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96 手本引

「お早うございます、旦那イオリさま。」

「あ、おはよう、ダナイデ…」


あれ、昨日は奴隷商出て、林で新しいナーガ罠の材料採って帰って…

ミドリに抱き付いて寝ていたはずなんだが…


旦那イオリさま、お疲れ気味だったのでお休みのうちにクリーニングしておきましたわ。」


やたら体が軽い感じなのは、ダナイデが透析を済ませてくれたからか。

…意識があるときにしてほしかった…


「今日あたり、撤退してくる先陣が戻って来る頃だ。ヴァーミトラにそれとなく探ってみるか。ヴァーミトラが以前言っていた下屋敷のレストラン、ラ・メゾンに行って、ゲームしながらヴァーミトラを待つとしよう。」


「花札を持って行きますか、ご主人様、それともサイコロ。」


「今日は株札を持って行こう。株札と、手ぬぐいを2枚持って行く。」


「手ぬぐいですか?」


「手本引に必要なんだ。」


「手本引?」


「手本引は株札を使うゲームで、花札以上に博打性が高いゲームだ。ルールは案外単純なのだが、心理戦要素が強くて勝負事が好きな人ははまる事請け合いだ。」


レストランなので、全員小奇麗に着飾ってラ・メゾンに向かう。

見た目はお上品なお嬢様連中に手本引をさせようというのだから、なかなかに鬼畜だな、俺も。

上手く広まって手本引が貴族連中のたしなみとかになれば傑作だが。



「ここがラ・メゾンか。なかなかの店構えだな。」


「ご主人様、ダナイデ様以外は、ちょっと場違いで浮きそうです。」


「ま、そこらはかぶきの伊織御一行様だ。少々ぶっ飛んでいるぐらいでは誰ももう驚かないから。」


店内は大方がパーテーションで区切られた半個室になっている。

貴族同士が不用意に顔を突き合わせないように配慮されている。


「以前、ヴァーミトラにこの店を紹介してもらっていた、木村伊織と申す者です。半日ほどユックリしていきたいので、軽食と飲み物を見繕いでお願いします。」


「…木村伊織様…ヴァーミトラさんが……あー、お聞きしてます。随分前なので思い出すのに時間がかかってしまい失礼いたしました。では、こちらの窓際の席は如何でしょう。あいにくヴァーミトラさん達は動員があって、ココしばらく留守にするとお聞きしていますが。」


「ええ、動員の途中で出くわしたので、知っています。もし帰ってきて顔出しされたら声を掛けてください。」


…今日帰って来るのを知っていたようなタイミングでココに来たのは不味かったかな?でも向こうの予想ではもっと早く来ると思っていたようだし、問題は無いか…。


「主さま~、なんか贅沢してる~って感じだねーー」


「ああ、落ち着いたいい店だな。貴族趣味に染まってないのも良い。」


「『虹の架け橋』の3人が頑張って成果だしたら、ご褒美につれてきてもいいのでは、ご主人様。」


「なるほど。嫌いでも成果はちゃんと評価すると。ミドリは合理的だな。」


ミドリがちょっと嬉しそうだ。合理的と云われるのはミドリには誉め言葉になる訳だ。

軽食と飲み物が届き、摘まみながら手本引の説明を始める。


「一番難しいのはおやの作法だ。結構熟練が要るので、ミドリが適役だろう。」


ミドリに片肌脱がせて肩から手ぬぐいを掛けさせる。さすにダナイデにこの役はさせられない。手ぬぐいの中で札を繰る事を幾度かやらせて練習させる。もくは造っていないので、株札を並べて代用する。


「つぎに、子の張り方だが、これが色々ある。単純に1点張は勿論…」


各種の張り方を説明して、いよいよ実戦だ。

今回は金銭を掛けていないので、勝ち負けの目安になる鉄貨を皆にわたしておく。


「入りました。どうぞ!」


俺がごうりきを買って出て、気分を出す。

皆、最初は不思議な顔だったが数回勝負を繰り返すうちに乗って来る。


「ミドリはもどりを入れるのが上手いな。」


もどりを避けていては先の手が煮詰まってしまいます。しっかり混ぜていくのが合理的です。」


…なるほど。ミドリは何も教えずともこのゲームの本質を理解しつつあるのか。この手本引、勝負を重ねるほどにおやの出す目が煮詰まりがちになる。もどりを出すのは心理的負担が大きくなりがちだ。逆に、前回と同じ目をだす『根っ子』ははなから奇襲と割り切っているので案外出しやすい。気の弱いおやだと、『さんげん』『四間しけん』に目が寄りがちになるんだよな。目の前にある、もくが出目の履歴を開示しているので、心理的に追い込まれる…


そうこうするうちに『けん』を決め込んでいたダナイデ様が1点張できっちり当てた。ミドリも驚いているが、俺も驚きだ。癖のない合理的な出目と思えたミドリだが、ダナイデ様には法則がなにか見えたようだ…


「…ダ、ダナイデ…」


旦那イオリさま、手本引も素晴らしいゲームですわ。たったこれだけの札なのに、奥が深いですわ。ダナイデおやもやってみて宜しいですか?」


「…あ、ああ。ではダナイデがおやで…」


ダナイデは『ふるつき』、『さんげん』、『もどり』と繰り出し、張り方を翻弄する。これが実戦だと、男連中は片肌脱ぎのダナイデの色気にもてられて、とてもじゃないが正常な判断は出来なくなるな。ミドリも人並み以上に強かったが、ダナイデには誰もかなわないかも…


「ダナイデさま、強いよーー。全然わかんなーい。」

「…ご主人様。大人と子供の勝負みたいです。確実に削られてしまいます。」


さすに一億五千万歳の経験は伊達じゃないか。実際、大人と子供なんだろうな。此方の考えて居る事が手に取るようにわかる感じだ。


「これは参ったな…誰がやってもそこそこ勝ったり負けたりに成るようにできているゲームなのに、こんなに一方的に親が勝つとは。ジワジワ心理的に親が追い詰められて 『これにて胴を洗わして頂きやす…』 となるのが普通なんだが…」



「…伊織様ヴァーミトラ様がお見えになりました。こちらでございます、ヴァーミトラ様…」


「やあ、ヴァーミトラさん。来たい来たいと思っていたんですけど、いやあ、いいお店ですねー」


「伊織さん……なにやってんですか?」


「皆に手本引を教えていたんですよ。さあ、ヴァーミトラさん達も入った入った…」


有無を云わさず無理やりフアルコンノートの面々を席に着かせて手本引を再開する。子方の張り方のルールは簡単だ。すぐに覚えられるのがこのゲームの良い所だな。


ヴァーミトラの初手は…

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