83 柴漬け漁
塩湖方面での布石を終えたので、家路につく。
グリフォンのマンディーも前線にもどって行った。
「また途中で一泊だな…」
「旦那さま、私の森ですから何日でも居て良いのですよ。」
「それも有りですが、そろそろ戦況も動くでしょう。帝国も気になるし。」
そう。末端が銭金で動かないので、唯一神帝国が結局一番面倒そうなんだよな…
「主さま、残念だったねーー」
「ん?…何が?」
「ご主人様の目つきが変わるような、若い女性が居ませんでした。」
おまえら、エフソスもダナイデも何歳と思っているんだよ…
たぶん、マンディーだって相当な年齢だぞ。
ま、マーマナは確かにピチピチだが。
テイルに曳かれてカザーフの森を突っ走る。
夕方の木漏れ日が光の帯を造って幻想的だ。
「ミドリ、テイル。
仮小屋に着いたら常緑樹の若い枝を数本ダナイデに貰って束にしてくれ。」
「ご主人様、箒でも造るのですか?」
「見た目は箒の先の部分だが、エビを捕る仕掛けだ。黒の海とヘルマンド川両方に仕掛けたいので、10束ぐらい欲しいな。」
「主さま、箒なんかでエビが捕れるのーー?」
「ああ、捕れる。箒がエビの家になるんだ。住み着いたところで引き上げればエビも付いてくるのさ。『柴漬け漁』という方法で、元の世界の『四万十川』で実際に俺は見ている。」
そういえば、この世界は漁業がかなり貧弱だな。水棲の魔物が多いからか。逆に言えば、水棲の魔物と和解することで飛躍的に経済力が上がる余地がある…か。
日が暮れる前になんとか仮小屋に到着する。
ミドリとテイルがすぐさま『柴漬け漁』の仕掛け造りに出ていく。
ボンヤリ考えているとダナイデ様が膝を貸してくれる。
…嫁がたくさん居るのも悪くないな…
《 で、伊織。唯一神帝国はどうするのかな? 》
久々にお姉さんが出てきた。
連夜の激闘?鑑賞で出てくる余地が無かったのだろう。
ー お姉さんの思案は当然… ー
《 当然、殲滅あるのみよ。まがりなりにも軍であるオリーミ公の軍勢と違って、唯一神帝国が直に攻めてくるなら素人同然よね。余裕で殲滅できるでしょ。信長さんだって、結局 根切りするしか無かったのよ。伊織ごときが温い事やってる余地無し!! 》
ー ご尤も。動き出したら殲滅しかないと… ー
《 判ってるなら良いわ。エフタール王国軍と違って先送りの余地は無いわよ。戦死すれば天国に召される…なーんて思い込まされている連中、飢えようが目の前で仲間が逝こうが、止まることはないんだからねっ!! 》
…
…
「あの、旦那さま、お供の方が云われていた『信長さん』とは?」
ぷっ…お供…お姉さんのほうが格上なんだけどな…
俺にくっついて来る事でしか出てこれないからお供ではある。
「ダナイデ、元居た世界の戦国時代の輩出した、政戦両略の天才ですよ、『信長さん』は。ほとんどの国王が重農主義だった時代にいち早く重商主義を取り入れて経済力で圧倒して最新式の武器を大量導入し、常備軍を整えて長期の作戦行動を実現して、ほぼ主要地域を制圧しました。」
「そんな人が…」
「彼の凄い所は、宗教に妥協しなかった点ですね。他の領主の多くが、自らも宗教に帰依することで宗教勢力との敵対を回避しました。が信長さんは、断固けじめを付けさせた。信仰は認めるが、政治に一切の口出しを禁じるとね。経済活動も大幅に制限し、従来のような広大な宗教領や利権は次々召し上げます。それは徹底したもので逆らう宗教には殲滅を厭いませんでした。一部の宗教界からは 魔王 などとも云われていたようです。」
「人間でありながら、人間から魔王と云われたのですか…」
「それほどの天才を以ってしても、宗教戦争が起きてしまうと殲滅戦をするしか無かった…そういう事実を、あのお姉さんは指摘したわけです。」
「それで、結局どうなりましたのですか?旦那さま。」
「最終的には信長さんの完勝と言えるでしょう。元居た国では世界でも珍しいほど、現実社会が宗教に影響されない国になりました。」
「旦那さまはそういう処から来られた…でも旦那さまは精霊の私が森を守っているのを否定されませんですね。」
「ダナイデは現実に目の前に現れて、いろいろ相手してくれてますから。もし神とやらが現実に目の前に現れて私と相手してくれるなら、神の存在を信じますよ。現れない限り、誰がどんなに神がどうこう…と噂話しようが、所詮は架空のお伽話です。居るのか居ないのか不明です。蟻のなかにも人間と同じような考える蟻が居る…と、誰かが言っても否定も肯定もできないのと同じですね。」
「あらあら、蟻ですか(笑) では、信長さん同様になされますか?」
「信長さん同様で良いなら、放置しておけば結果は同じでしょう。我々が出来ることはエフタール王国での布教の妨害と、唯一神帝国の者の切り崩しですかね?」
「旦那さまは宗教に中立なのに、布教の妨害は良いのですか?」
「それこそ、本当に神が居るなら俺如きがどう足掻こうが妨害できないでしょう。俺に妨害される程度なら、その神とやらの底が割れるというものでは?」
「あらあら、旦那さまも魔王と呼ばれてしまいそうですわ。」
魔王…か。そこまでは無理にしても、悪魔の囁きとか云われる程度には誘惑して、背教者を量産しないとダメだな。
飲む、打つ、買う を全部用意したいところだが、飲食や贅沢はばらまけても、打つ、買うは難しいか。
…ん…いや、打つが実は一番簡単なのでは?




