肉汁は「にくじる」ではいけないか
弓良 十矢さんのエッセイを拝読して。エッセイの主題と外れていることは承知なのですが、墨汁・果汁・胆汁は「じゅう」と読むのに、なぜ肉汁を「にくじる」と読む人がいるのか、という話が有りました。
当初は「にくじゅう」と読むと湯桶読みになるのではないか、と考えてコメントさせていただいたのですが、実は「にく」は音読みだと調べたらわかりまして、この主張は誤りであったと。
でも、野菜汁は「やさいじる」ですよね。野菜は音読みなのに。果汁は「かじゅう」ですが果物汁は「くだものじる」となる。
これを考え続けて、とりあえず至った結論は。
『汁のまえに の を補って分割した場合、その前の部分が独立して(その読み方で)意味を持つ場合は、xxのしる、という意味で「しる」になる。のを補う事が出来ない場合、一つの熟語となっているので、特に前半が音読みの場合は「じゅう」となる』
というものでした。
墨汁の「墨」は「すみ」ではなく「ぼく」なので単独でその読み方で使用することはできないから、ぼくじゅう。猫汁はねこが単独で言葉として独立しうるので、「ねこぢる」。
そこで見てみると、まあ肉汁は熟語として辞書に載っていますので、「にくじゅう」と読むのは正しい。ただ、「の」を補って区切った場合でも、肉はその読み方で単語として成り立つので、肉の汁という意味で「にくじる」と読むのも誤りとは言えないのではないかと。
おまけで、豚汁は前を「ぶた」と読むのであれば、「ぶたじる」と読むのが適当。では「とん」と読んだら? 「とんじる」っていうのはあまりルールに合っていない気がします。「とんじゅう」はやはり無理。してみると、「とんじる」という言葉自体を使うべきではない、という立場もありえるかも。
というわけで、「にくじる」もアリなんじゃないの? という主張でした。
ちなみに、昔何かのマンガで読んだ「かじる」の誤読が可愛かったので、あえて「かじる」を使う事もある派です。
そもそもがとこ、肉って特別な漢字なんですよね。肉にも訓読みが有って、「しし」がそうらしいのですが(もともとの弓良 十矢さんのエッセイに書いたコメントにも、その部分しっかりご指摘にあっています)、今肉のことを「しし」、という人はまずいないですよね。和語が廃れて、音読みの方が普通になってしまった。このため、音読みの熟語の前半が、単体で機能するようになってしまった。これは、肉食文化が一時廃れた影響もあったんでしょうか。
検索したときに見つけた、音読みが普通に使われてしまっている漢字に、他に「絵」がありました。こちらは訓読みが無いので、和語自体が存在していなかったのかもしれません。