エピローグその二、私達は何時も一緒の相棒ですもの
南米のケーキならば、練乳をたっぷり染み込ませたスポンジにメレンゲを飾った甘さたっぷりのトレスレチェケーキであるべきかな、と思いましたが、クリームでお花を作るフラワーケーキが花サボテンのマミラリア属みたいなので。
アルビフロリスとナピナが作ったと豪語するケーキは、真っ白のクリームに淡い色合いやはっきりした色合いのクリームで作られた花々が飾られている、という、とっても可愛らしいものだった。
食べてしまうのが勿体無いほどの。
これを私とクラバータの結婚のために作ってくれただなんて。
私は胸がいっぱいになっていた。
「素晴らしいわ。最高のケーキね。これをあなた方が作ったの?」
「コツを習得すれば簡単なんだよ」
「ナピナはとっても丁寧な作業ができる子ね。想像力も豊かだし、最高よ」
ナピナは偉そうに胸を張り、アルビーはまるで我が子の自慢みたいにして鼻を鳴らした。それから彼女は、どこからかケーキ用の大きなナイフを取り出した。
「さあルピ、クラバータとケーキを取り分けて。ケーキが食べたくて堪らないナピナの為に。この屋敷の女主人とその伴侶になった男との最初の共同作業として、あなた方の未来のために」
「え?このお屋敷は王子とアルビフロリス様のものでは無かったのですか?」
私が驚いてクラバータを見返すと、彼はご褒美を貰ったんだ、と言った。
アンデット化を無効にできる特効薬を彼が錬成できたから、城を失ったばかりの彼は国から報奨金と屋敷を手に入れたのだそうだ。
ただし、物凄くがっかりした口調だ。
「何か問題でも?確かに埃の溜まりそうな飾りもたくさんあるお部屋でお掃除が大変そうだけど、お掃除ぐらい頑張るわよ?」
「ちがう。そんなものは私が受け持つ。大事な君が埃取りなんかしなくていい」
「ではどうして落ち込んでいるの?」
「このすけべえが君と新婚出来るのはこれから三日だけだからかな」
私は会話に割り込んで来た二コリーを見返した。
彼は注目を浴びて嬉しいという笑顔になった後、種明かしをしてくれた。
「こいつはただ半年引きこもっていた訳じゃないよ。自分で作った特効薬を自分とアンデットになったイスラヤ領民に打って効力を確かめていたの。それで分かった事は、死んで発病してしまった者には無効だけど、生きながら発症しかけている人間には有効だったという結果だ」
「では、クラバータは自殺する必要なんて!」
「あの時点で薬は失敗だったからかな。こいつもアンデット化し始めていた」
「まさか」
私はクラバータを見返した。
クラバータは右手の指先で私の左頬を撫でた後、私の左胸にそっと指先を置いた。胸に彼の指先を感じた事でどうして足の指先が丸まるのか。全く嫌らしい触り方など彼はしていないのに。
「このドキドキが私には必要だった。私は心が死んでいた。君が生き返らせてくれたんだ。だから私は死の呪いから生還できたのだろう」
「私こそあなたに癒されっぱなしよ!」
私はクラバータを再び抱きしめた。
すると、彼は嬉しそうな笑い声を立てながら私を抱き返し、さらに、私の首元に彼は頬ずりなんてもしてきたのだ。
「クラバータ?」
「甘やかせてくれ。ようやく手にできた君に三日しか甘えられないんだから」
「ええ?」
「つまり、クラバータにはね、お国から出撃命令が出ているのさ。現在進行形でアンデットによる破壊を受けている町、アロンソイに行って市民の救済をしてもらわないといけないんだな」
「え?」
「俺とアルビーで被害を少しでも抑えるつもりだ。だけど三日だなあ。ちゃんと三日後には俺達に合流なさいよ?」
「うふ。ごめんなさいね。でも、三日はあげるから。で、ケーキは食べたいわ。アロンソイではナピナのケーキは食べられないもの」
私と夫の為に時間稼ぎをしてくれるらしい人達に、私と夫は感謝を込めてケーキを切り分けるしかない。
二コリーとアルビフロリスは切り分けたケーキを手渡すや、とっても嬉しそうな顔で戸口でそれぞれに腕を回してくっついた。そして私達に軽く手を振るや、ぱっと消えていなくなったのである。
私は二人の姿によって奴隷市場の事を思い出していた。
あの二人に良い感情をあの時に抱かなかったのは、あの二人のような人生が私には無いと憎らしく思ったからであろう。
でも、あの二人が私を見つけてくれたおかげで今の私がある。
「ありがとう。おふたりさん」
「――すまない」
「いいえ。私もあなたについて行くから良いの。明日にでも行きましょう」
「ナピナは」
私は弟を見返した。
弟は自分が一人置いて行かれると考えたのか、あるいはクラバータが出した慌てた声に驚いてケーキを喉に詰まらせてしまったのか、涙目だった。
「大丈夫?早くお茶を飲んで。それで、あなたはちゃんと言う事を聞ける?危ない時はじっとしていなさいとか、そういうの守れる?」
弟はぶんぶんと頭を上下に振った。
私は再びクラバータに視線を戻した。
「私のアセフェート号は無事ですわよね。危険な時はあれにみんなで閉じこもれば大丈夫ですわ。みんなで行きましょう!」
「いやいやいや。今の君は錬成で作った体。人間よりも壊れやすい体なんだよ」
私は心配性の夫に大きな笑みを返した。
何でもできる夫ならば出来るはずだと思いながら。
「着換え用に素焼きゴーレムもちょうだい」
クラバータは顔に両手を当てて、ああ、と情けない声を上げた。
もう!わかっていたはずでしょう。
結婚したならば、私達は手を繋ぎ合って助け合う相棒なのよ。
いいえ。
私達の結婚があなたが死ぬまでならば、私はあなたを絶対に死なせやしない。
力持ちのゴーレムになって、装甲車を世界の果てまで走らせるの。
あなたとの幸せな未来のために。
お読みいただきありがとうございました。
借金ゴーレム完結です!
この後はルピ大事なクラバータがアセフェート号に砲台もつけた形にしたうえでルピに渡しますので、ルピとナピナは小さな戦車を走らせまくることになります。
「ナピナ、前方に障害物」
「障害、今すぐ破壊します」
どっかーん。です。
クラバータさんは頭が痛いけど、幸せですので良いのです。
ここから長い設定話で申し訳ありません。読まずに飛ばしてかまいませんよ!!
↓
暗黒王と言う名のサボテン、エリオシケ・クラバータはとってもいかつい姿であるのに、開花季節になると頭にピンクの可憐なお花を咲かします。私がクラバータをこの物語のヒーローにした理由は、その間抜けなギャップを知ったからです。
クラバータは元はネオポルテリア属のサボテンです。
よって、彼はネオポルテリア名であった幼少期に貧しさと酒乱の父親との生活を体験しており、兵士として軍功を上げてエリオシケ伯爵の名前を手に入れたと設定しました。
サボテン情報として、ネオチレニア、ネオポルテリア、イスラヤ、などの属がエリオシケ属に統合されてます。
ですので、彼を毛嫌いする妻側は全部がエリオシケ属イスラエンシスになって凄い和名も消えたイスラヤに決定しましたので、彼を愛して彼の伴侶になる女性はネオチレニア属のサボテンでないといけません。
けれど、膨大な名前を探さずとも、ルピコラは直ぐに見つかりました。
怪女玉と言う和名。
なんだそれと確認すれば、面白い外見のサボテンの画像が見つかった上に、学名のルピコラをラテン語翻訳すれば、岩や壁に貼り付いて生きる、です。彼女しかおりません。
そこで彼女の家族ですが、ナピナは「豹頭」という和名がある子です。でも、ナピナはカブらしいです。そして彼らを捨てた父親は、オクルタ・ネオチレニアです。オクルタには隠れたという意味があるので、実はアンデット化されてリトープスの戦士にされているという設定もありました。
クラバータとルピコラ、そしてナピナのお馬鹿な冒険譚、いつか披露できればと思います。
お読み下さりました皆様、本当にありがとうございました。
ブックマーク、あるいは、評価を頂けると凄く凄く今後の励みになります。




