表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

あの大嘘つき

お読みいただきありがとうございます。

クラバータの事情を語る回なので少し長いです。

申し訳ございません。

 私は魔法馬車、アセフェート号を猛スピードで走らせていた。

 イスラヤが何も無い荒野ばかりの土地で良かった。

 私は馬車の動力を最大にして、ただただ真っ直ぐに、あの大嘘つきの大男がいるイスラヤ城を目指せば良いだけなのだ。


「もう!あの嘘吐き!うそつき!大嘘つき!」


 両手で握るリング型の操縦桿から左手を外し、操縦桿がクラバータだと思いながら左手で思いっ切り叩いた。

 そのせいで馬車はぐきっと揺れて進路を外れかけた。

 でも構わない。

 私の怒りはそのまま馬車の動力になるのだ。


 クラバータの書状を持っていそいそと町の役場に出向いた私を待ち構えていたのは、王兵の一群とそれを率いる大将であった。

 つまり、二コリー=ホリゾンタロニウス・エキノ大将閣下さま。


 二コリーは再会した私に弟の無事と、そして、私がイスラヤ城に戻ることは無いからと真実を教えてくれた。でもそれで私がクラバータを止めるのを諦めるはずもない。そんな私に、二コリーはこう言った。


「魂の力を失えば、君はそこで終わる。天国にも行けず、土塊のまま地面に転がっているだけとなるんだよ?」


「クラバータがいなければ私には同じ事よ!」


「これはあいつが半年かけて計画していたことだよ。全うさせてやろうよ」


 全く、全部計画通りだったなんて。

 二コリーとクラバータは魔法通信で繋がっていて、いつでもクラバータの計画に連動できるようにしていたのである。


「イスラヤは今日終わる。クラバータが終わらせる。その功績により、イスラヤの地はエリオシケの名前を永遠に刻むことになるだろう」


「彼は死んでしまうのに!名前が残っても彼がいない世界なんて!」


 クラバータは当初の目的通り、イスラヤ城を大爆発させて敵を殲滅する。

 本当は彼一人で導線を城内に張る予定だったから、決行は三日後だった。

 でも、私のせいで昨日それを完成してしまったから、今日が決行日となったのは何て皮肉なんだろう。


 彼は私をイスラヤ城から一番近い町、ドウーラに差し向けた。

 弟の保護を願い出ろと、私が断れない理由をつけて。

 本気で一人で死ぬつもりの人の、その自殺日を私こそが早めてしまったのだ。


「ええ!あなたを知ればあなたのお友達が勝手に私の弟を保護していただろうって、考えなくともわかったはずだわ!!」


 それだけじゃない。

 クラバータが私に渡した書状は、私の借金の免除と私の解放を願い出るというものだったのである。


「ありがとう!大金持ちのあなた!私をあなたの遺産相続人にしてしてくれて、本当にありがとう!でも私は死んでいるの。死んでしまっているの!あなたにこそ生きて欲しいと願っている亡霊なのよ!」


 アセフェート号は私の感情に呼応するようにして、さらに速度を上げた。

 びゅんびゅんと馬車は土煙を上げて走っているはずなのに、だだっ広いだけの同じ様な風景の中では止まっているような錯覚をさせる。

 私は間に合わないんじゃないか、そんな焦燥感に私を追い詰める。


「お願い。間に合って。クラバータが敵に止めを刺す前に間に合って」


 あの大嘘つきで稀代の魔法使いの最期の仕掛けが発動する前に間に合って!


「どうして彼はそこまでして死のうとするの?」


 私は二コリーに尋ねていた。

 彼は単なる土塊の私を無視するどころか、冥途の土産に教えてやると言った。


「心残りがあると上手く解放できないからね、いいよ、教えよう。まず、イスラヤ城を目指すリトープス軍など存在しない」


「え?」


「俺達がどうしてゴーレムを作り出していると思うかな?死んだ人間から借金を返させるという、戦争で大赤字な国が考えた新たな財源の確保?違うよ。本来は志願兵の急募で借金返上はその褒賞だった。この国を守る壁を必要としていたんだ。だが、死なない兵士を作り出すならば、もっと他に方法もあるでしょう?どうして永遠に動く兵士が土塊で作ったお人形さんなんだろうと思わないかな」


 二コリーは言葉を切ると、皮肉そうに口角を持ち上げる笑みを見せた。

 その笑顔は、かなりの怒りを含んでいる気がした。


「リトープスは戦わずして勝つ方法を編み出したんだよ。元魔族の血を引く方々だ。アンデットの病を人間に注ぎ込むなんて朝飯前だ」


「まさか。」


「その通り。駆け落ちした奥様は毒を含んだ剣で殺された事によってアンデットになっていた。彼女は城に戻って来て、自分の小間使いを手始めに、城内どころか城下に至るまで病を感染させてしまった。あいつは全部を切り捨てたが、相手はアンデットだからね、骨まで燃やすまでは処理出来ない。また、彼だって無傷ですまなかったはずだと考えたら、彼が死にたがる答えは自ずと出るのではないかな」


「尊敬どころか君は私を見下げ果てるだろう。私が妻とこの城の本来の住人達にした事を知れば」


「彼はそれで城を破壊しようと?ご自分ごと?だって、彼はアンデットにまだなっていないじゃないの」


 二コリーは国民を魅了してきただろう笑みを私に見せた。

 人懐こく感じる、純粋に喜んでいるような素晴らしい笑顔だ。


「いい子だ。そうだよ。あいつは思い込みの強い馬鹿なだけだ。自分が妻の出奔を見逃したから妻が死んだと、この事態になったと後悔しっぱなしの馬鹿だ」


「それだけ愛してらっしゃったのね」


「だったらもっと救われる」


「本当のところは?」


「あいつの財産と腕を見込んだ前領主による政略結婚でしかない。まあ、あいつは尊敬する男に見込まれたと喜んでいたが、結婚相手はとても残念な出来だった。だからさ、クラバータは妻の浮気も遊びも全部見逃しちゃったんだろうな。そして起きた惨劇。後悔で彼はアンデット化した妻を殺し燃やせなかった。妻と死体となった召使いを塔に閉じ込めただけだ。そんな甘い考えをしてしまったために、彼女達は塔から逃げ出して、城内全部がアンデットの呪いで終了していました。おしまい」


「城に侵攻して来るのが、リトープス軍どころかアンデットの奥様達なのね」


「そう。クラバータの準備が終わるまで、彼らが他の人を襲わないように状態保存魔法をかけて時間が止まった状態で眠らせていた。あいつは半年間、あの城から動けない看守であり囚人だった。無事に終わりにさせてあげよう」


「それって、彼も自分が感染しているかもって思っているから、よね。」


「そうだな。」


 クラバータは奥様の部屋から状態保存魔法を解いたと言ったが、彼が奥様の部屋に一歩も入らなかったのは、ご自分こそ状態保存魔法が掛かった状態だったからだとしたら?部屋に入ったら彼にかかった魔法も消えてしまう?


 自分がアンデットになってしまう事を、彼がとっても脅えていたのならば?


「君は私を買いかぶり過ぎだよ」


「いいえ、あなたは怖くても逃げようとしない人よ」


「ルピコラ?」


「大将閣下様。色々教えて下さりありがとうございます。では私は城に戻ります。私には感染するような肉体などありませんもの。それに、クラバータは絶対に死なせたらいけない人だと思ってます」


「クラバータは感染者認定だ。彼はもう城から出る事など出来ない身の上になったんだよ。軍人らしく華々しく終わらせてあげようか」


「承服できかねます!」


 私は大声で叫んでいた。

 そうよ、彼を絶対に死なせやしない。

 私は身を翻すと、城に戻るためにアセフェート号に乗り込んだ。


 そして私を止めようと、雷帝は雷帝らしいことをした。


 私がアセフェート号に乗り込むや、アセフェート号に向かって二コリーは破壊の魔法を放ったのである。彼の金髪みたいな金色の電撃が馬車に当たり、馬車は大きく揺らいで傾いだ。威力からすれば、人一人分が死んでしまう程度の雷魔法だろう。彼は情け容赦なく、それを私に放ってみせたのだ。


 金属の安全な箱の中、という私に対し、逆らえば反逆罪になるぞ、と聞こえよがしにとりあえず叫んでから。


 私は急いで燃料計を見返した。

 やはり。

 私の魂だけでは燃料切れに近い程度にしか指し示さなかった燃料計が、ぐーんと満タン近くに跳ね上がっているじゃないか。


 私はそこでアセフェート号を発進させた。

 ありがとうと、太平丸様に尊敬と感謝を捧げながら。

 私に彼を救うチャンスを与えて下さりありがとうと。


「だから絶対に間に合うわよ!間に合わせて見せる!」



サボテンのイスラヤ属は有名な和名もあった属ですが、現在エリオシケ属に統合されてしまって名前が変わってしまいました。砂王女とかあったのに。そして伝説なサボテン、怪人鉄塔もイスラヤ属だったそうで、物凄く残念だな、という気持ちです。

サボテン和名辞典とかあるといいのにな、と思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 物語も面白いです、 文章の言葉づかいも素敵です、 サボテン愛が楽しそうです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ