87 花札
コルストンとの会談を終えて店を出る。
転移者ギルドの前なので転移してきたばかりの、元の世界の衣装の者も多い。
「彼らの仕事も将来無くなるかもな…ま、そのときは普通に働けばいいか。」
俺自身、冒険者というよりは、普通に漁師やってるし。
転移してきて『勇者』の肩書で農夫やらされたら『詐欺だー』とか云うかな。
しかし、すでに酒を横流ししていたか。さすがだな、コルストン。
奴は奴ですでに教団を堕落させるべく、手を打っていたとはな…
この様子だと、他の商人もすでに動いているかもしれん。
酒があれば、次に欲しくなるのは博打だな。サイコロを何で造るかな。
石は加工が面倒、動物の角は捕るのが手間だな。
紫檀や黒檀のような、重い木材が良いか。
木材ならダナイデ様に頼めば、何か有るだろう。
ケルート人の弓の改良は進んでいるかな?初期文化の改良は遅いからなあ。
一つはマトモな長弓造っておいて、次の機会に実物渡しておくか…。
「主さまー、おかえりーー」
かなり離れているのに、テイルが屋上で手を振っている。
よく気がつくものだ…。匂いが風で運ばれたのかな?
「おぅ~。結構歩いて腹減ったわー。魚焼いてくれー。」
「解ったー。焼いとくねー」
池の備蓄食料があるので、こういう時は便利だな。
いずれエビも池に放流しておこう。
「久しぶりに歩いたら、結構足に来るわ…。」
「主さまは、もやしっ子だからねー。はい、焼き立てだよ。」
「おぅ……美味え……。やっぱ焼き立ては最高だな。」
これは貴族だけでなく、安価で庶民にも行き渡らせよう…
「旦那さま、お疲れさまでした。」
「うん。ダナイデ、もう知ってるだろうけどサイコロ用の木材なにか有るかな。」
「旦那さま、紫檀、黒檀は存じ上げませんが、ローズウッドはどうでしょう?」
そうか、紫檀も、黒檀も熱帯付近が産地だった。
温帯、北の方は冷帯になるこの地域では有るわけないな。
「ローズウッドなら最適だよ。大きさは1cm~1.5cmの立方体だ。
転がすので、偏りのない完全な立方体でないとダメなんだ。」
「真四角の小さな物ですね。ちょっと造ってみましょう。」
流石森の精霊、すぐに30個近いサイコロの元が造られる。
大きさ、重さも完璧だ。濃い茶色の木肌で高級感がある。
「さすがだ…完璧。あとは1~6の目を入れて…この1の目には赤い色を着色するのが作法なんだ。2~6は、木肌が濃い色なので白色がいいかな…。」
最初は我々が造ってアチコチで丼鉢や双六とセットでバラ撒けばいい。
すぐに自作する人が出てくるだろうし…。
「ダナイデ、花札のほうは、縦5~5.5cm、横4~4.5cm、厚さは2~3mmぐらい。木目に沿って割れやすいので絵をいれたあとで、樹液塗って固めたほうが良いかな。」
「旦那さま、こんな感じでしょうか…。」
丁度よい頃合いの木札が出現する。ダナイデ様大活躍だ。
後は絵入れだな…こればかりは、絵柄を知っている俺が1セット、描くしかない。チマチマ絵を入れているとミドリやテイルも集まってくる。玩具が珍しいので興味津々のようだ。
「ご主人様、この一枚だけ有る札、大きな傘を持つ人の絵は王様でしょうか。」
「…うーん、誰の絵かは俺もしらないが、多分、昔の貴族だろうな。」
「主さま~、この綺麗な花にぶら下がっているのに書いてある文字、なにかなーー?」
「それは、『みよしの』と書いてある。元いた世界の、この花『桜』の名所の地名だな。」
それからも、満月が『坊主』と呼ばれている事や、猪鹿蝶が1セットになる事や、桐のカス札になぜか1枚だけ下部が黄色いものがある事とか、質問が有る度に説明する。ミドリが菊の10点札の『寿』の武蔵野に興味津津だったのはいうまでもない。
「しかし、俺たちで絵を付けていくのは非効率だな。『虹の架け橋』の連中で、文章は掛けないが絵は得意というのが居たら、これも外注するかな。」
「さすがです。合理的です。ご主人様の慈悲の御心に感涙にむせぶでしょう。」
「旦那さま、それなら隣に宿舎をつくりましょう。」
「ダナイデ様~。簡単なのでいいと思うなーー。」
「その通りです。ダナイデ様。屋根だけあれば十分です。」
…テイルはまだしも、ミドリは私情入りまくりだな…
「はいはい、ミドリさんとテイルさんのご希望も考慮して造りますね。」
ダナイデ様が少し離れた場所にログハウスを造ってくれる。
イシドロスに造ってもらった家の1/3ほどの小ぢんまりとした小屋だ。
外部施設は一切ない。
水道と水洗トイレは設置されている。
水回りは手を抜くと感染症とか危険だからな…
「ダナイデ、有難う。これで最低限はいけてるな。」
「贅沢です。木張りの床など無くても良いのに…」
「いや、ミドリ。あまり待遇下げると臭いし困るだろ…」
「テイルも臭いのは嫌かな~。元々臭いのに…。」
やっぱ相当臭かったんだな…
「ミドリさん、下請けさんに成るのですから支配下の農奴と思えばよいのでは?」
「農奴…ですか。それなら致し方無いです。」
奴隷ではなく、農奴も居るんだな…
そういえば、この世界の農作業現場は見たことがない。
どうも、雰囲気だと奴隷よりも下位カーストのようだが。
アーミル将軍かヴァーミトラに会う時に、ついでに聞いておくか。




