第001話 異世界に転移したおっさん、その冒頭の重さについ突っ込む
第一部(約7万6千字)はすでに脱稿してあります!
見切り発車に近い加速度で書き始めた作品ですので、設定の落ち度などは生暖かくご指摘してくださると幸いですm(_ _)m
更新頻度は最初の四日間は三話ずつ(昼、夕、晩)とあげます。
13話以降は毎日一話のペースで更新していきます!
空は暗雲が広がり、間隙を紫電が走る。
緋色に燃え盛る大地には無数の黒い焼死体の群れで覆いつくされていた。
その光景を翡翠の瞳に映していた彼は、泣きながら戦ったという。
「悪いが、この戦は私の勝ちだ」
英雄に向けられた勝利宣言は、されど彼の心をくじかなかった。
しかし彼は魔王が発した言葉は事実として受け止めている。
世界の趨勢を懸けた戦いは、魔王が勝利し。
世界は滅びたのだと。
ならば、依然として魔王と戦っている英雄の心とは。
魔王自身も気にかかったのか、戦いの最中、それを自然と問うていた。
「勝敗が決していて、何故立ち向かう。この戦いはもはや無意味」
英雄は閃光の如き速さで間合いを詰め。
終には魔王の心臓に剣尖をのめり込ませていた。
自身の野望を遂げ、英雄たちとの戦いに勝った魔王はこうして散った。
魔王の胸中に浮かび上がった後悔は、先ほど想起した小さな疑問だけだった。
魔王が倒れると、英雄もまた天を仰ぐように倒れる。
暗雲は晴れることなどなかったが、しかし天は彼に慈雨を与えた。
翠色の雫は蒼白に染まった彼の頬に落ち、安らぎをもたらすと。
英雄は両瞼を閉じて、不意に笑っていた。
「負けちゃったか、しょうがないから、次に期待しよう」
言うなれば、その台詞は彼の遺言であり希望だった。
魔王軍の勝利を知り得、なおも命尽きる最期まで戦い抜いた彼の原動力だったのだ。
「きっと、僕以外の誰かが、つないでくれる」
英雄はそう言い残し、彼も他と等しく、緋色の炎に包まれるのだった。
◇ ◇ ◇
『こうしてこの世界、ニールデウスは滅びました。英雄と謳われたマルコが言い残した最後の希望を調停者である私は全面的に汲みとり、貴方をここに召喚した訳です。霧島才蔵殿』
重い重い重い。
説明しよう、俺こと霧島才蔵、通称おっさんは地球は日本のアットホーム的な中小企業でも、同僚や先輩から「窓際で忍術使わないでくれる?」などと実質上の窓際族あつかいを受けていたサラリーマンだ。
そのおっさんが、会社帰りに異世界に転移したようだ。
目に映る悲惨な光景に認識力がおいついていなかったのか、おっさんの最初の言葉が「異世界転移でおっさん主人公が無双して美女、美少女、美姫とイチャイチャしちゃう超展開キタコレ!!」だった。
そしたらおっさんの両耳に、世界の調停者を名乗る機械音じみた声が響いて。
いきなり世界の崩壊を知らされた。
重いよ、異世界に飛ばされた緩いサラリーマンに待っている展開としては。
「帰らせてください」
おっさんは崩壊した異世界の惨状から土下座すると、謎の声は『なりません』と否定する。
『そう悲観することはありませんよ才蔵』
「えー、だって崩壊した世界に放り出されても、俺みたいな窓際族には何も」
『才蔵には――スキル【クラフト】を与えてあります』
ほう、スキルとな?
「どんなスキルですか? 少なくとも戦闘向けじゃなさそうっすね」
『スキル【クラフト】は貴方が空想し得るものをレシピ化し、簡単に作れるといったものです』
ほほぉー?
という訳で、おっさんは早速両目を閉じて、空想してみた。
幼い頃から漫画ゲームアニメに触れてきたおっさんの空想力を舐めんなよ!
「破ぁあああああああああああああ!!」
すると――おっさんの目の前に半透明状の小さなブルースクリーンが無数に浮かび上がって。
『カレーのレシピを獲得しました』『海鮮丼のレシピを獲得しました』『醤油ラーメンのレシピを獲得しました』『いくら寿司のレシピを獲得しました』『鮭おにぎりのレシピを獲得しました』『チーズナンのレシピを獲得しました』『カップラーメンのレシピを獲得しました』『イカの塩辛のレシピを獲得しました』『牛丼のレシピを獲得しました』『生姜焼きのレシピを獲得しました』『和風ハンバーグのレシピを獲得しました』『ライスのレシピを獲得しました』『チーズサンドのレシピを獲得しました』
などなどと、腹を空かせたおっさんの欲求全開のレシピが次々と開放されたようだ。
おっさん、会社から帰ってきてなんも食ってねぇもんで、へへ。
試しにカレーのレシピに指先で触れてみると、クラフトに必要な材料が書かれていた。
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レシピ名:カレー
必要材料
・ゴルディックの枝葉
・レディボーンの粉末
・水
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……あっれれぇ?
「おかしいなぁ、おっさんの知ってるカレーって、香辛料各種とかのはず……なんですけど?」
首をろこつに傾げると、謎の声は押し黙った。
「ゴルディックの枝葉って何?」
『向かって左側に見えるオレンジ色の葉を持った木の枝のことですね』
向かって左側……そこには枯れ木林がある。
林の向こう側が透けて見えちゃうぐらい、木々には緑がなくて。
空を見上げると、暗雲が垂れ込めている。
おっさんはちょうど廃墟と化した街の入口に立っているようだった。
とりあえず枯れ木に失礼して枝葉をわけてもらい。
「レディボーンの粉末って?」
残りの材料について尋ねてみた。
『レディボーンは女性の骨をネクロマンサーが秘術によってモンスター化させたものを指します』
そして知っちゃったんだ、この世界にはモンスターがいるらしい。
おっさんのスキルは戦闘向けじゃないから、モンスターとの遭遇には気をつけよう。
『ちょうど、街の方に沈黙化したレディボーンがいますので、それから借用すればよろしいかと。水でしたら街の中央に壊れかけの井戸が残されていますので、そこから入手できそうですね』
ふいふい、腹が減っては戦はできねぇって言うし。
謎の声にしたがって倒壊した街を散策しつつ、カレーに必要な材料を集めよう。
ちょっと見た限り、街に人の影はなかった。
おっさん人見知りしいだけど、寂しがりやでもあるから鳥肌立っちゃうね。
その後レディボーンの粉末と、井戸の底に少し溜まっていた水を汲み。
カレーのレシピのブルースクリーンの下にあった『作成』ボタンを押してみれば。
「お? 本当にカレーが」
白い陶磁器の皿に盛られたカレーライスの出来上がり!
「あ、でもスプーンがないな」
『スプーンのレシピを獲得しました』
言うなりスプーンのレシピを獲得したぜ!
必要材料がいささか特殊で、今は謎の声の説明がないと入手が困難だけど。
これは使えるぜ。
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