86 戒律?
昨夜は皆ダナイデ様の周囲に寄り添って眠った。森の香りが心地よい。
パーテイー初の長期遠征で、疲れていたのだろう。
「主さま~、はい、採ってきたよーー」
「いつも有難うな、テイルの炭酸水で生き返るわ。」
朝の炭酸水が五臓六腑に染み渡る。
「皆、遠征で疲れただろう。今日は1日お休みにする。自由に過ごしてくれ。」
「では、ご主人様。私は買っていただいた本をゆっくり読ませていただきます。」
「テイルは、屋上でお昼寝するねーー」
「ああ、ダナイデ、すまないが、もし『虹の架け橋』の3人組が来たら風呂にでも入れてやって待たせておいてくれるかな。ミドリもテイルも、『虹の架け橋』の連中嫌っているのでな。」
「お任せください、旦那さま。使える駒に仕上げておきますわ。」
…駒…まあ、ダナイデなら上手く誘導してくれるだろう。
「俺は村に行ってコルストンと世間話してくる。
あと『霞網』用の材料と、櫛も仕入れておかないとな。」
「主さま、一人で行けるの~~」
「ああ、偶には自分で歩くことにするわ。」
ほとんど手ぶらの身一つで、のんびり硫黄地帯を村へと下っていく。
この道を歩いていくのも、久しぶりで懐かしい。
村に入ると最初に来たときと変わらない穏やかなものだ。
「おばさん、また糸を大量に用意してもらえるかな。あと櫛を20枚。」
「ああ、あんた久しぶりだね。今日は一人かい?」
「うん。皆働きすぎだから、今日は休ませているよ。」
「あんた処の奴隷は幸せだねえ。」
「ああ、もう皆、嫁なんだけどね。」
「そうかい、そうかい。それが一番いいよ。」
この世界では、奴隷から嫁にクラスアップするのは普通のようだ。最初に面接した奴隷候補もお見合いみたいな感じだったしな。相性が良ければ嫁になるのは基本コースだったのだろう。
雑貨を仕入れてコルストンの店に行く。
前に来た時よりも、店の雰囲気に落ち着きがない。
「度々お世話になっている、木村伊織だが、コルストン殿はおいでかな。」
「伊織さま、どうぞこちらへ。」
銀行員のような店員さんは覚えてくれていたようだ。
以前入った商談室?に通される。
「お久しぶりです、伊織様。」
「相談したい事があって来たんだが、ザワついているな。」
「ええ。最近の不景気で新規の売り者が増えてしまって、供給過剰なのです。」
「この村の景気は比較的マシのようだが。」
「ココは小さな村なのですが、立地が転移者の現れる地点に最も近いので。それで購入者が多いので他地域からの売り者がよく送られてくるのです。」
「なるほど。だが転移直後の者たちでは高額奴隷は無理だろう。」
「ええ。ですので初見は大抵顔見世だけですね。100人1000人とこなせば、その中から短期間に稼げるようになった転移者がいずれ戻ってきます。」
なるほど、確率の問題か。
俺のような事例はかなり例外のようだ。
「不景気は、やはり唯一神教の収奪が原因なのか?」
「長い目で見るとそうですが、今回の不景気は王国北東で起こっている戦ですね。なにせ、戦はいくら予算つぎ込んでも物資を食い潰すだけで、再生産になんら寄与しませんのでな。主に食料が無駄に消費され、一般人の食品関係の価格が急騰します。困窮者を量産するシステムが戦でもあるわけです。」
なるほどな。軍事行動で大軍が動くだけでも、迷惑になる…と。
「それでも前の戦並に、ほとんど戦死者がなければ、まだマシではないかな。」
「それは当然ですな。戦死者がでれば軍が補充に動きます。一般の働き手を軍に抜かれ続けていたら、程なくして生産も流通も支障をきたしますのでね。」
「商人にとっては、戦は感情的な問題ではなく、直接な経済的問題なわけだ。」
「左様。武器商人ですら、戦は望んでいませんな。彼らにしても、気持ちだけ改良した『新兵器?』を高い金額で買い取って貰うのが一番ですからな。戦が始まってしまうと、安い実用兵器ばかり売れるので逆に儲かりません。」
よしよし、やはり商人と俺達の利害は完全に一致しているようだ。
これなら、コルストンを表に立てて工作できそうだ…
「なるほどな…。…そこでという訳ではないのだが。コルストン、今、俺は結構な量の贅沢品と高級食材を手配できる立場にまで成っている。食材は日持ちの関係もあってジャラランバードで捌く予定だが、珊瑚やべっ甲、それに時々は真珠など、扱ってみる気はないか?ココはジャラランバードよりも唯一神帝国領に近いのでコルストン殿なら伝手も有るだろう?」
「ほう…エフタール王国ではなく、唯一神帝国を的に…ですか。……贅沢品で戒律の厳しい唯一神帝国へ、あえて仕掛けると…。」
「ふっ。この際、戒律はなんの障害にもならないのではないのかな?」
「伊織殿は戒律の実態もご存知でしたか。その通り、無問題ですな。現にすでに唯一神帝国にドワーフの酒を定期的に流しています。戒律では禁酒が建前ですが、戒律なんてものには必ず抜け穴が設けられていますでな。そうでないと、教団幹部も禁酒するハメになりますから。戒律や法律は庶民への縛りであって、上位カーストには適用される事はまずありませぬ。贅沢品も上位カーストに売りつけるのですから、当然無問題。神へのお供えとでも云って、堂々とお下がりを私物化するでしょうな。」
やはりな。司教や司祭のほとんどは、元々背教者である…と。愚直に神に使えるものなどを同列の地位に引き上げれば自分たちの息が詰まってしまう。
「しかし、伊織殿。
その、今下げておられる程の真珠となると、教団幹部も手が出ますまい。」
「これは俺専用の特注だからな。流通させたいのは、もっと普通のものだ。」
「安心しました。国宝級のものでは中々手が出ませぬので。しかし、珊瑚にべっ甲、真珠ですか。いずれも入手困難な海の物産ですな…それを安定供給される…と。…あ、いや、無用の事でした、聞き流してくださいませ。唯一神帝国へ仕掛けるのは我々としても願ったりですので。」
やはり出来るな。…コルストン。
何か当方の仕掛けを疑っても、そこは棚上げして冷静に損得が計算出来ている。
次はジャラランバードだな。
サルートも出来る男なので、まずは当たってみるか。
それとも、魚だと、地元の漁師を味方に付けるのが得策か?
お陰様で、総合評価1000越えました。
ありがとうございます。




