94 ナーガの流通
ヘルマンド川へゆったりと出発する。
ナーガ罠もちまちま増設しているので荷台が窮屈だ。
…ナーガ罠の代理人が作れないのが難点だな。魔物側は信用できる相手なのに、亜人側になかなか人材が居ない。ナーガ罠を管理させる奴隷を新しく買うか?奴隷契約で縛れば…ダメだな。契約内容が奴隷商全体で共有されているだろうから、秘密にならない。ナーガをそこそこの規模で流通させるのは手詰まりだな。…ん…いや、そうでもないか…。
「ミドリ、ヘルマンド川以外でも、ナーガは居るよな。」
「そうですね、ご主人様。湿地帯や氾濫原なら居ると思います。」
「ジャラランバードに近い場所で、そういう場所は無いか?」
「ジャラランバードの東南東、砂漠に近い場所ですが、ハームー湿地が有ります。もとは結構大きな湖だったのですが乾燥化が進んで、全体が湿地になっています。」
「そうか。時間のあるときにハームー湿地にもナーガ罠を20本常設しよう。交換の罠と合わせて40個造っておいてくれ。これもミエリキに管理させよう。」
ミエリキなら幻覚に罹るヘマもしないだろうし。罠ごと熱い湯にぶち込めと言っておけば大丈夫だろう。
しかし、なんで ナーガ=ヘルマンド川 と思い込んでいたんだろう。俺も固定観念の罠に嵌っていたとは。
「主さま~、ミエリキさん喜ぶかなーー」
「慣れれば簡単で安全な仕事だ。子供にも教えれて良いだろう。」
ミエリキは子供の心配があるから信用できる。目先の金に目がくらんで横領しても長期的に大損だ。…なるほど、某大手運送会社が借金抱えた人を多く採用すると云う理由が判るな…
「旦那さま、いつも色々考え事が交錯しておいでですね。トレースしている私の頭が痛くなりそうですわ(笑)。あまり体を使われていないのに、極端に太られないのはそのためですか。でもお体の為には宜しくないので、定期的に私と交わって灰汁が溜まらないように、いれかえましょうね。」
…さらっと凄いことを……ダナイデ様との交配がまるで透析みたいな感じなのは判るが。ミドリは…しっかり頷いているか。きっちり話は出来上がっているんだな…
「主さま~~。川に着くよーー。」
テイルに罠の匂いを探ってもらい、ミドリと2人で回収してもらう。ミエリキに管理してもらうと何れは罠の構造が知れ渡るだろうが、それならそれで悪くない。この罠には種を絶滅させるほどの威力は無いしな。罠が増えすぎても罠にかかる獲物が減るだけだ。
「さてと、呼石で、マーマナに来てもらおう。」
毎回呼び立てて気の毒だが。俺に機動力が無いのでしょうがない。グリフォンでも軽量のマーマナさえ乗せられないのだ。俺が乗るのは全く無理だろう。グリフォンにしろニケにしろ、いわば戦闘機だ。輸送機じゃないからな。
「主さま、遠く離れていても、音で判るんだねーー。」
「水中のが音は良く聞こえるからな。音の伝わる速さも4倍以上早くなるようだぞ。さらに、石とか硬いものだともっと早くなる。」
「ご主人様、心臓のドクドク云う音は血管通して聞こえてくるので、血液伝っていると思っていましたが、それだと血管そのものや骨を伝わってきているのでしょうか?」
「う?…ミドリよ、それは俺も知らない。どうなんだろうな。」
無駄話しているうちに川面が割れてマーマナがやって来る。
水面から跳ねて器用に石の上に乗る。
「イオリ、はい、これ。とりあえず珊瑚もってきたよ。」
「おお、マーマナ気が効くなあ。珊瑚と真珠頼もうと思って呼んだんだよ。無理に成らない程度で集めておいてくれるかな。真珠は普通のサイズで十分だから。」
「解った。中の海は温かいので珊瑚も沢山有るから大丈夫だよ。」
「戦の事は、なにか聞いてないか?」
「なにも聞いてないなぁ。海の闘いじゃないしね。」
マーマナから珊瑚を受け取り、ざっと此方の状況を説明する。マーマナはあまりピンと来てないようだが、セイレーンの長老に伝えてくれるようだ。
…
…
「マーマナちゃん、今日も可愛かったね、主さま~。」
「14歳だからな。仕草も、まだ子供っぽいところがある。」
「ご主人様、ナーガを処理したら直接ギルドに行って良いですか。」
「そうだな、珊瑚はギルドでは出さないのでミドリが持っていてくれ。」
珊瑚か。ギルドの看板娘にも、なにか珊瑚製品プレゼントしても良いな。珊瑚を広める広告塔にはうってつけだし、いつも融通利かしてもらっているからな。今日はダナイデを伴うので看板娘が霞んでしまう。ご機嫌取っとかないと。
プレゼントするなら、帝国で流通させるのと同じ物が望ましいか。珊瑚渡す時に、コルストンに事情話して一個だけ小物を融通してもらおう。
…
…
温泉地帯に帰り着き、ナーガの処理を始める。
『虹の架け橋』の連中が出てきているかと思ったが、小屋に引きこもって作業しているようだ。
小汚くなった転移してきたままの状態の衣装だったので、ダメダメな連中と思っていたが仕事の適性が向いてなかっただけのようだ。そりゃそうだよな、冒険者に適正のある人間なんて寧ろレアだろう。こっちで公務員やったほうが役に立ちそうな人間も多いハズ。
転移者=冒険者 の固定観念が抜けないと、道を誤るな…
湯通しするだけなので、ナーガの処理はすぐに終わる。
そのまま家によらずにギルドに向けて移動する。
「あの3人、案外使えそうだな…」
「主さま~、小屋の3人の匂い、大分マシになってきてたーー」
ほう? 固有の臭いかと思っていたが、状況や環境で匂いが変化するのか。
テイルに隠し事が出来ない理由も、これかもな。
「ガイアーの地のケルート人達はどんな匂いだった?」
「あの人達は、焼き芋のような匂いで温かい匂いだったー」
なるほどな。焼き芋っぽいと…
「奴隷商のコルストンはどうだ?」
「いろんな匂いが混じり合っているけど臭くはないよ。」
じゃあ、俺は…いや、辞めておこう。たぶん、臭い時が時々有るはずだ。
「ご主人様、ギルドに着きますが、どうしますか?」
「今日はココである程度の時間を使うから皆一緒に来てくれ。」
皆でナーガ罠を抱えてギルドに入る。
受付のお姉さんの前にナーガを積み上げる。
「いつも手間かけるね。コレ、換金処理お願い。ゆっくりでいいよ。遊んで待ってるから。あのテーブル借りるね。」
4人でわざと6人用のテーブルへ行く。早速花札を出して皆にルールを説明する。
ギルドに居る連中が何事かと聞き耳を立てているのが判る。
「いまから説明するのは、花札でもとくに奥が深いゲームで、『六百』と云うゲームだ…」
『六百』…俺もなぜこのゲームを『六百』と呼ぶのかは知らない。先輩がやっているのを見ていつのまにか覚えていた。どんな手札が来ても勝負になるように考慮されていて戦略性が高い。
…さて、この世界でも旨く定着してくれよ…




