90 サールト抜擢?
『虹の架け橋』との話も終わり、サイコロと花札の目処が立つ。
「株札も一組造って見本渡しておかないとな…」
「ご主人様、花札は花の絵でしたが、株札は何の絵なのですか?」
「あれは何の絵なんだろう?云われてみれば不思議なデザインだな。」
「ご主人様も知らないものなのですか。」
「うん。100年前以上から有るとは思うんだが…
や○ざの姉御さんが片肌脱いで扱うと雰囲気が出るんだよな…」
論より証拠、絵を入れてみる。比較的単純なのが多いので捗る。
「この変な瓶みたいなのが 1 なんだわ…」
「4枚のうち1枚だけ赤いのですね…」
「4と5の札も一枚だけ、なんか違うよーー」
10の札『お父さん』の札の絵が複雑で、思い出すのに四苦八苦する。
「1枚だけ真っ白なのですね…」
「これは予備札と云うようだな…」
うむ。株札は木札のほうが雰囲気があって良いな…
転移者が多いので花札ほど一般的でない株札だが、使える奴も来て居るだろう。
「旦那さま、此方のほうが色も少なくて造るのは容易ですね。」
「確かに。製造自体は株札のほうが捗りそうだな。」
《 伊織ーっ 》
ー やはりでてきたな、お姉さん。出てくると思っていたわ。 ー
《 将棋は造ってくれないの? 》
ー 造りたいのは山々ですけどね。駒の形状が複雑でしょ。 ー
《 ダナイデ様なら一発で作れるでしょ。 》
ー 文字の書体も難しいし。龍馬の文字なんて書けないから。 ー
《 簡略化した1文字駒でいいじゃん。造ろうよ。 》
ー 一文字駒か。アレ雰囲気出ないから嫌いなんだな。 ー
《 じゃ、裏文字だけ簡略文字。たまに有るでしょ。 》
ー あー、そういえば、そんな駒もありますね。 ー
《 じゃ、お願いね。今度サービスするからさ。 》
言うだけ行って消えた…
今度サービスって…なんか場末の風俗嬢みたいだな…
「旦那さま、お供の方の云われていた『将棋』って?」
「こんな駒なんですけどね…」
駒の形状を絵にして、大きさや枚数を説明する。
ダナイデ様が木肌が白っぽいメープルの木材で造ってくれる。
「お!! これ木目が虎斑のようで、高級感あるなあ。」
「ご主人様、これも玩具なのですか?」
「ああ、子供でも10歳以上ぐらいから、男の子は大抵やるな。」
複雑な書体は無理なので、結構省略して文字をいれていく。
これでお姉さんも満足だろう。
碁盤と碁笥、将棋盤もダナイデ様にお願いする。
単純な板盤で良いから、これは簡単だ。
「あとは碁石だが…これはオセロみたいなベタな板で代用するか。」
本物のような、蛤型の石なんて、とても成型できないし。
囲碁のアバターの人が出てきたら文句云われそうだけど。
「なんだかんだで案外造れるもんだな、ダナイデのお陰で。」
「いえいえ、旦那さま、これらが普及すれば争いが減るのですからどんどん造りますわ。空き時間に作り置きしておきますね。」
「明日はジャラランバードの商人ギルドに行ってみるか。そうだ、もしかすると明日当たり、ニケのエフソス様の奇襲があるかもしれないな。ついでにヌーリスまで足を伸ばしてエフソス様の勇姿を見に行くか?」
「旦那さま、実施する当日かどうか、ジャラランバードに着いてからエフソスに付近の樹木から確認しますわ。」
「それなら確実に見れるな。」
「ご主人様、それは是非見てみたいです。」
「主さま~、絶対見に行くーー」
…
…
昨夜はニケの話題で結構盛り上がった。
戦の女神が人間の男と駆け落ちして数世代後に生まれた鬼っ子がニケらしい。ギリシャ彫刻のような体型と衣装だが、元が戦神なのでかなりスリムな体型になったと云う。混血種なので、神ではなくA級魔獣に分類されるが、実力はほとんどS級らしい。
「さて、ではジャラランバードへ行こうか。まずはサールトのアクセサリー店だ。ダナイデのブレスレットを受け取る。そして、エフソス様とメガロドンにもアクセサリーを用意しよう。」
「ご主人様、ちゃんと覚えていたのですね。」
「主さま、もう2つぐらい作っといたほうが良いと思うなーー」
なに?テイルが言うと洒落にならん…まさかドラゴンやヒュドラ?か。でも、サイズの見当もつかないぞ…そういえば、セイコ・サオリを任せる雄の大物、誰に成るのかな…
「旦那さま、雄の大物は赤ヒュドラで内定しています。もう少し話が煮詰まったら一度面会してくださいね。青ヒュドラは極地が生息地で遠すぎますので。」
…いよいよヒュドラとご対面か。でもドラゴンよりは日本人ならキングギドラの映像見ているのでヒュドラのほうが親近感があるかもな…
…
…
戦で人気の減った街道をジャラランバードへ向かう。
ダナイデが膝枕をしてくれる。
空荷なのだが、ミドリとテイルが並んで荷車を曳いていく。
…商人ギルドか。この世界、現状魚より肉だよな。当然狩人がいる訳で、鶏肉も数は少ないようだが商人ギルドに販売しているはずだ。『霞網』も狩人に貸し出すのも有りかもな。そのほうが、早く贅沢品が普及するだろうし。だが、『霞網』自体が広まりすぎるのは不味い。上手い人が張ると絶滅に瀕する品種が出始めるからなあ。そこらの担保が肝心だな…
「主さま~~、そろそろ到着だよ~~」
「ん、もう到着か。早いな…」
サールトの店に来るのも幾度目かな。いつもながら高級感のある店構えだ。商品がギュウギュウ詰めでなく、余裕を持ってポツポツと並べられているのが良い。つい、あれもこれも並べたく成りがちなのだが、それでは返って客が目移りするし、落ち着かない。
「いつも世話になる、木村伊織だが、サールト殿はおいでかな。」
程なくして、サールトが出てくる。いつもと違ってごく普通の平服だ。
「これは伊織様、いつもありがとうございます。」
「どうした?ココも不景気風が吹いているのか?」
「それがねえ伊織様…」
サールトが云うには、
今回の大規模動員でオリーミ公が下級貴族まで駆り出してしまいオリーミ公の派閥の貴族が軒並み金回りが悪い。金回りが悪くなると、派閥外の貴族に借金する貴族も増える。その結果、貴族全体の購買力が落ちてしまってジャラランバードの高級品店は軒並み開店休業状態らしい。
「それは災難だな…」
「全くですよ。あ、とにかく、ご注文のブレスレットですね、えーっと、そうそう、ダナイデ様の。いや、やはりお美しいですな…」
「俺の嫁になったからな、ダナイデは。他の貴族には内密にな。」
「なんと、それは羨まし…いや、お目出度いですな。では少々お待ちを。」
サールトが奥に戻る。
ミドリもテイルも慣れたもので各々勝手に商品を鑑賞している。
ダナイデ様は商品よりもサールトのほうが面白いようだ。
「旦那さま、サールトさんは旦那さまと似た処が多ございますね。相手の身分や種族にほとんど頓着が無い方のようです。仕事に真面目な方ですね。それだけに、せっかく良い商品を調達したのに、その良さが判らない三流貴族を腹の内では嫌っているようですね。」
なるほど、一流の職人を繋ぎ止めるには賃金だけでなく、商品を見る目がないとダメだからな。金だけの関係では在り来たりのものしか入手できない。滅多にできない一品物など、同じ卸すなら良さが分かる店に卸すからな…意外と濃い付き合いのネットワークがあるのかもしれん。狩人の件もきいてみても良いかもな…
[龍馬]:将棋の駒の「角行」の裏の文字。単に「うま」と呼ぶことが多い。「桂馬」の場合の呼び方は「けい」と呼ぶことで区別される。




