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一緒にご飯を

 作戦を教えてもらえる?


 私はクラバータをワクワクした目で見つめた。おそらくクラバータには陶器に空いた穴にしか見えないだろうけれど。でもクラバータは凄い魔法使いだから私の気持ちがわかったのか、私に期待されて嬉しいという風な得意そうな顔付となって胸を張った。


 あなたが礼拝堂中に張り巡らせていた火薬入りの蔦、あれはどうなるの?


「城のそこかしこに爆薬を仕掛けてある。この火薬入りの導線でその全てを繋ぐ。敵が城中に満たされ、この礼拝堂に大将がやって来た所で、ドカン、だ」


「まあ!流石です。ああ、それで人払いをされていたのですね!兵士ってお喋りな人が多いですもの」


 あら、褒めたのに、皮肉そうに鼻を鳴らした?

 あ、クラバータ様こそ英雄てことは兵士だ。せっかく相棒扱いして作戦を教えてくれたというのに、お喋り、なんて私は彼に言っちゃったことになったわ。

 あわあわしながらクラバータを見返すと、彼は肩を軽く竦めてから私に気にするなと言う笑みを向けた。


「クラバータ様、あの」


「部下がここから逃げたのは私を見限っただけだよ」


「ええ?あなたを知って逃げる人などおりません。その方達は兵士じゃないのよ。いいえ、大酒のみで責任感のない私の父みたいな人達なだけなのよ」


 ポンと、また私の頭に伯爵の手が乗った。


「ルピ。全く君は本当に私を過大評価しすぎ……あれ」


 そこで伯爵からなんだか息を飲んだような音が聞こえた。

 伯爵は思いがけずお菓子を見つけてしまった時の弟のような顔をした後、そのお菓子がとっても嬉しいと言うような笑顔に変えた。その笑顔に私には無いはずの心臓がひっくり返ったではないか。


「く、クラバータ様?」


「君は男泣かせだな」


「え?」


「私を手伝いたいなら、まず私への昼飯を頼む」


 私はうむむうと唸った。

 クラバータは何でも見透かしたような目を私にさらっと向けた後、再びご自分がされている作業に視線を戻され顔を背けられた。だが、彼の口元が笑みを作っているのは私に見えた。

 声のない言葉を呟かれていらっしゃったのも。


 やっぱり女の子だな?

 彼はわかったのかしら?


 私は奥様の思い出になりそうな一着のドレスとネックレスとイヤリングのセットを、自分の空洞な体の中に入れたのだ。

 これならば、いついかなる時にも忘れずに持ち出せて、いついかなる時にもクラバータに手渡すことができる。


 そう思っての行為なんだけど、クラバータから見れば、気に入ってもドレスやアクセサリーを身に付けられないから私が持ち歩く事にしたように思えた?

 確かに私が一番気に入ったから、なのだけど。


 クリーム色のシルクの生地のドレスには、胸元と裾と袖にチュールが重ねられてるだけでなく、青緑色の糸で綺麗な蔦模様が刺繍されている。そして、ドレスの袖は、舞踏会に行けそうな可愛らしいパフスリーブなのだ。それから、真珠と緑色の宝石で出来たイヤリングとネックレスは、その刺繍のお揃いみたいに清楚で可愛いデザインなのである。


 さて、どうしてそんなことが私にできたのかと言うと、素焼きの人形でしかないゴーレムの体の中は空洞だ。そしてゴーレムが魔法人形であるからか、自分が願えば自分の中に物を入れてしまう事ができるのである。


 大事なものはお腹に入れてしまえって、奴隷市場で他のゴーレムに教えてもらったことだけど、冗談じゃなくて本当にできたから驚き。


「ルピ。ご飯。手伝いたいんでしょう?仕事が無くなるよ?」


「はい!かしこまりました」


 私は土塊にしては敏速に身を翻すと、台所へ向かうべく駆け出した。

 私の後ろで軽やかな笑い声が響き、私は伯爵の笑い声で心が軽くなって、重い土塊の体でも生前の体で草原を駆けている様な気持ちとなった。

 そうよ、こんな素敵な人を絶対に死なせやしないわ。




 そんな熱い決意のもと昼食を作ったからか、私は馬鹿な事をしてしまった。


 食べるのは伯爵一人なのに、私は二人分の昼食を作ってしまっていたのである。


 私が今回作ったものは、エンパナーダ。

 小麦を練った生地に肉と野菜を炒めた具を入れて石釜で焼くという、気軽に食べられる料理だ。これを石窯で焼ける天板一枚分、二十五個も焼いてしまっていた。


 いくら体大きな男の人だって、一人でこの量は多すぎる。貴重な干し肉ともっと貴重な野菜という大事な食材を無駄にしてしまった、なんて。


 それよりも、召使いが主人と一緒にご飯を食べようとしていたなんて、なんておこがましい。


 しかし、私が運んだ昼食を見た伯爵は私を怒りはしなかった。それどころか、私が謝罪した言葉を聞くや、失敗した私の胸の方が痛くなるような切ない笑顔を顔に浮かべたのである。


「そうか、自分を数に入れてしまったか」


「申し訳ありません。まだゴーレムになって日が浅いもので」


「夜に食べればいい」


「でも、同じものを二回だなんて」


「美味しものは何度続いても良いものだよ。エンパナーダは私の好物でもある。それに嬉しいじゃないか。君は私と食事がしたいと思ってくれたんだ。本当に男泣かせだ。いや、私泣かせなのかな」


「えと、も、申し訳ありません」


「なぜ謝る。妻が見向きもしなかった私からの贈り物、それこそを君は気に入ってくれたんだ。私が君にありがとうと言うべきだろう」


「す、凄く素敵なドレスに、大きな真珠と緑色の宝石がとってもきれいな、す、素敵なイヤリングとネックレスなのに!」


「そうか?修道着か囚人服だと罵られたぞ?せっかくよそ者と結婚したというのに、この寂れた所から出してくれない看守でしかなかった。そうあれは言ったな。それなのに君は私と一緒が良いという。まったくもって、ありがとう、だよ」


 私は奥様のものを全部貰います、と叫んでいた。

 借金があっても売りません、全部私が貰いますって。

 それで涙が出たところを、やっぱり伯爵が拭ってくれた。


 私は彼に涙を拭って貰いながら、自分の気持ちを彼に気付かれませんようにって願った。

 だってこんなに善良な人に、人殺ししたい私の気持を知られたら嫌だもの。

 奥様が亡くなっていなかったら、きっと私が彼女を殺していたわ。



お読みいただきありがとうございます。

引っ張った割には大したことが無い計画みたいですいません。

メインは、一緒に食べたかったの、です。

ルピが作ったエンパナーダは半月型のミートパイみたいなものです。


そして、気が付かれたかもしれませんが、大昔の前衛的なアニメにリスペクトした台詞が入っています。大事なものはお腹に隠しておくんだよ。天野喜孝と押井守は大好きです。

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