89 古代米
ミルセリクと話をつけて、ミドリとテイルの作業を見守る。
岸からミドリが場所を指示してテイルが竿を打ち込んでいる。
「だいぶ出来上がったな、ミドリ。」
「はい、ご主人様。傘型との事ですが、右半分の傘型でも魚が集まるのですね。」
まあ、ここは網でごっそり攫う漁をしていないからな。
余り美味くない焼き置きでは、今までは需要も少なかっただろうし。
「生き物の習性だな。若い男が子供をすんなり生みそうな豊満な女性に吸い寄せられるのも同じことだな。」
「でも、スタイルの良い、顔立ちが整った子のほうが、モテると思いますが。」
「それは、二十歳すぎまでの青臭い男だけだな。20後半以降になると、子孫を残す本能が強くなる。ひょろいスラっとした女性より、少しぼちゃ目のほうに食指が動くようになるものさ。細いのが良いという固定観念を女性が持っている場合がおおいから、男もはっきりとは言わないけどな。」
「…そういうものなのですか…」
「そういうものなのだ…」
…
…
「ミドリちゃん、これでお終いかなーー」
「あー、テイルちゃん、良いと思うよー帰ってきてーー」
追加の魞も設置し終わったようだ。
まだ夕方には時間が有る。農村も見にいくか…
「ミドリ、近所でどこか、農場が無いか。何処にもあるような、普通の農場。」
「農場だと川沿いですね。アラシャン川が近いので行ってみますか?」
大規模に用水を引くとかの発想はないようだ。自然の川から取水できる範囲だけを灌漑しているんだな。3代前の王様も軍事には長けていても内政は並みだったのか。それとも内政に実績残せるほど国が安定するまでに、寿命が来たか…でも信玄は川の改修に熱心だったし、信長や北条氏康は商業都市育成に熱心だったから、戦で忙しかったは言い訳にならないか…
珍しく、ミドリが荷車引いて、テイルが膝枕になっている。
ずっと舟の上で力仕事していたからな。初めから決めていたようだ。
「主さま~、農家にもなにか良い物、造ってあげるのかなーー」
「いや、作物の改良は俺にも無理だ。なにか気が付く事が有ればいいけどな。」
湖岸沿いに少し東進すると、2級河川ぐらいの川が見えてくる。
谷に挟まれた川の両岸に小麦畑が山際まで造られている。
湖岸付近は湿地帯になっているので、放置されているようだ。
「少し川に沿って上流に行こうか。」
「道が悪いので、ゆっくり行きますね。」
農作業にしか使わない道で、あちこちに泥水が溜まっている。
農作業しているのは、大方が女性と老人だ。
「ミドリ、若い男は農作業しないのか?」
「農業では僅かなお金にしかならないので…」
若い男は大きな町に出稼ぎ労働に出る訳か。
…ん?あれはもしかすると…
川の堤防の斜面に、赤茶色の実を付けた草が自生している。
「ミドリ、ちょっと止まってくれ。
テイルはあの赤茶色の実の成っている草を取ってきてくれるかな。」
すぐにテイルが両手に掴めるだけの草を持ってくる。
…やはり稲だな。品種改良される前の古代種だ。だが、古代米は栄養面では云うことないが粉物にして食べるには小麦の方が癖が無いからなぁ…。だが稲は面積当たりの収量が大きいし湿地帯でも栽培できるから惜しいな。要は美味い食べ方があれば良い訳なんだが。持って帰って家の排水路脇で栽培してみるか…
「コレは持って帰って植えてみることにする。」
「こんな小さい粒、食べられるの~??」
「食べられるんだが、ちょっと手間がな…」
脱穀だけでも大変だ。今から思えば白米とか、贅沢の極みだったな。
…
…
農村では他に得るものもなく、家路につく。
今日もコカトリスがV型に並んで東の空に飛んで行く。
まあ、今日は漁村だけでも手を打てたので良しとしよう…
「ご主人様、もうすぐ到着です。」
「帰ったら、風呂にはいろうか。テイルも今日は疲れただろう。」
「お風呂で毛繕いがしたいなーー。」
よし、風呂場へ直行だ…と
「こ、こら、覗くな!」
「早く、出て行ってよね!」
ああ…来ていたのか…やれやれ。
「じゃあ、先に飯食っているから、お前たち、上がったら来いよ。」
…
…
「主さま~、この実はどうするの?」
「それは来年の春まで置いておく。何処かに吊るしておいてくれ。」
「わかったー」
…
…
ミドリとテイルを風呂に入れて『虹の架け橋』の3人と会う。
隣に居るダナイデ様が気になるのかチラチラ見ている。
ま、そりゃそうか。自分達とは格が違うからな、気圧されているのだろう。
「…つまり、お前たちにしてもらいたい当面の仕事は、
1.ラブロマンス小説の原作、(読み切りの短編が良い)を幾つも造る事。
2.出来上がった小説の写本造り。
3.花札の絵付けやサイコロの目の色付け(将来は他の玩具も造る。)
4.出来上がった玩具の表面に樹液コートを掛けて仕上げる。
の4つだ。いずれも出来高払いだ。仕事の時だけ来て離れの小屋を利用すればいい。仕事に来た時は風呂も自由に使って良い。自分達の適性に合った仕事をすればいい。」
「なんで読み切りの短編なの?」
「この世界の読者が物語を読みなれてないだろ。」
「…そうか、そうね、判った。仕事は引き受けるわ。
で、そ、そちらの方はホントに伊織のお嫁さんなの?」
「ああ、間違いなく、ダナイデは勿論、ミドリもテイルも嫁だ。
まだ他に3人居るがちょっと離れた外国に居る。もっと増えるかもな。」
「…6人も。」
「ああ。下は14歳から上は…油の乗った良い頃合いまでより取り見取りだ。」
「…そう。」
…なんだ、こいつら、どうも空気がおかしいんだが…
「…実はね、私達、ココに来るまでは伊織に寄生して楽してやろうとか、考えたりもしてたの。でもダナイデさんから色々聞いてさ。外国のお姫様でしょ、ダナイデさん。そんな人までお嫁さんに来ちゃってて、もう私達なんてお呼びじゃないのよね。第一、ダナイデさん綺麗すぎるし、ボリュームも格が違うし…すっかり打ちのめされちゃった。」
まあ、ダナイデ様と比べたらな…精霊様だ、根本的に桁が違う。
「ま、まあ、俺が悪知恵と運でここまで成れたんだ、お前らも頑張れ。」
「…この世界じゃ、23や24なんてババアだし…もう無理だよ…」
…こいつらの心をココまで完璧にへし折る…ダナイデ恐るべし…
「まだチャンスがあるだろ。この世界での紫式部になりゃいいんだ。一杯稼いで好みの奴隷と契約すりゃいい。コルストンも言っていたぞ、不景気で売り者奴隷が増えているってな。」
「旦那さまが云われる通りですよ、皆さん。私を含め6人それぞれの個性を旦那さまが愛でて下さって結ばれたのです。皆さんの個性にお似合いの方もきっと居られますよ。」
…ダナイデ様、それ微妙に嫌味が利いているような…
「そうね、そうだよ、皆。きっと誰か私達に合う人が出て来るよ。」
「だね、だね。だから今はしっかり稼ご!」
「! うん、わかった。そうだね、がんばろう。」
んぁ…! とことん自分に都合よく考える生き物なんだな。
これにはダナイデ様も !! だったかな?




