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君の事を探っているんだ

お読みいただきありがとうございます。

今日はあと一話夜に投稿します。

 私はベッドに転がっている。

 転がされている?

 どうして?


 私は礼拝堂で爆風と一緒に粉々になったはずだわ。

 ここはどこなの?


「騒がれてもうるせえが、悲鳴一つ上げねえカチコチなのも面白くねえな」


 はふっと私から恐怖の吐息が漏れた。

 どうして?

 私の魂は粉々の体に残っているはずじゃないの?

 どうして私はあの日に戻ってきたの?


 死んじゃった?

 ああもしかしてご褒美に私を解放なんかしてくれたの?

 でも、どうして、あの日なのよ。

 死んだ先の世界は花だらけの楽園のはずでしょう?


 どうして怖くて堪らない、私が死んだ日に戻ってきているの?


「君を知るために必要なんだ」


 私の大好きな声が脳裏で響いた。

 そうか、これは最後の審判。

 神様が私を天国に送るか地獄に送るかの確認なのね。


 では、私は地獄行き確定だわ。


 私はクラバータに嘘を吐いていた。

 死んだあの日の時点で、私はまだ死ぬほど働いてなどいなかったし、弟の為に自分で志願してゴーレムになってもいない。

 クラバータに尊敬される事など一つもしていないのだ。


「ほら、力を抜けよ」


 大嫌いなざらついた声は、猫なで声だったためにさらに気色悪く感じた。

 私はそれだけで全てを知った。

 ああ神様は嘘つきな私を断罪した、と。

 私を地獄に放り込んだのね、と。


 あの日と同じ、あの日と同じく私をベッドに放り込んだ男達は、あの日と同じようにして脅える私を覗き込んでニヤニヤと笑っている。

 あの日と同じように、怖すぎて動けなくなった私がつまらない、そんな風に下卑た冗談を言い合い笑いさざめいてもいる。

 あの日と同じく、今の私だって怖くて怖くて身を縮めるしか出来ないのに。


「お前ら下がれよ。俺がまず可愛がって解してやるからさ」

「一番乗りがしたいだけだろ?このすけべえが」


 男達は下卑た笑い声をあげ、彼らが揺らいだことで彼らの後ろに大きな窓があるのが私には見えた。

 ちらっと見えた窓は開いていた。

 開いているのだ。


「わあああああああ!」


 私は悲鳴を上げた。

 静かだった私が急に声を上げたからか、男達は一瞬固まった。

 私は飛び起きてベッドから飛び降りて、窓に向かって走った。

 明るい開いた窓の向こうに向かって。


 次に私に見えたのは、やっぱり私を見下ろす男達という風景だ。


「もったいねえな」

「これじゃあ、一銭にもならねえじゃねえか」


 一人が足を持ち上げて、ああ、私に向かってその足を向けた。

 でも、私は蹴られなかった。

 その男こそ急に現れた誰かの足に蹴られてしまったのだ。


 あの日、私は放置されたままだった。

 でも、でも?

 私は誰かに抱き上げられた。


「ルピ。これが君の中の恐怖だね。」


 クラバータ!

 私は私を抱き上げた彼に腕を回していた。

 死んでいく私が見る夢だからか、私の腕は私の腕だった。

 私は私自身の姿で、愛している人に抱きしめられて抱き返しているのだわ。

 神さまは私を天国に認めて下さった?


「君を助けられなくてすまなかった」


「あなたは謝ってばかり。あなた会えて私こそ幸せばかりなのに」


「それは私こそだよ。ルピ。そして、早く会えなかった事が悔しい。君を助けられなかった事が本当に辛い。今の私にできる事は、こうして君の恐怖を君の心から打ち払うだけだ」


 わあああああ。

 ぎゃあああああ。


 男達の悲鳴が起き、私は声がした方へ見返した。

 娼館が燃えている。

 私を蹴った男の足が切り落とされている。


 それからその風景は掻き消えた。

 その代わりに出現した風景は、私が良く知っている風景だった。

 赤土が舞う荒野。

 イスラヤ城をとりまく世界、愛すべきクラバータの風景だ。


「悪夢を消した代わりに君の望む幸せな風景を映したい。教えてくれ、君の望みを。これから君を作り上げるために、私は君を知らなければいけないんだ」


 クラバータは何を言っているんだろう?

 私を作る?

 ああ、そうだ。

 死んで行く者が見る夢だった。

 きっと神様が私に言っているのね。

 新しい命にしてあげるから望みを言えって。

 神様なら、どんな我儘も言っていいわよね。


「クラバータのいる所が幸せな風景だわ。愛しているの。彼が幸せに笑ってくれるなら、私は小さなサボテンの姿でもかまわない」


「君は、ああ、君は。私泣かせだよ。それでね、愛する君。私は君には君の姿でいて欲しいと望んでいるんだ。焦げ茶色の艶やかな髪に指を絡ませたい。その美しい紫の瞳で私を見つめて欲しい。そして、その白桃のような唇に私はキスがしたくて堪らない」


 私はクラバータの姿をした神様の言葉に、なんて人間臭いんだと、いえ、私の願望を通しちゃったから神聖が台無しになっていると笑った。


「すまない。私は口説き言葉は下手なんだ」


「違います。最高です。幸せ過ぎて笑ってしまうだけです。だって、愛している人に抱きしめられているんですよ、私は」


 ところが、私の夢の中なのに、私の夢の登場人物のはずのクラバータは笑顔になるどころか不機嫌そうに口元を歪めた。


「どうかなさって?」


「君にキスをしたいのにその許可が貰えない」


 私は吹き出していた。

 本物のクラバータが言いそうだって思ったから。

 でも、私こそ、クラバータにキスしたいと思った。

 今目の前の人が私の想像上の人でしか無くとも。


 私は彼の首にかけている両腕に力を込め、上半身をさらに持ち上げた。

 そしてそのまま、クラバータに口づけた。


 私の夢の中なのに、私のクラバータは私の考えの及ばない行動を見せた。

 情熱的にキスを返してきたのである。

 夢の中の私が意識を失ってしまうぐらいの!!

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