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エピローグその一、サボテンを植え替えるようにして

 私とクラバータは夫婦になった。

 ええと、まだ立会人の二コリーの前でキスをし合っただけだけど。


 ぱちぱちぱち。


 私の膝の上のナピナとベッド横の椅子に静かに収まっていたアルビフロリスが示し合わせた様に拍手をはじめ、ついで、アルビフロリスは私の膝の上のナピナを自分の方へと引き摺るようにして引き寄せてから抱き上げた。


 アルビフロリス様って、ほんわかしているようで意外と大雑把。


 しかし、引き摺られたナピナは楽しそうに大きく笑い声を上げていて、男の子ってこんな風な乱暴な扱いの方が好きなんだと初めて知った。

 いえ、そういう事にした。

 ナピナがアルビフロリスにこんなに慣れているなんてと、自分の存在感の無さを感じてしまったのだもの。


「さあ、ナピナ、私達はケーキを取りに行きますわよ!」


「はい!俺とアルビーのさいこうけっさくだものね!」


 二人は手を繋ぎ合って、恐らくこの館の台所へと駆けて行った。

 その後ろ姿は、私とナピナの過去ではよくある姿だった。


「弟は私がいなくても大丈夫だったのね」


「君が出来上がるまで時間がかかったからね。彼も強くなったんだよ」


「私が出来上がるまで?」


 私の夫は、私の頭を愛おしそうに撫でると、私についての真実を語った。

 私の今の体は彼が錬成したもので、私のこの肉体が出来上がるまでに三ヶ月は必要としたのだと告げたのである。


「凄いわあなた。私はあなたと一緒に年を重ねられるのね」


「あ、それは無いから。君の魂は取りあえずあのゴーレムに紐づけられちゃったもんだからねえ。でも、まあ、適当にオバサンな君やおばあちゃんな君をこの偏執狂に着替えとして作ってもらうのはどうかな?」


「着換え?」


「そう。その体が壊れたら大変でしょうって、いつでも脱ぎ棄てられる仕様にこの拘りばかりの男がしたからね。まあ、壊すほどな事を君にしてしまうかもしれない男のサガを考えちゃったんだろうねえ」


 二コリーの言葉にクラバーは牛みたいな唸り声をあげ、私はどういうことだと夫を見つめた。しかし、夫は真っ赤な顔になって唸り声を出すだけで、やはり余計な口出しをしてきたのは二コリーだった。


「ルピちゃん。君の心臓がある場所に、君自身が入ってる」


 私は咄嗟に右手を左胸に当てていた。すると、自分の頭の中にクラバータが私にしてくれた事が見えたのである。


 素焼きゴーレムの壊れた破片だったものが、心臓の代りに埋まっていた。

 私にはそれがゴーレムだった自分の破片だとわかるけれど、それがただの素焼きの破片だったなんて、きっとわかる人などいないであろう。


 それはハート形に錬成し直されていたのだ。

 ただのハートじゃない。

 今の私の耳を飾るイヤリングとお揃いだったネックレスの宝石全部を使い、豪勢にデコレーションされているという陶磁器のハートとなっていたのである。


「これが私の魂の棺なのね」


「君の美しい魂を私のエゴで私の人生に付き合わせて閉じ込めるんだ。せめて君が好きだと言ったものを君に捧げたかった」


 私は夫を抱き締めていた。

 そして彼の耳に囁いていた。

 あなたという存在が私をこの世に繋ぎとめる宝石だわ、と。


「君は、どうして、ああ、君は私を買いかぶり過ぎる」


「全くどうして!あなたこそ人の本質を見つめられる凄い人なのに!私が素焼きゴーレムであっても、私をいつも一人の人間として見ようとしてくれたわ」


「確かに。俺は見えないけどさ。アルビーとこいつは君の魂の姿ばかりが見えるみたいよ。俺は今の姿の君で君が美人だったんだなって初めて知ったけどね、こいつは最初から知っていたんなら狡いよね。で、自分好みの美少女が、自信を無くして引篭るばかりの自分を褒め称えるんだ。癒されるどころじゃないね」


「あら、クラバータは最初から私が見えていた、の?」


「すごい魔法使いは真実の姿が見えるものなんだってさ。魂って、すっぽんぽんの裸ん坊な姿が当たり前だっけ?」


 私は夫を突き飛ばすと、きゃあと言って自分を抱き締めていた。

 見てた?見えていたの?私の裸ん坊な姿。


「私はアルビーとは違う。常に見えていた訳じゃない。ルピの感情が高まったりした時にぼんやり見えただけだ。私が惚れたのはルピの心根の優しさだ」


「でも見えてたんだよね。おっぱいとかおしりとか」

「おまえは!」


 クラバータは真っ赤な顔で二コリーに言い返し、二コリーは親友を揶揄っていただけのようで、腹を抱えて笑い出した。

 ほんの数秒だけ。

 なぜならば、二コリーは丁度戻って来たアルビーに邪魔とばかりに蹴られ、腹を抱えた格好のまま床に転がったのだ。


 戸口から現れたアルビーとナピナはカートを押しており、そのカートの上にはそれは見事なウエディングケーキが乗っていた。クリームで作られた色とりどりの花で飾られているという、初めて見た夢みたいなケーキである。


 私はその素晴らしきケーキに引き寄せられるようにして、無意識のうちにベッドから降りて歩き出そうとしていたようだ。

 膝がぐにゃっとして大きく転びかけたことで、私は自分がしていた行動に気が付いたのである。


 だが私は転ばなかった。

 それは、私を支える夫がいたからだ。

 彼は私を壊れ物のように、けれども私がしたい事が出来るように、そんな感じで包むようにして支えてくれている。


「あなたは凄い魔法使いね」


「魔法使いとしては凄くないよ。だから、君の伴侶として最高を目指したい」



お読みいただきありがとうございます。

サボテンは二年に一回は鉢替えをしないといけないらしいです。


実はこの物語は「バディ物」を考えていた時の主人公たちが出会うまで、となります。

ゴーレムな奥さんと錬成得意の大魔法使いが時にはゾンビを倒し、時には前線で粉々になったゴーレムの魂を回収する。

そんな話を考えていましたが、二人が出会うまでの事を考えていたらそっちの方が書きたくなって、異世界恋愛として発表することにしました。ルピがゾンビを装甲車で轢きまくる回が一番PV多かったので、恋愛って独りよがりはいけないんだなあ、と今さらに実感しています。

あと一話更新して終わりです!

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