1-①
物語には、美しいふたりが欠かせない。
もっとも僕の持論だから、ご意見ご感想は多々あるだろう。
とはいえ別段、皆々様と熱く答弁したいわけではございません。ここはひとつ個人の意見だからと大目に見て欲しい。
でも、その条件は必須だと確信している。
もちろん、奇をてらった内容ならば必ずしもとはいえない条件だろう。
だが、いかに醜悪な風体やら、見るに堪えない醜女など、設定上は美から離れた役割だとしても、僕という読み手からすれば、文章や行間から想像するキャラクター達、その全ては、それはそれは美しくキラキラと輝いてしまう。
僕という一個人が、小さな世界で経験してきた狭い経験則なので申し訳ないけれど、童話、ラノベ、そして文学作品。今まで好きになった物語には、大抵そのどちらかが存在していたのだから、こう考えるのも仕方がない。
カッコイイ主人公が、美しいヒロインと出会う。そんなボーイ・ミーツ・ガールばかりではないけれど、――これは見てくれの醜美に限ったことではなくて、有り様とでも言うのだろうか。最後は絶対に『あぁこの両人は美しいな、素晴らしい』そう思うんだ。だから、
――僕は物語の主役にはなれない。
それは、悲しいことだけどね。
小学生の頃までは、自分こそが『僕』という物語の主人公。そう思って生きてきたけれど、人間いやがおうでも気がつかされる時が来る。
それは、勉学であったり。
ときには、部活動での活躍であったり。
そして、気になるあの子が自分ではない別の男と笑顔で歩いていたり。
皆、いろいろと心当たりのあることばかりだろうけど、僕の場合は、半ば、なし崩し的に『あぁそうなんだな』と納得せざるを得なかった。
なにをその年齢で悟ったような事を、と笑うヒトもいるだろう。
だけど、人生100年と言われている昨今で、生まれ落ちて16年。そんなガキんちょでも、きっかけさえあれば、もしやそうなのかもと、そういった程度には気がつくものだ。
――なんせ、僕は日陰者。
中学生になれば、少しは社交的になるでしょう。
両親揃ってそう期待していたみたいだけど、ゴメンね。生まれ持った性質はそう簡単には変わらない。
結局は、高校二年生となった今も、口数は少ないし、卑屈。休み時間は外界から逃げ出さんばかりに読書漬け。
友達は、いないと言った方が正しいだろう。
ウザったらしく絡んでくるヤツなら数人いるけれど、アイツらを友人にカテゴライズするのは流石に許せない。
当然、こんな性格も相まって、――彼女なんて夢のまた夢。
こんな僕でも健全な男子高校生なわけだし、欲しくないと言えば大嘘で、そりゃあ出来るもんならすぐにでも欲しいさ。
これでせめて顔の造形が良ければね。と考えなかったわけではない。
ダウナー系のイケメン主人公なんて、アッパー系の熱血漢と双璧をなすラノベの王道だし、そもそもイケメンというただそれだけで、周りの受け取り方も違うってもの。
それこそ僕の抱える色々な問題が一気に解決するのだろうけど、残念ながら、見てくれはお察しの通り。
悲しいかな、お世辞にも褒められた顔ではない。
それでも中の下くらいだと自分では考えているのだけど、周りの、特に女子達の反応から察するに、いいとこ下の中くらいなのだろう。
勉学も運動も、精一杯背伸びしてようやく平均値と言ったところだし、そうなればいよいよ胸を張って自慢することはコレといって特にないのだ。
ようするに、無味無臭の無色透明で居ても居なくても変わらない、そんな程度のその他大勢。さらに言ってしまえば、誰かの物語の『モブ』
それが僕に与えられた役割なのだと、いつしかそう考えるようになっていた。
だからかもしれない。――僕が、物語を好むのは。
そして、読了後にキラキラとした空想を頭の中で組み立てることが楽しいのだろう。
夢も希望もない自分という存在を忘れ、理想とする世界がそこには広がっているのだから。
そうだ。そうに違いない。だからこそ、
「おとなり、いいですか? 」
――僕は、こういう女子が苦手だ。