オーク(?)遭遇
「ここは・・・一体どこなんだろ?」
頬を優しく擽る風と、体を温かく照らす太陽を横目に、目が覚めたゼータがこぼしたのは、情報を把握できていない一言だった。
ゼータが住んでいた22世紀の日本では、完全機械化社会だった。
自然は限りなく少なく、触れ合う機会すらない。
昔は等しく注がれていたと言われる太陽の光ですら、新しいエネルギー源として利用されており、そこに地上を照らす影はもはやない。
既に宇宙に手を伸ばしている人類にとって、太陽というのは只のエネルギーの枯渇した星という認識しか持っていないのだ。
そんな太陽の代わりに照らすのは、疑似太陽と呼ばれる大きな光の玉だ。
21世紀終盤で発見された『永久動力炉』によって動いているその光の玉は、応答型AI、通称『ソフィー』が制御している。
疑似の名の通り自然の欠片もなく、神ならざる人の手によって作られた光が身体を照らす。
ゼータが今寝転がっている芝生に関しては、今までアスファルトしか見たことがない者がほとんどの為、かなり珍しい。
だからこそゼータは困惑し、現状を掴めないでいる。
「というか僕って、自爆装置を起動させて死んだ筈じゃ・・・いやでも、僕が盗んだあのルビーが急に光りだして、結局死ななかった・・・よね」
少しずつ思い出してきた記憶を整理し、何故自分が生きているのか、と悩んでいた頭を上げるゼータ。
───問題はあのルビーだ。そうに違いない。
そう結論付けると、寝転がっていた地面から身体を起こし、ルビーを探す。
おそらくあのルビーに備わっていたのは、自分の望む場所に空間移動出来るという機能なのだろう。
22世紀でも確かに珍しい機能だが、珍しいだけだ。
高いお金を積めば一般人でも利用が出来る。
が、そんはことよりもゼータは、早くこんな訳のわからない場所から『空間移動』してくて仕方がなかった。
盗んだルビーに命を救われたのは有り難いが、助かったのなら仲間の元に帰らなければならない。
そう思い、自分が空間移動してきた場所をくまなく探す。
「・・・あれ、おかしいな。一緒に空間移動して来てる筈なんだけど・・・も、もしかして一方通行だったりする?」
ゼータが考えた最悪の可能性。それは、空間移動させた元凶であるルビーが破損、もしくは使い捨て型であるということだ。
───つまり、簡単に言えばゼータは戻ることが出来ない、ということになる。
「嘘でしょ・・・?こ、こんなのあり?」
ゼータの脳裏を絶望が埋め尽くす。
元の場所に戻ることが出来ないうえに、マイクもどこかに行ってしまい、仲間と連絡も取れない。
というかそもそも、ここが地球である可能性も低いのだ。
ゼータの知識と経験から見ても、これほど自然に溢れた場所はほとんど存在しない───いや、全くないと言っても過言ではないだろう。
見れば機械のきの字すらない自然が広がっているため、人類によって開拓されている星の可能性も低い。
つまり、完全未開拓な星で、仲間が助けに来るかも分からないまま生きていかなければいけないのだ。
身体の方は問題はない。───によって、生物の限界以上を引き出せる身体に改造されているため、並みの生物を相手にしても勝てる自信はある。
問題は食料面だ。
こんなザ・自然を体現したような場所で過ごしたことはゼータもないため、何を食べ、何を飲んでいいのか分からないのである。
22世紀では、増えすぎた人類の人口を支えきれる程に、食料は満ち溢れていた。
確かにどれもこれも人口の肉であり、お世辞でも美味しいと言えるような味ではなかったが、それでもお腹は膨れる。
が、ここは異星。
そんな常識は通じる筈もない。
「はぁ、本当にどうやって生きて行こう・・・?」
ゼータは再び悩み、頭を抱えて蹲るのだった。
────☆
数時間が経過し、太陽が沈み始めた頃。
一先ず腰を休めるために、怪盗装衣の異次元ポケット(無限にも等しい空間が広がる次元の貯蔵庫)に手を突っ込み、簡易型テントを建てていたゼータ。
勿論、いつ誰から攻撃されても反撃出来るように非殺対応のレーザー銃を携帯し、取り敢えずの荷物をテントに詰め込む。
ファントムマスクによると、このテントを中心とした場合、半径一キロメートル以内に生物が80から90体前後存在しているらしく、ゼータはその生物を狩るつもりである。
勿論、怪盗を冠するゼータは、何の策略もなく狩るつもりはない。
「行っておいで、オルニス」
ゼータは肩に乗っている鴉にそう告げると、了解とばかりに飛び立つ鴉。
この鴉───鴉型偵察機械、通称『オルニス』は、光化学迷彩により、目に内蔵された超小型カメラによる偵察が可能だ。最高時速は優に800キロを超え、目標の追尾も出来る優れものである。
しかし逆に言えば完全偵察用であり、攻撃することはできない。
そんなオルニスを空中に放ったゼータは、正に一方的に獲物の場所を知り、攻撃できるのだ。
因みにオルニスの映像は、ファントムマスクを被っているゼータの目とリンクしており、ゼータの意思で、自由自在に操ることが出来る。
「ふーむ、あれはもしかして・・・猪っていうやつ?」
小型カメラ越しにご飯になりそうな生物を発見したゼータ。
その生物はヒト型でありながら、ゼータが小さい頃に絶滅した種という図鑑で見た、豚・・・猪?の顔にそっくりだった。
なるほど、大昔の日本にはあんな大きな生き物が跋扈していたのか、しかもヒト型・・・と、大昔の人間が猪を養殖した結果、食材として食べていたという教科書の内容を思い出し、ぶるりと震えるゼータ。
しかし背に腹は変えられず、猪のいる方へと駆ける。
・・・そして数分後、ゼータの居た位置から600メートル程離れた位置に、のそのそと遅い動作で歩く猪頭がいた。
「僕の技・・・通じるかなぁ?」
今まで人としか戦った事がない───それも命を奪ってはいない───ため、狼という獣相手に、怪盗としての自分の技が通じるだろうか?という懸念を抱えつつも、ホルダーに収まっているレーザー銃に手を伸ばす。
『ブモォォォ・・・』
鼻息荒く、大地を踏み締め歩くオーク。その顔面にレーザー銃を放った───そして、命中。
『ブゴォォォォ!?』
レーザー銃から放たれる光線の速度は、光と同等だ。故に、鈍く歩くオークに避けられる筋合いはない。
ゼータの持つレーザー銃は、警察特製のレーザー銃とは違い、性能の良さは多岐に渡る。
例えば対象を凍らせたり、燃やしたり、痺れさせたり、眠らせたり・・・そのうち今回は、痛みを与えるモノを発動させている。
金玉を思いきりぶつけるより痛いとか、出産よりキツイとかなんとか・・・少なくとも目の前にいるオークはこの痛みを受けているのだ。
御愁傷様と言ったところだろう。
『ブモオォ・・・ブモォ』
「フンッ!」
そしてそんな痛みに悶え、まるで危機感のないオークへとゼータは蹴りを放つ。
────によって改造されたその身体から放たれるその蹴りの威力はまさに、壮絶と言ったところだろうか。
豪ッ!という凄まじい音をたてながら、オークの顔、胸、脇腹、股間、足・・・と順々に当てられ、オークの骨が悲鳴をあげるのだ。
身体中の骨を折られ、もはや動く気力すら沸かなくなったオークは、その場に崩れ落ちる。
「・・・ごめん、それとありがとう」
『ブフッ・・・フゴォァ・・・』
己が生きるために殺してごめん、という謝罪と、生きさせてくれてありがとうという感謝を告げるゼータ。
───ゼータは喰らう。
傷だらけで動けなくなったオークに近づく。
───ゼータは嗤う。
そしてその首もとに手刀を当てると
───ゼータは───。
滝のように出た血飛沫がゼータに降りかかる。
ゼータは失敗作である。
───によって作られた改造者の、一番最後の被検体。
異質な改造者達の中でも、更に異質。
何が異質?何処が異質?至って正常ではないだろうか?
───否、断じて否。
ゼータが異質だと言われている所以は、その体質。
ゼータは食べれば食べる程に、食べたモノの特性を自分のモノに出来るのだ。
こうしてオークの肉体を貪っている今も、ゼータはオークの筋肉、瞬発力、嗅覚等を吸収していく・・・。
それこそがゼータの本領なのだ。
奪い喰らうことこそが、ゼータの本領なのだ。
だからゼータは誰からも自由を奪われない。
なぜならゼータは───怪盗だから。
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