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95 六百

「では『ろっぴゃく』のルールを説明する前に基本から。」


絵柄の呼び名や花合わせの仕方など、花札共通の基本を説明する。途中、11月の雨札の人物やカス札の変な絵柄の質問が出るが、俺もよく知らないので教えられない。文字のある短冊や色違いの短冊などそのつど質問されるので、なかなか進まない。


「さて、ここからがいよいよ『ろっぴゃく』固有のルールだ…」


600点の勝利条件や、各種役を説明する。

鬼札の使い方、さらにはイカサマ防止のため、配札直後に手札を見る前なら親と札の交換ができるなど、細かいルールも説明する。


「ご主人様、この大杯が月見や花見と絡めて役になるのは合理的ですが、3枚揃った場合の『鉄砲』という呼び名はなんなんですか、まったく非合理的ですが。」


「ミドリ、ほかの花札ゲームではその組み合わせで『飲み』という役になっているものもあるな。なぜ『鉄砲』と呼ばれているのか、俺にもわからん…」


「ねえねえ、主さま~~。なぜこの鹿さんは、変な方むいて『ぷいっ』ってしてるのー?」


「なぜかな?それも聞いたことがないな…」


終始ニコニコしてご機嫌だったのはダナイデ様だ。とくに質問もなく、穏やかな微笑みでギルドの男どもの注目を一身に浴びている。


「…ダナイデ?」


旦那イオリさまのふるさとではこんなに植物がでられていたのですね。一枚一枚から植物への敬意や愛着が伺えますわ。このような札で遊べるなんて、素晴らしいですわ。」


「それは良かった。ダナイデもしっかり遊んでもらいたい。」


「勿論ですわ、旦那イオリさま。パーテイーの方々だけでなく沢山の方と遊びたいですわ。」


その途端、わっと空いていた2つの席に男が群がってくる。まあ、これが元々の狙いでもあるんだが。俺の嫁とは解っていても、それでもお近づきになりたい…その気持はよく分かるぞ。


3組あった花札が忽ち出払ってしまい3ヶ所で花札が始まる。

転移者の中に『こいこい』を知っている者が居て、『こいこい』のルールを声高に説明している。


「…伊織さま、…換金できました。  何が始まってるのですか?これ。」


「いやあ、俺の故郷のカードゲーム持ってきたら皆嵌っちゃってね。キルドでの時間つぶしに丁度いいでしょ。カードは置いていくから好きに遊ばせてあげてね。」


キリの良い頃合を見てダナイデを呼びギルドを出る。


「ご主人様、うまく行きましたですね。」


「まあ、ただ遊ぶだけだからな。どうせ退屈している連中だし、そりゃはまるだろ。」


旦那イオリさま、素晴らしい文化ですわ。これがこの世界全てに広まると思うと感動で打ち震えますわ。」


「そのためには、花札そのものを数多く世に送り出さないとね。花札の製造さえ順調なら、宗教よりは早く広まりますよ。」


「唯一神帝国にも持ち込んでバラ撒きますか?ご主人様。」


「わざわざ持ち込む必要は無いだろうな。唯一神帝国自体が動員掛けて行動する場面が来ても、配下の信徒はいくさなんか初めてだ。当然、指導者として転移者や軍人崩れを雇って下級指揮官に据える。そうしないと軍編成も出来ないからな。中級や上級指揮官は司祭だの司教だのが天下りするとしても、現場に出てくる事はほとんどないだろう。お偉方がいくら綱紀粛正を叫んでも、戦場の現場は退屈で殺伐としているから、娯楽は必要だ。現場の下級指揮官が酒も博打も容認するさ。」


旦那イオリ様、花札がうまく行きそうですが、それでもサイコロや他のゲームも普及させるのですか?」


「それは必要ですね。どんなゲームもいずじょうな人とな人が出てきます。花札は碁や将棋ほどではないですが、必ず勝率に差が付き始める。負けてばかりの人に他のゲームが必要です。」


「そこでサイコロの出番なのですね、ご主人様。」


「ああ。サイコロにしても、実は勝負の仕方で優劣が出る。だがゲームの性格上サイコロの出目が悪かっただけだ…俺の腕が悪いんじゃない…と勘違いしやすい。というか、負けが込む人は死ぬまでソコに気が付かない。一見誰がやっても確率は同じに感じられるあたりに罠があるんですけどね。」


「ご主人様。そうなると、サイコロ勝負は大勢の弱者があつまってくる吹き溜まりですか?」


「正確には、大勢の弱者とそれを食い物にしようとする弱い振りをした強者の吹き溜まりな。」


旦那イオリさま、すこし悲しいお話になってきましたわ。」


「大丈夫ですよダナイデ。弱者は負け続けても、いつか一発当ててやると云う夢を買っているのです。負けの代金で。で実際たまには出目に恵まれて勝てます。トータルでは大負けでもね。ちゃんと取引として成立してます。」


「ご主人さま、また悪い顔してるーー。」


「はは。悪い顔のときの俺の匂いはどんな感じだ、テイル。」


「うーん、臭くはないけど唐辛子か山椒みたいな匂いだねーー。」


なるほど、香辛料系な…


「ご主人様、これからどうしますか、一回帰りますか?」


「いや、目の前が奴隷商だから、コルストンに珊瑚も預けておこう。」


ミドリにはああ言ったが、珊瑚などをコルストンに預ける時に玩具も渡しておくのも有りだな。コルストンも狙いは一致しているので、有効利用してくれるだろう。



「いつも世話になるな、コルストン殿をお願いできるかな。」

「どうぞ、こちらへ。」


銀行員のような店員がいつものように客間に通してくれる。

今日は4人で来ているので客間が狭く感じる。


「伊織様、ようこそ。今日も皆様お揃いですな。」


「ああ。ココも変わりないな。早速だが珊瑚が手に入った。」


ミドリがマーマナから預かった珊瑚をテーブルに出して並べる。

コルストンの目が好々爺からやり手商人の眼光に変わっていく。


「伊織様。いや、お尋ねするのは野暮と重々承知ですが、いったいどうやって。このような高品質の珊瑚は十年来見たことがない…」


「そうか。だいたい同レベルの珊瑚を安定供給できる予定だが。」


「それは有り難いですな。これだけの逸品であれば、唯一神帝国幹部を籠絡するのも、やすいことでしょう。ましてや、エフタール王国の貴族など…ふふ。」


「それは良かった。売上の分配などはコルストンに任せるので、活動経費もちゃんと取ってくれれば良い。あと、そうそう、珊瑚製品の小物を一個、俺に貰えるかな。ギルドのお姉ちゃんにプレゼントしようと思う。帝国にバラ撒くものと同じものが良いな。」


「…ギルドの娘に…なるほど、それは良い告知になりますな。出来上がり次第お渡しします。ギルドに来る時に寄ってください。」


一を聞いて十を知るとはこの事か。イシドロスの職人も、コルストンにはいちもく置いていた。コルストンを共闘のパートナーに選んだのは正解だったな。

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