97 アーミル将軍邸、再び
ヴァーミトラ達、ファルコンノートの面々は戦場からの帰還直後で気が緩んでいるのか、予想通り『三間』『四間』『古付』といった、心理的負担の軽い目に集中しており、それを読み切ったダナイデにあっさり『小戻』で躱される。
尤も、それを予想したミドリと俺には当てられたが、トータル収支はダナイデにかなりのプラスだ。
その後も狙ったようにファルコンノートの面々を躱し続けて、ついにヴァーミトラが音を上げる。
「いやあ、ダナイデさん強すぎでしょ。全く当たらない。確率上、異常ですよ…」
「面白いでしょ、ヴァーミトラさん。手本引。単純なカード当てゲームが『目木』造って公開するだけで、心理戦になる。」
「確かにねー。それと、その、時々出てくる専門用語が風情があっていいね。なんか歴史を感じさせるよね。」
「そうそう。独特の雰囲気が有るでしょ。コレ、株札一組ヴァーミトラさんに進呈するから、また暇な時に遊んでよ。」
「え?いいのかな。結構な手間要りでしょ、コレ造るの。」
「いいのいいの。ギルドに行けば見かけると思うけど、似たようなカードで花の絵柄の『花札』を昨日、幾つかギルドで置いてきたから、あっちも良ければ遊んでみて。」
「ふーん、じゃあ、有り難く貰っておくよ。あー、そうそう、伊織さん午後から時間有るかな。アーミル将軍に夕食招かれてるんだけど一緒に来ない?アミール湖のスライム上手く間引いてくれているでしょ。漁が再開できて、お礼が言いたいから誘ってくれと、前から言われていたんだよ。」
そういえば、もう、湖の手前半分以上は湖面が露出していたな。漁も再開していたのか。丁度いい、国軍のことも聞いてみるとしよう。
「べつにわざわざお礼とか不要だけど、提案一つ思いついたし、邪魔にならなければお願いしようかな。」
ヴァーミトラが伝令をアーミル将軍に飛ばす。
ヴァーミトラ達は一旦着替えて戻ってくる。
荷車に俺とヴァーミトラ、ダナイデが乗り、他は徒歩でアーミル将軍邸へ出発する。
道々戦況を聞くと、大方の予想通りで何らなすこと無くただ無駄に兵糧消耗して終わったようだ。
ただ、セイコ・サオリが途中から全く前線に出なくなり兵士の前に立つことも無くなったらしい。
…グリフォンのマンディーさんに渡した 勾玉 見た件だな…
「それで…と云う訳ではないんだけど、伊織、ムロータ将軍が参謀を広く募るという噂が流れているよ。前回も持てる力を発揮できなかったし、今回も本拠を奇襲される失態だ。もはや面子にかまっている余裕は無く成っているみたいだね。」
え?おいおい、ムロータ将軍、変に優秀な行動するの辞めてくれよ。在野の軍事オタクがその気になったら面倒なんだが…
「でもヴァーミトラ。オリーミ公はもう軍を起こす余力尽きているでしょ。」
「伊織にも判るか。そうだよ、だから皆鼻で笑って相手にしていないね。それどころかオリーミ公は査問に掛けられる噂も出ている。」
「? 敗戦で査問って ??」
「表向きは敗戦の責ではなく、領内統治の不全だね。とくに 聖ハスモーン唯一神教 の布教と教会の設置が槍玉に挙がっている。勝手に部下の一部を使われた国軍総司令が切れているらしいよ。」
「国軍総司令…」
「伊織はしらないだろうけど、現国軍総司令マッケンは3代前の国王の時から仕えている古強者でね。寝技は一切受け付けない堅物だ。王国軍が少数ながら精強を保っているのはマッケンのお陰だよ。それだけに、怒髪天を突く状態だって。」
「面白そうな爺さんだな。一度会ってみたいものだ。」
「辞めといたほうがいいとおもうけど。第一、戦場以外では王宮ぐらいでしか会えないし。」
3代前から仕えているなら王国軍の矛先は不平貴族に向けられるもので、魔物ではないと理解しているはずだ。近衛の王国軍が外征に出てくる可能性はほぼ無いか。
「ところで伊織。ダナイデさんって、我々下々の者とは全く違うよね。何と云うか、その、仕草一つ一つが優雅というか、生まれながらのお姫様なのかな?」
「ヴァーミトラ。ダナイデは遠い外国のお姫様だよ。縁あってお近づきに成り…その…な…嫁になった…」
「はあぁぁ~!! 嫁って、前の2人も居るでしょうに!!」
「…前の2人も嫁だ。…3人とも皆嫁だ。ちなみに、ココには居ないが現地嫁が更に3人別に居る…」
「…」
「旦那さまなら、当然ですわ。ヴァーミトラ様。私も他の側室も、皆、自ら希望してお側に仕えておりますわ。」
急に口数が減ってしまったヴァーミトラだが、ちょうどアーミル将軍の私邸が見えてきて救われる。
伝令の先触れが有ったのでアーミル将軍が直々に門前まで出迎えてくれている。
「ご苦労だったな、ヴァーミトラ。伊織殿もよく来てくれた。今日も無礼講なので、遠慮なく寛いで貰いたい。」
挨拶もそこそこに広間に案内される。やはり質実剛健な佇まいだ。
今日の主賓はヴァーミトラだが、向い合せの席に我々も案内される。
「将軍は初めてですね。此方は伊織さんの…その…側室になられた『ダナイデ』さんです。」
「これはこれは。お初にお目にかかる、私はドーストン侯爵直属、近衛騎士団長アーミル。伊織殿にはお世話に成っております。」
「ご丁寧に有難うございます、『ダナイデ』です。伊織様の第4后に御座います。」
「将軍、『ダナイデ』さんは遠国のお姫様との事です。」
「うむ、さもあろう。滲み出る気品は隠しようもない。かような后を娶られるとは、伊織殿は果報者よな。」
「はい、それはもう。正室のミドリを始め、6人とも掛け替えのない嫁ですよ。」
「…6人とは…うむ、いろいろな意味で羨ましい事よな。」
料理も運ばれアチコチで話が弾みだす。今回も皆の耳目を集めるのはテイルとテュロスの獣人コンビだ。
「…えー、じゃあテュロスちゃん何もせずノンビリ歩いてタダ飯食べて帰ってきただけなの~~?」
「そうなのよー、テイル。ホント馬鹿みたいでしょ。しかも、その軍で出るご飯がしょぼいの。一日2回で中身も全然。だから夜な夜な駐屯地抜け出して狩りしていたの。」
一日2食とは、ケチったな。戦闘状態の期間が乏しかったとは云え、前線なら通常より多くて当たり前だ。膠着状態の長期戦になりそうだったので、仕方なかったのか。だが、これでオリーミ公の再戦は不可能だな。ろくに食えないとなれば、徴兵しても皆脱走するだけだ。
「そうそう、伊織殿。アミール湖のスライムは助かった。早速漁も再開している。こんなに上手くやってくれるとは、正直予想外だった。」
「ああ、その件ですが、アーミル将軍。一つ提案があるのですが。」
まずは、飴からだな…




