第005話 賢者の灯篭
エルフの嫁シーラが持ち掛けた家族化計画により、三人は家族となった。
大黒柱はおっさんであるからして、家名は霧島一家になるだろう。
霧島一家の誓いを立てるため、おっさんはあるものを想起していた。
『墓標のレシピを獲得しました』
家族と言えば墓!
おそらく、おっさんは三人の中で一番早く逝くだろう。
なればこその墓!
明日は世界が滅びてから十年目になるというし。
十年前の戦争で亡くなったシーラの仲間や、ミリアの両親を弔おうと思う。
「なぁ二人とも、明日は祭りを開こうと思うんだ。おっさんの故郷だと、亡くなった御霊を弔うために盛大に祭りごとをするんだけど、どうだろう?」
何か意見ありますか、はいではエルフの嫁さんからどうぞ。
「祭りといっても、色々ありますよね? どんなことをするんですか?」
「灯籠流しって言ってな、小さな灯篭を作って川に流し、死者を弔う」
「川? と言うことは祭りはクレセリア川で?」
そ、そうね。
「そのために今から内職したいと思います! ミリアも漫画読むの止めて手伝うんだぞ?」
「えー、今いい所なのに」
俺のスキルで生成された青春漫画ではあるが、面白いらしい。
異世界人のミリアの反応を見る限り、相当なものだ。
それからおっさんは。
『灯篭のレシピを獲得しました』
明日使う灯篭をクラフトしまくり、シーラやミリアは旧知の名前を墨で書きまくった。
翌日、おっさんは四駆自動車に二人を乗せ、オーガ山を迂回して川に向かった。
車に揺られつつ、後部座席でミリアはフランクフルトを頬張って。
隣の助手席にいたシーラは焼きトウモロコシを食み。
二人ともこの日のために用意した浴衣姿が映えている。
おっさんはサングラスを掛けたはっぴ姿で川に到着。
川につくなりミリアはドアを開けて猛ダッシュで川辺に入った。
「こらー、危ないからなー、もっと落ち着いて行動しろよー」
隣にいたシーラは周囲に危険なモンスターがいないか確認している。
「問題なさそうです、才蔵さん」
彼女のおっさんの呼び方がいつの間にか「さん」になっている。
距離感が縮まって来た。ってことなのかな。
「じゃあ、祭り会場を設置するか」
故郷の祭りといえど、よくわかってない。
が、太鼓に、神輿に、やぐらに屋台があれば十分だろう。
それと墓!
クレセリア川の畔の一角におっさんはひっそりと霧島家の墓を作った。
その後は祭り会場の設営、神輿やぐらを中心に円を描くように屋台を設置。
試しにわたあめを作ると、ミリアとシーラが爛々とした瞳で見つめている。
「不思議な食感ね」
シーラの感想に次いで、ミリアもわたあめを大口で頬張る。
「何これ! 口の中で弾けるんだけど!」
ふふ、普通のわたあめじゃあつまらないだろ?
ミリアのは口の中に入れるとパチパチと弾けるキャンディチップ入りさ。
次におっさんは祭りの定番である焼きそばを作った。
香ばしいソースの匂いに、雑魚モンスターもこちらを窺っている。
いいぜ、今日は祭りだッ!!
お前らにもご馳走してやるぜッ!!
「そーら、召し上がり」
おっさん、恐る恐る作った焼きそばを川の土手に置く。
一見、小動物のような雑魚モンスターが群れで焼きそばを取り合っていた。
シーラはその光景に好感を持ってくれた。
「お優しいのですね」
さぁ、祭りはまだ始まったばかりだぜッ!!
イカ焼き、たこ焼き、サザエのつぼ焼きぅい!!
食欲旺盛なミリアは次々と出されるお祭り料理を食み食みしつつ。
シーラと一緒になって、野良モンスターと戯れていた。
そんな感じでお祭りが進んでいくと、あっと言う間に夜になった。
その頃合いを見計らって、おっさんは二人と一緒に川に灯篭を流していく。
橙色に灯った無数のあたたかい光が、十年前の戦争で亡くなった死者の御霊代わりとなって川を流れていく。その光景にシーラは涙し、ミリアも思案気な表情をとっていた。
二人の気持ちが伝わって来るようだ。
ありがとうおっさん、と。
するとあろうことか、灯篭が流れていった下流から人の声がした。
「おーい、おーい」
ヒッ! 死者の怨念がおっさんを冥界に引きずり込もうとしている……!
南 無 阿 弥 陀 仏! なんまいだ……!
両目をぎゅ! っと閉じて念じると、誰かに頭を小突かれた。
「こりゃ、お主らか、これを川に流したのは」
そこには白木の杖を手にしたご老人がいる。
「あ、すいません。それ、一応水に溶けて自然に還る仕様でして」
「ほう、してお主ら」
ご老人が何か言おうとすると。
川辺から少し離れた祭り会場に、ひと際甲高い歓声が聞こえた。
「これ美味ぇ!!」
「ほんと、ちょっと熱いけどうんまー」
ちょ、ちょっとちょっと!
それ、おっさん達のなんですけど!?
などの思いで、宝を前にした野盗ばりに喜んでいる連中を見ていると。
後ろにいたシーラが、声をあげた。
「まさか、賢者様でいらっしゃいますか?」
シーラはおっさんと対峙していたご老人に尋ねると。
白い立派な髭をたずさえた彼はゆっくりと頷く。
「わしの名はエグゼ、そこな若きエルフが言うように賢者の一人じゃ」
ご老人は自らを賢者といい、自分の名前が書かれた灯篭を手にしていた。