筆頭に「了解です」「了解しました」といい、ホムンクルスは採集行動に移った。
そして、後はそう。
おっさんは食べ物のレシピと酒のレシピを開放したままその場に卒倒したよ。
あとはホムンクルスが、とだけ言い残して翌朝まで爆睡した。