88 漁師 ミルセリク
昨日は結局サイコロと花札の試作だけで、『虹の架け橋』の連中は来なかった。
マスターが忘れていたぐらいだ、ギルドにも稀にしか行ってないのだろう。
「今日はイスカンダル・クーク湖に行く。魞の仕掛けをさらに2ヶ所造りたい。」
「ご主人様、今の1ヶ所でも、食べきれない量ですが?」
「魞を地元の漁師に貸し出そうと思う。そうすれば、美味い活きの良い魚が安く流通するようになる。無論、俺達が食べる分は自由に捕るのが条件だがな。」
「主さま、漁師さん喜ぶねーー。」
「ではご主人様、資材を満載して出かけましょう。」
「旦那さま、私は『虹の架け橋』の方々を待って、留守番していますね。」
「すまないな、ダナイデ。よろしく頼む。」
…
…
荷車が資材でいっぱいなので、竹竿の上で大の字に寝て空を見上げる。
今日もコカトリスが大きなV字編隊を造って飛んでいる。
イスカンダル・クーク湖への道中が閑散としていて寂しい。
戦場に動員しすぎだ。無理な動員するまで追い詰めるようでは、帝国のお偉方も軍事は素人か。いや、オリーミ公領をわざと破綻させて後釜に居座る…そういう線もあるな。だが、それはエフタール王国の他の領主が黙っていないと思うが。
単に、貧困層=怪しい神にも縋りたい者 を量産して、その耳元でボソボソ勧誘をする狙いかな。その日暮らしの不安定な生活だと心が弱っているので付け入りやすい。新興宗教の常套手段だ。
「ご主人様、今ある魞の隣で良いですか?」
「ミドリ、ある程度、間隔を開けて設置したほうが良いな。」
ミドリとテイルが新しい魞を設置し始める。
2回めだが、1日仕事に成るだろうから、漁師に話を付けておこう。
「ぁ、そこの漁師さん、ちょっといいかな。」
「ん?貴族さんがこんな場所に何の用だね?」
「ここらの漁師さんの顔役というか、まとめ役は誰かな?」
「貴族との交渉なら、そこの首から青い手ぬぐい下げている、ミルセリクだな。」
「ミルセリクさん、ちょっといいかな。」
「あぁ…貴族さんか。なんだい。」
「あそこの、アレ、魞と云うんだが、アレについてだ。」
「魞?アレは貴族が造ったのかよ。すげえなアレは!! よほど魚を横取りしようかと思ったが、なんとか我慢してたんだ。」
「ほう、獲らなかったのか、真面目だな。」
「他人の仕掛けの獲物、横取りしちゃ漁師同士で戦争になっちまうからな。」
「良い心がけだ。そう云うミルセリクに相談だ。今日、さらに2ヶ所の魞を造る。合計3ヶ所の魞の管理をミルセリクに任せたい。報酬は魚取り放題だ。勿論、俺達が自前で食う分は好きに獲らせてもらうがな。あと、上納金だが、お前に任せる。稼いだ金からお前が俺に収めようと思う金額を自分で決めて収めれば良い。あ、当然だが、儲けは漁師全員で分けろよ。」
「お、お前、それ本気で言ってるのか?」
「ついでに、儲かる売り方も教えといてやろう。ある程度大きい魚だけ捕れよ。手づかみで生きたまま捕獲するんだぞ。それをタライにクーク湖の水を張って生かして運べ。ジャラランバードの大通りの外れとか、貴族や金持ちの目に止まる場所で売ると良い。1匹ぐらい、ゆっくり時間かけて通りの人の目の前で焼くのもいいぞ。焼けたらそれを試食させるんだ。ま、お前がうまそうに食べてもいいけどな。すぐに自宅まで持ってこいという、固定客ができるさ。」
「…あ、ぁ…わかった…」
「それから、漁師以外の村の連中にも振る舞ってやれ。タダはダメだが、身内価格の激安で売ってやれ。貴族には高値で売りつけるので、身内だという適当な理由はつけとけよ。」
「そ、そうか。そうしないと不味いんだな…解った。…で、あんたはいったい?」
「俺はイオリ、木村伊織だ。」
「 !! あんたが、イオリか。
変な貴族と最近有名な、傾奇者…嫁を30人から抱えているとか云う…」
「30人?…まあ、ゆくゆくは30人居ても構わんが、まだ6人だ。」
「……」
「…ま、まあ、とにかく魞は預けた。俺の家は腐った卵の匂いの岩山に有る。」
「知っている。イシドロスが造ったから有名だ…」
「そうか、なら良い。なにか困ったことが有れば来い。しっかり稼いでお前たちも嫁の3人でも持つと良い。」
「…俺にも、嫁…そうか、稼げば持てるんだな…解った、伊織の話は皆にちゃんと説明しておく。だが、上納金はホントにいいんだな。」
「ああ、解ったら早く皆にしらせて、銛で突くのを止めさせろ。そうだ、最初にタライを買う金が要るだろうから、これを使え。銀貨5枚もあれば、最初の仕込みには十分だろう。」
「…すまねえ。道楽貴族とか思っていたんだ。悪かった。」
間違っては居ないな。いや、貴族ってのは間違いか。
とにかく、これで魚も高級食材に格上げだな。
さて、漁村の次は農村が順当か。
農奴の件もあるし、とにかく一度視察だな。
とは云え、農業となると俺が特にやれることもなさそうだが。




