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第016話 ドワーフの居酒屋にて

雨、じゃぶじゃぶとぉ~……某日未明、私ことサカイヌツクは久々にラーメンを食べに行こうと思った矢先、外でじゃぶじゃぶと音を立てて降りしきり雨を前にして諦観を覚えました、嗚呼、天に見放されたってこういうことを言うのかぁ(程度が低い)。


 エルドラドに来て、ロイドの興行を手伝うことにしたおっさん。


 視察がてら夜のエルドラドを散策することにした。


 地下にあるエルドラドは年がら年中、明かりがついていて。


 大通りにはレンガ仕立てのドワーフの住処が軒を連ねている。

 夜だろうと通りには人気がいっぱいあった。


 というのも、どうやらドワーフは無類のお酒好きで。


 日中汗くせ働いた疲れを夜の飲み会で発散させるのが通例なようだ。


 おっさんはロイドと五号を連れて、ある大衆居酒屋に入った。

 店内は長方形のカウンター席が二つに、奥手は机席が無数にあった。


「いら、うぉ! 人間か」


 店員が突如としてやって来たおっさんの顔を見て驚いている。

 店にいた他のドワーフもおっさんに興味を持ったようだ。


「人間がエルドラドにやって来るなんて、何年ぶりだろうな!」

「おい人間、面白いことしろ!」


 無茶振りですか? おっさんは意外と応えちゃいますよ!


 悲報、無茶振りに張り切ったおっさん、ドワーフの団欒に溶け込む。


 店に入って短時間で出来上がったおっさんを五号は拍手で盛り上げる。


「さすがです才蔵様」


 人間を嫌っていたはずのドワーフは種族の垣根をお酒の力で霧散させたのか。


「おい、おっさん、こっちで一緒に飲もう」


 奥手のテーブル席にいたドワーフから声を掛けられた。

 嬉しいお誘いをおっさんは拒まないんだぞ!


「いやー、失礼します」


 五号やロイドもおっさんに続いて席に座ると。


「ふふぅーい、今日はめんこい人間と一緒に飲むぞー!」


 五号はドワーフにアイドル化されている。

 昼間、三号と四号から女あつかいされなかったせいか、まんざらでもない様子だ。


 おっさんは隣席にいたドワーフを捕まえて、さっそく聞き込み開始だ。


「ところで旦那、ご家族はいるんですか?」

「ああ、俺みたいなハンサムなドワーフを女が放っておくと思うか?」

「確かに旦那のマスクはメロンのように甘い、女性がなびかないはずもな……どうしたので?」


 おっさんと話していたドワーフはテーブルに顔を伏せた。


 その様子を奥手にいた仲間が説明する。


「こいつ、今日は盛大に夫婦喧嘩して家を追い出されたんだよ」


 あららー、それは大変。


「一刻も早く仲直りしないと、ですね?」

「うっく、ひっく、俺は必死に働いて、家族を養って、うっく」


 うんうん、悲惨ですね。


「なのに女房と子供は、俺を臭いとさげすんで、声をかけてもろくに返事しちゃくれねぇ」


 うんうん、あるある。


「今日は女房に洗いものをいつもみたく頼んだら、ブチギレられた」


 その時、おっさんはこのドワーフの旦那のためにある道具を閃いた。


『食器洗浄機のレシピを獲得しました』


「旦那、貴方はおっさん達をお誘いしてくれた心の広い御仁だ」

「うっく、ひっく、お、俺のことはい、いいんだ、今日は飲もう!」

「そんな旦那に、奥さんと仲直りできる魔法の道具を進呈しますよ」


 先ほど閃いた食器洗浄機をクラフトすると、周囲のドワーフはぎょっとしていた。


「今どこから出した?」

「まさかこいつ、ドネイル様の生まれ変わりだったり……?」


 ドネイル? まぁそれは置いといて。


「これは食器をセットするだけで、自動で洗ってくれる、皆さんのお茶の間で喜ばれる魔法の道具です。お手てはデリケートにできてますからね、きっと奥様は手を痛めていて、ついカッとなったんですよ」


 ちょっと重いかもしれませんが、どうぞ。


 食器洗浄機を渡すと、そのドワーフは何を思ったのか無言で退店した。


 おっさんは哀傷気味になり、静かにお酒と肴をつまんでいれば。


 店に例のドワーフが快活な顔で戻って来たのだ。


「おおおお、お前凄いな! 女房にこれを持っていったら喜んで、謝ってくれたぞ!」

「なんと!?」

「ありがとうな! あ・り・が・と・う・な!」


 ドワーフは喜々として、おっさんの背中を強く叩いた。痛い痛い。


 でもおっさんも役に立てて上場気分、このまま朝まで飲もうじゃないか。


 と、意気揚々に飲み始めると、奥手にいたドワーフがテーブルに顔を伏せていた。


「どうされたので?」


 聞くと、奥さんと仲直りしたドワーフが言う。


「実は、こいつもこいつで女房と喧嘩しちまってな」


 お前らはそろいもそろって夫婦喧嘩好きなのか?


「嫁は、実家に帰るって言ってきかないんだ。毎日、掃除洗濯に追われる日々で貴方は外で自由に過ごしていてずるいって。私はこの家の奴隷なのかって。俺は誤解だって言ってるのによ……」


『自動掃除機のレシピを獲得しました』

『自動洗濯機のレシピを獲得しました』

『カーネーションのレシピを獲得しました』


 今日のおっさんは悩める夫を救いたい会の会長に、立候補しよう。


「旦那、貴方は奥さんに強さと、優しさを見せてあげるべきなんじゃないかな」


 強さといっても、意固地な態度を見せるのではなく。

 俺の稼ぎがあればお前に苦労はさせない。といった頼もしさだ。


「旦那にはこれ、自動掃除機と自動洗濯機を進呈しますよ」


 ちょっと重いですが、どうぞ。


「それから最後のしめとして、このカーネーションを労いの言葉と共に贈りましょう」


 三つのアイテムを貰ったドワーフは涙目で頷き、家に帰った。


 胸中で上手くいくといいな、って優しい面持ちで酒を飲んでいると。


 ドタドタドタと件のドワーフが店に駆け込んで。


「すっげぇえええ! お前の言った通りにしたら、女房がうれし泣きしてた!」

「なんと!?」


 二人のドワーフの悩みを爽快に解決した光景に、店のドワーフは拍手喝采。

 五号もにこやかな顔でおっさんにパチパチパチと拍手をささげる。


「さすがです才蔵様」


 すると、居酒屋の店長がやって来て。


「これ、詰まらねーものだが」


 と、『巌窟王の秘蔵酒』というラベルの一升瓶を渡された。

 ドワーフというドワーフがその酒の存在におののいている。


「巌窟王だと……!?」

「製造されなくなって百年は経ったという、幻の酒か!」

「時価およそ金貨一万枚はするんじゃないか?」


 へ、へぇ、プレミアなんだな。


『冷蔵庫のレシピを獲得しました』


 ちょうどいいことにこの店に贈呈する見返りも閃いたことだし。

 店長のドワーフはそのプレミア酒のふたを勢いよく開ける。


 おっさんと自分用のグラスを取り出し、黄金色に輝くそれを注ぐ。


「本来なら千年祭の時にひっそりと飲もうと思っていた」

「恐縮です」

「しかし、お前の顔をみて、開けるなら今だってピンと来たんだ」


 そして店長はおっさんと乾杯するよう促し。


「乾杯!」


 グラスをチン、と鳴らしてその酒を一気に飲み干した。

 ゴクリ、と喉元を通った黄金色の液体が胃にたどり着くと。


「……ふぅ」


 おっさんはついため息を吐いてしまった。

 その直後――ッ!


「ゲッハアッッッッ!!」


 黄金色の酒を胃の粘液と混ぜて盛大に吐き出す。

 何これカッラ!!


 同じ酒を飲んだ店長はドサ、と前のめりに倒れ。


 見守っていたドワーフ達は哄笑をあげるのだった。




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