風通しを良くして害虫たちを撥ね飛ばす
お読みいただきありがとうございます。
残虐タグが大忙しの回です。
でも、大事な回です。
よろしくお願いいたします。
イスラヤ城は黒い害虫に貼りつかれた植物そのものに見えた。
城の外郭となる斜路には内郭に向かうアンデットの大軍がぞろぞろひしめき満杯となっており、彼らはどれも腐って赤黒く染まっている。
まるでサボテンに喰らいつく赤ダニかカイガラムシ?
また、隊列から外れて掘に落ちた者達は、他に落ちた者を梯子にしてよじ登ろう互いに絡みつき齧り合っている。掘りは真っ黒でドロドロの臭い水で溢れてるから、共食いを始めた狂った蟻のような姿だ。また、幕壁に蛙のように貼り付いている者達も何人もいる。
「これじゃあ死にたくなるわけよ。クラバータは誇り高い人だもの。こんな風に自分がなるぐらいならって、自殺を考えるわけだわ」
私は怒りをぶつけるようにして、操縦桿の真ん中にある膨らみを押した。
ばひひひーん。
不格好な大騒音が辺りに響き、アンデットだろうと驚き動きを止めた。
「邪魔をしたら撥ね飛ばすわよ!」
馬車の中から大声を上げると、私はアセフェート号を発進させた。
ごんどんぐしゃん、ごんごんべんべんどんどん。
「もう!避けるってしなさいよ!」
アンデットになると危険察知能力が消えるのか、彼らはアセフェート号から逃げるどころか迎え撃とうとする有様だ。けれどもアセフェート号は頑丈だ。彼らを撥ね飛ばし、黒い水、クラバータが言うには爆発してしまう油だそうだが、それで満たされた掘に次々と落ちて行った。
私はさらに前方を見つめた。
そしてもう一度アセフェート号に騒音をがなり立てさせた。
ばひひひーん。
これはクラバータに教えるためだ。
私が戻ってきた、と。
「一つの扉が閉じたら、また別の扉が開くのよ、あなた」
大昔からある格言を呟き、私はアセフェート号の動力を全開にした。
アセフェート号は飛ぶように走った。実際に轢いて撥ね飛ばした死体をジャンプ台にして飛び上ったりしながら、勢いよく頂上目指して駆け抜けた。
「目指すは、礼拝堂!」
ガラスを宝石みたいに加工した導火線、あれはクラバータの気持に違いない。
死んでいく奥様への手向けのもの。
イスラヤ城主の娘である彼女はイスラヤ城の礼拝堂で眠るにふさわしく、そして、代々の宝石に囲まれて天国に召されるように計らったのだろう。
そう考えると、本当は本物の宝石で飾る予定だったに違いない。
彼は計画を変えたのだ。
私の為に!
「愛しているわ!大本の計画こそ変更させてやる!」
私は叫んでいた。
叫んだ事で、私は自分のクラバータへの気持を知った。
そうしたら、目の前がパッと開けた。
愛している。
そう、愛しているんだわ!
私は自分を止められないと思った。
私は魂の力を使い果たしてしまおうとも、絶対にクラバータのもとに辿り着く。
「いっけえええええええ!」
アセフェート号は走る、走る。
アンデットたちを撥ね飛ばす鈍い音を立て、残虐行為を行った印としてぐんぐんと揺れながらも、アセフェート号は頂上目指して走った。
止まらせることなく、私こそ残虐な悪鬼となって目的地を目指した。
そんな私を止めたのは、やはり、クラバータその人だった。
アセフェート号は礼拝堂の扉を打ち破って中に飛び込んだが、礼拝堂ではクラバータが剣を持って戦っている最中だったのだ。
戦い合う彼らの後ろ、神様の像の前では、宝石付きのガーランドで拘束されている金髪の美女だった者が蠢いている。
「あれが奥様?腐っても綺麗な方ね。でも、悪趣味よ」
クラバータの敵は、恐らく奥様の相手だった男であろう。破れてボロボロになってはいたが、着ている制服には偉い兵士が付ける肩章が飾られているのだ。
その男はクラバータと同じぐらいの長身だったが、クラバータよりもとっても大柄に見えた。
男には横幅があり、持っている剣が太くて大きなものだからだろうか。
対してクラバータが持つ剣は、初めて見る形の剣だった。
普通の長剣の長さと太さであるが、真っ黒で湾曲していて、まるで死神が持つ鎌の刃みたいな形なのだ。
そしてクラバータ達が私の到着に気が付かなかったのは、彼らを囲む壁が出来ていたからであろう。
煌びやかな制服だったものを着た兵士の隊が幾重にもなって、激しい剣技をしているクラバータ達の闘技場の壁のようになって立っているのである。
外のアンデットと比べると、彼らの行動は統制が取れているように感じた。
「アンデットになっても意識はあるの?それとも、リトープスに完全に操られてしまうってことなの?」
キュイン。
刃と刃が打ち合った音のあと、クラバータと戦っていた男の剣が宙に舞った。
腕付きで。
次に首らしきものが飛んだ気がした。
そこで、クラバータの剣は人の首を刎ねるには最適な構造なんだなって、ぼんやりと思った。
戦場で彼が剣を振るう様を見た人が言うはずだ、暗黒王、と。
私がクラバータの一面を知って脅えていると、敵に勝利したばかりの当の彼は、首を刎ねられた死体が持っていたらしき物を死体の懐から奪った。
それは、火炎魔法が封じられた場合に使う、火種。
「やばい」
私はアセフェート号の騒音を礼拝堂中に響き渡らせると、アセフェート号を走らせて兵士の壁に突っ込んだ。
「ばか!どうして戻って来た!」
「あなたがいるからです!あなたを愛しているからです!」
私は叫びながらドアを開けて飛び下りた。
クラバータはカキンと音がするみたいにして体を硬直させた。
私はそんな彼を抱き締めて抱えあげると、そのまま自分が降りたばかりの馬車の中に彼を放り込んだ。
そしてドアを閉め、クラバータが開けられないように私が障害物となった。
「ルピ!」
火種は私の手の中だ。
私は火種を礼拝堂に放った。
クラバータの代りとして、彼の盾になるようにして。
大丈夫。
私はもう死んでいるから、この体が粉々になるだけ。




