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93 ニケの弱点

とりとめのない考えを巡らせているうちに夕刻になる。

今日も西の空にコカトリスがV字編隊で飛んでいく。


「どうだ、テイル。エフソス様の気配は感じないか?」

「…うーん。まだなにも感じないなぁーー」


あまり姿を見られたくないのも有るのだろうな。俺としてもそのほうが助かる。せっかく人形なのだから『ただの美女』で居てくれたほうが、普通に同席していても怪しまれないから都合が良い。


旦那イオリさま、アーミル将軍?とかに会われる場合にエフソスも伴うご予定なのですね。」


「出来ればそうしたいですね。まさかグリフォンのマンディーは連れていけませんから。戦うにしろ闘わないにしろ、相手をよく知っておく事は有利に働きます。それにアーミル将軍の一派とは闘わずに済ませる事もできそうですし。亜人全体対魔物全体の闘いにならないようにしないと、創造主の思惑どおりに成ってしまいます。」


「分断して一部とだけ戦うのは合理的です。ご主人様。」


ミドリも戦う前提だな。まあ、普通はそうだ。

孫子の、戦えないように工作する…という発想が自力でできたら天才だもんな。


「主さま!!来たよーーーー!!」

「え?どこだ?」

「上だよ、上ーーー」


うえ?と聞いて見上げた時には、閃光が尖塔ベルクフリートを貫いていた。

さらに、閃光が3条立て続けに着弾。

エフソスは全く姿を見せること無く消えた。


「うわ…すがと云うか、やりすぎと云うか…」

「主さま~、綺麗に折れたねーー。」

「ご主人様。南の城壁も崩れているようです。」


尖塔ベルクフリートは真ん中で折れてしまっている。粉砕された居館はココからでは見えなくなっているので、ほとんど使用不能なまでに砕けたようだ。多少怪我人ぐらいはでたかもなあ。南の城壁を壊したのは、街の人に城の惨状を見せつけてオリーミ公に正常な判断をさせない狙いだな。


旦那イオリさま、エフソスから伝言がありました。『スカスカの城がよく見えるように、サービスしておいた。』との事です。」


城の方がにわかに騒がしい。聞き取れないが、なにか怒声も響いているようだ。

城の出入りも激しくなり、集まってきた野次馬を追い払う使用人が喚いている。


…これて今回の大規模動員も、ただ無駄に移動して得ること無く終わる…か…


旦那イオリさま、成功したようですね。」


「…どうかな…ま、目的は遂げた。だいぶ暗くなってきたので早めに帰ろうか。」


「主さま~、夜でもテイルはちゃんと見えるから大丈夫なのー。」


あー、テイルは夜目も効くのだな。

そういや、夜中にちょくちょく抜け出して何処かに出かけているようだ。



「ご主人様。あの凄いエフソス様でも、セイコ・サオリには勝てないのですか?」


「まあな。最初の1回、2回は勝てるかもしれんが倒し切る事はできない。逃した次の対戦では倍ほど強くなってしまうからな。

…それにニケの弱点も、今の闘いで少しわかった気がする。セイコ・サオリ相手の2回目は危険だろう。エフソス様にも早めにアクセサリーを付けてもらって、お守りにしたほうが無難だな。」


旦那イオリさま、ニケの弱点に気が付かれたとは?」


「ニケはあの高速移動で相手の攻撃を受けずに一方的に攻撃出来る。だがそれは、『当たらなければどうということはない…』を地で行ってるのでニケ自体の個体としての耐久力は大きくはない。早く動くためにも重装甲は無理だし。だから相手からすれば、まぐれでも一発あたればいい。」


「それには?」


「…あらかじめ来る事を予測できる状況を造って誘い込み、大量の矢でも魔法でもいいからニケが来るタイミングだけ見計らって、適当にぶっ放して飽和攻撃すればいい…。」


「ご主人様、しっかり狙わないで適当に打つのですか?」


「ああ。矢は本来そう云う武器だよ。鎌倉武士のように騎乗しながら狙って打つといった職人芸の闘い方のほうがイレギュラーで、元々集団で大量に射て、面で制圧するのが普通の使い方だよ。」


そういう意味では、冒険者パーテイーのアーチャー職って変だよな。ウイリアム・テルとかに影響されたロマン枠なのかもな。実際、大抵のゲームでも終盤に成ると使えない職種だし。


「ご主人様。では王国正規軍の精鋭相手でも、かなり相性が悪いのでしょうか。」


「そこは微妙だな。正規軍の指揮官がそういった集団戦を理解しているかどうか。過去の戦いの記録や伝承があれば、部隊の運用法も判るんだが。でもまあ、参謀が集団戦を献策する可能性は常に有る。長弓標準装備で数もそこそ揃えていて練度も高い王国正規軍とニケの相性は良くないな。」


結局、ニケは奇襲してこそ生きるユニットなんだよな。

マンディーがいくら頼み込んでも首を縦に振るハズがない…。


「主さま~、もうすぐ家に着くよーー。」

「今日は遅くなっちゃったな。すぐに食事にして早めに寝よう。」


今日は結構色々有ったので、皆すんなり眠った。

ダナイデ様の良い香りにまとわりついて居ると癒やされる。



昨夜は急な来客もなくグッスリ眠れた。

今頃は夜中に急な撤退を命じられた兵士達がウンザリした顔で撤退しているだろう。


「主さま~取ってきたよーー」

「いつも有難うな。テイルの炭酸水は、朝の癒やしだな。」


「ご主人様、サイコロ15個と花札3セット、完成品が置いてありました。」

「あの連中、案外ちゃんと仕事したんだな。」


失敗作の札の裏に『代金』と書いて銀貨3枚と銅貨1枚を置いておく。完全ハンドメイドだからな。割高だが、多めに支払ってやろう。普及するまで結構な数が必要だし。


明日や明後日になると撤退してきた連中でごちゃつくから、今日にもギルドに顔出ししてサイコロと花札の普及を始めるか。


「今日はヘルマンド川に行って、マーマナに珊瑚と真珠をお願いしておこう。それからギルドに戻って早速花札の普及をはじめる。普及にはダナイデにも一肌脱いでもらいますね。」


まあ、ダナイデ様にも遊んでもらうだけだけどな…

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