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98 コルストン推挙

「将軍、実はイスカンダル・クーク湖に『エリ』と呼ぶ、魚を捕る仕掛けを設置しています。『エリ』があると魚を傷つけること無く生け捕りに出来ます。すでに地元の漁師の顔役と交渉を終えていて『エリ』の管理も委託しました。これからは生きている魚が市場に出回り付加価値が上がってクーク湖の漁師の収入は倍増するでしょう。アミール湖にも『エリ』を設置して地元の漁師に委託しようと考えていたのですが、問題ないですよね?」


「なに?簡単に魚を生け捕りに?」


「はい、普通の反射神経の人であれば手づかみ出来ます。タライで水に漬けて生きたまま輸送して食べる直前捌きますと味が全く別物と言えるほど旨くなります。」


「…そんなことが。いや、領内が潤うのに否やが有ろう筈がない。ぜひとも『エリ』とやらを設置して戴きたい。管理ということは再利用できるものであろうか。」


「再利用も何も、一旦設置すれば半永久的に魚が捕れますよ。」


「そんな事が出来るのか。過去幾多の転移者が居たが、誰もそのような事はしなかった。」


「大方の転移者は固定観念で忘れているんですよ。転移者=冒険者と云う固定観念。」


「…それは国の方もだな。転移者=冒険者として利用すると暗黙のうちに思い込んでおる。」


…魔物=討伐対象 という固定観念を覆すのは大変だよな…


「『エリ』の他にもコカトリスを捕る仕掛けも有るので、こちらも設置して地元の猟師に委託しておきますね。」


「伊織さん、コカトリスって、あのギルドに持ち込んでいた核は…」


「うん、この仕掛けで獲ったコカトリスを俺たちが食べた残り物ね。」


「…討伐したのでは無かったんだ…スライムも罠で?」


「スライムはちゃんと討伐した結果ですよ。」


「伊織殿。するとやはりコカトリスや魚も全部獲らないように配慮して仕掛けるのかな。」


「『エリ』は多少多く設置しても取り過ぎにはなりません。捕れる魚が減ってしまうので。コカトリス用の仕掛け『かすみあみ』は設置数を調節しないと取りすぎになりますね。」


「なるほど…とにかくアミール湖はよしなに頼む。おお、そうなると以後は美味い魚やコカトリスが普通に食べられるようになるのだな、我らも。」


「…なるほどなあ、伊織さんが6人も嫁を持てる訳だ。大商人と同じですね、やってる事は。」


「商人…ああ、そうそう、そう云えば奴隷商のコルストンとも事業提携の話がついて、商品委託始めてます。みなさんの手元にも何れ行き着くかもしれません。」


「あのコルストンの上前を刎ねる!! …いや、失礼。コルストンと事業提携とは…?」


「最近 『神権・聖ハスモーン唯一神帝国』 が王国に触手を伸ばしだしているのはご存知ですよね。」


「うむ。伊織殿。それはわれら王国貴族も看過出来ぬ状況まで来ておる。とくに オリーミ公爵 はいかぬ。軍費を得るために領内布教を許すなど本末転倒も甚だしい。国軍総司令マッケンなど、査問にかけて公爵位を剥奪すべきだと息巻いておる。」


「そもそもが、魔物側から攻めてくる事も無いのでしょう。戦争する必要が無いですよね。」


「…う…ん。まあ、そうは云うが貴族の手柄でハッキリ目に見える形で出しやすいのが魔物討伐なのでな。本来は内政の実を上げるべきなのだろうが…大方の貴族に内治の才など無いのだ。わしもドーストン侯爵も含めてな。」


「内政は内政が得意な専門家に委託して、成果のわけまえを取ればよいのでは。」


「…ううむ…委託となぁ…なにやら他人頼みで情けない話だが。」


「軍でも将軍が最前線に立つ事は珍しいでしょう。最前線は武勇の武将。将軍は戦局全体を見て後方に控える。得手不得手で役割を分けるではありませんか。」


「…確かに、言われてみればその通りである。だが、内治の専門家など聞いた事がない。」


ははあ、この世界、文官は奥向や儀式関係だけで『宰相』に相当する役職が無いのか。まあ、そのおかげで課税もユルユルで生産性が低い割に庶民の生活もなんとかなっている…と。


「それならアドバイザーを招いて知恵を借りて見ては?例えば、コルストンとか。」


「コルストンを招け?とな。」


「ええ。コルストンは只者じゃないですよ。世の中の仕組みを遠くまで見通しています。」


「コルストンが只者ではないのは言われるまでもない。今の奴隷制度の骨組みは彼の者の発案なのだからな。ちなみに彼も元転移者だ。」


なぬ?コルストンは転移者だと。道理で旨く出来すぎている訳だ。奴隷という概念がない世界に金貸と奴隷を持ち込んでその事業を独占支配する。奴隷と言っても実態は人材派遣業と結婚相談所を兼ねているような事業だ。この世界では進歩的すぎる。皆がコルストンにいちもく置いているのはそう云う事だったのか。


「不定期に招いてアドバイス貰う程度なら、不名誉というわけでも無いのでは?」


「将軍、ヴァーミトラも良い案ではと思います。現にすでに伊織さんに不定期に来てもらって内政の実も上がってますし、伊織さんだけでなく、コルストンとも昵懇にして損はないですよ。それにコルストンと伊織さんは結構仲が良いと噂ですし、悪い結果にはならないでしょう。」


「うむ。ヴァーミトラの云う通りやもしれぬ。かりに失敗したところでドーストン侯爵の家臣の一人が勝手にやった事。アーミルが腹を切れば良いだけだ。アーミルのところで成果が上がればドーストン侯爵に上奏すればよいか…」


お、予想以上に上手く行きそうだな。コルストンに権限を持たせてもっと動きやすくさせれば、唯一神帝国切り崩しだけでなく、エフタール王国を非戦派で固めたり聖ハスモーン教からの防衛も効率的にするだろう。


「他にはジャラランバードの商人のサールトも良い人材ですね。」


「サールトなら知っている。実直な商人だが、それほどの才が?」


「彼は相手に合わせて力を小出しにするタイプです。それなりの地位と権限をあたえればそれに見合った成果を出す、そういう人ですよ。」


「い、伊織さん…」


ん?あっ…やば。遠回しにアーミル将軍の能力ではサールトの全貌が見えてないと言ってしまった。


「ん。いや構わん。その通り、わしの才ではサールトのほんの一部の能力しか見えてなかろう。事実、わしは実直なだけが取り柄の能無しだからな。だがその儂でもスタッフを揃えれば良いわけだ。コルストンやサールトを表に立てて、伊織殿自身が前に出ないようにして居られるのも何か理由があるのだろう。外国の姫君が嫁に来る程だからな。では、コルストンとサールトには何れわし自ら赴きお願いするとしよう。…たしか、以前他の転移者から聞いたんだが…そうそう、『三顧の礼』とか云うのだろう、伊織殿。」


なっ!! やはりオタクが結構来ているな。

…嫌なフラグが立ちかけている。

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